絵理は家に残してきた子供のことが気になり、席を立つ二人のあとに続いた。「私も、子供の様子を見に帰らなきゃ」三人が連れ立って立ち上がると、他の母親たちの中にもそれに倣う者が数人現れた。残ったのは、どう見ても夢美に取り入ろうとする面々ばかりだ。夢美はその空気を愉しむように受け止め、あえて何気ない口調でこう漏らした。「うちの昂司がね、もうすぐ黒木グループの本社に戻ることになったの」「本当ですか?どんな役職に就かれるんですか?」一人の母親が身を乗り出して尋ねる。夢美は微笑を浮かべ、わざと答えを曖昧にした。「そうね……きっと、低い役職ではないはずよ」「それはおめでたいですね!ぜひ、旦那様が本社にお戻りになったら、私たちにもご縁をつないでいただけませんか?」相手は探るように機嫌を取ったが、夢美は軽く受け流すだけで、返事をすることもなかった。その一部始終を、直子は黙って観察していた。帰り際、すぐさま紗枝に報告するつもりである。彼女の心には確信があった。たとえ紗枝が啓司と離婚したとしても、夢美より不幸な暮らしを送ることは決してないだろう、と。直子は改めて、紗枝と本当の友人になる決意を固めた。今度こそ自分の見る目に狂いはないと信じて。外に出ると、紗枝と錦子は絵理を先に見送った。運転手を待つ間、錦子が堪えきれずに切り出す。「ねえ紗枝、最近ちょっとした噂を聞いたの。あなた、黒木家の啓司様と離婚したって本当?」紗枝は隠すことなく、静かに頷いた。「ええ、離婚したわ」「どうしてそんなことに?景ちゃんも逸ちゃんもいるし、お腹には赤ちゃんまでいるのに?」錦子は信じられないというように眉をひそめた。紗枝が妊娠中にもかかわらず仕事を続けている理由が、その一言で腑に落ちた気がした。そして心の中で毒づく。啓司も結局、ろくな男じゃない。いや、この世の男なんて、たいていろくでもない。「その話は長くなるから、また時間がある時にゆっくり話すね」紗枝は穏やかにそう言った。啓司の現状を思えば、今は詳しく語らない方が賢明だと判断したのだ。たとえ今、錦子との関係が良好でも、万が一ということもある。「分かったわ」錦子はそれ以上追及せず、代わりに頼もしげに言った。「仕事で困ったことがあったら、私を頼って。今は大したことないかもしれ
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