紗枝はエイリーの言葉を聞き、すぐにタブレットを手に取って試合のページを開いた。そこには確かに、自分の新曲が第二ラウンドに進出したという表示があった。このコンテストは三ラウンド制で、最終ラウンドでは主要プラットフォームにて全曲が公開され、視聴者のクリック数で勝敗が決まる。決勝の結果は、一週間後に発表される予定だった。「見たわ、ありがとう」「今週末、時間ある?」エイリーが急に尋ねた。「家族から聞いたんだけど、今の桃山って、桃の花がちょうど満開らしくてさ。花見に来る人が多いんだって。一緒にどう?」「今週末か......」紗枝は少し考え込んでから答えた。「子供たちとキャンプに行く約束をしてるの」「じゃあ、ちょうどいいじゃない!一緒に行こうよ!」エイリーの声が弾んだ。「俺も一緒に行けば守ってあげられるし。桃山って行ったことある?あそこ一面に桃の花が咲いてて、本当にきれいなんだよ」桃山の評判は聞いたことがあったが、行く機会はなかった。紗枝はふっと笑って、からかうように言った。「あなたが私たちと一緒に行くって......守るっていうより、むしろ私たちがあなたを守らないといけないんじゃない?」有名人のエイリーが観光地に現れれば、ファンに囲まれて動けなくなるのは目に見えていた。「大丈夫!マスクとサングラスで完全装備するから、絶対バレないって!」そう自信満々に言われて、紗枝もそれ以上は断りきれなかった。「......子供たちの意見を聞かないとね」午後五時。逸之が帰宅すると、紗枝は彼の前で景之に電話をかけながら言った。「逸ちゃん、景ちゃん、エイリーさんがね、さっき電話してきて、一緒に花見に行きたいんだって。どう思う?」電話の向こうから、まったく正反対の反応が同時に返ってきた。「いいよ!」と景之。「やだ」と逸之。逸之は唇を尖らせたまま言った。「僕、パパと行きたい」景之は反論した。「エイリーさんと花見に行くの、いいと思うよ。前も一緒に遊んでくれたじゃん」普段は意見が一致する双子が、今回は珍しく真っ二つに分かれた。紗枝は困ったように笑みを浮かべていたが、ちょうどそのとき、ドアの外から、口論の声が聞こえた。紗枝が立ち上がって玄関へ向かうと、そこでは仕事から帰ってきた梓が、待ち構えていた鈴と鉢合わせにな
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