All Chapters of 億万長者が狂気の果てまで妻を追い求める: Chapter 841 - Chapter 842

842 Chapters

第841話

紗枝はエイリーの言葉を聞き、すぐにタブレットを手に取って試合のページを開いた。そこには確かに、自分の新曲が第二ラウンドに進出したという表示があった。このコンテストは三ラウンド制で、最終ラウンドでは主要プラットフォームにて全曲が公開され、視聴者のクリック数で勝敗が決まる。決勝の結果は、一週間後に発表される予定だった。「見たわ、ありがとう」「今週末、時間ある?」エイリーが急に尋ねた。「家族から聞いたんだけど、今の桃山って、桃の花がちょうど満開らしくてさ。花見に来る人が多いんだって。一緒にどう?」「今週末か......」紗枝は少し考え込んでから答えた。「子供たちとキャンプに行く約束をしてるの」「じゃあ、ちょうどいいじゃない!一緒に行こうよ!」エイリーの声が弾んだ。「俺も一緒に行けば守ってあげられるし。桃山って行ったことある?あそこ一面に桃の花が咲いてて、本当にきれいなんだよ」桃山の評判は聞いたことがあったが、行く機会はなかった。紗枝はふっと笑って、からかうように言った。「あなたが私たちと一緒に行くって......守るっていうより、むしろ私たちがあなたを守らないといけないんじゃない?」有名人のエイリーが観光地に現れれば、ファンに囲まれて動けなくなるのは目に見えていた。「大丈夫!マスクとサングラスで完全装備するから、絶対バレないって!」そう自信満々に言われて、紗枝もそれ以上は断りきれなかった。「......子供たちの意見を聞かないとね」午後五時。逸之が帰宅すると、紗枝は彼の前で景之に電話をかけながら言った。「逸ちゃん、景ちゃん、エイリーさんがね、さっき電話してきて、一緒に花見に行きたいんだって。どう思う?」電話の向こうから、まったく正反対の反応が同時に返ってきた。「いいよ!」と景之。「やだ」と逸之。逸之は唇を尖らせたまま言った。「僕、パパと行きたい」景之は反論した。「エイリーさんと花見に行くの、いいと思うよ。前も一緒に遊んでくれたじゃん」普段は意見が一致する双子が、今回は珍しく真っ二つに分かれた。紗枝は困ったように笑みを浮かべていたが、ちょうどそのとき、ドアの外から、口論の声が聞こえた。紗枝が立ち上がって玄関へ向かうと、そこでは仕事から帰ってきた梓が、待ち構えていた鈴と鉢合わせにな
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第842章

紗枝は足を止め、警備員に目で合図を送った。それだけで、鈴を拘束していた手が放された。「何を言っているのか分からないけど、私の世話をしたいというなら反対はしないわ。でも、お客様に失礼な真似はしないでちょうだい」その目には、薄氷のような冷たい光が宿っていた。鈴が初めて黒木家を訪れたあの日。陰で自分を嘲笑い、そして池に突き落とし、命の危険にさらした。そんな過去を、忘れるはずがない。たとえ表面上は受け入れるふりをしても、心の底では、過去の仕打ちを一つひとつ返すつもりだった。時間をかけて、丁寧に――鈴もまた、紗枝が自分に仕返しを企んでいることは分かっていた。けれど、ここで引き下がるわけにはいかない。「お義姉さん......さっきは、ついカッとなっちゃって......これからは、ちゃんと気をつけるわ」「そう、なら入って」紗枝に続いて室内へ入る鈴は、手のひらに爪を食い込ませるほど力を込めていた。啓司が紗枝と別れさえすれば、自分が黒木家の奥様に収まる日が来る。そのときこそ、この女を地獄に突き落としてやる。鈴は心の中でそう誓っていた。ダイニングでは、逸之と梓がすでに食器を並べ、ご飯をよそっていた。鈴が席に着こうとしたとき、紗枝が軽く制した。「世話をするって言ったわよね?仕事があるなら、私たちが食べ終わってからにして」鈴は途中でかがめた腰をぴたりと止め、そのまま無言で横に立つしかなかった。先ほどの取っ組み合いのせいで、顔はじんじんと痛み、頭もくらくらしていた。梓はその様子を見て、すぐに鈴が啓司の親戚だと察した。けれど特に驚きもせず、何も言わなかった。ここは広い別荘。もう一人増えたところで、透明人間として扱えばいいだけだ。「梓、食後に薬を塗ってね。救急箱は物置にあるわ」紗枝の言葉に、梓は軽く頷いた。「うん」逸之はというと、食事中ずっと浮かない顔をしていた。エイリーがキャンプに参加すると聞いて、すっかり気分が沈んでしまったのだ。本当は、パパを誘ってママと二人きりにさせて、少しでも仲を深めてもらう作戦だったのに。「逸ちゃん、元気ないけど、どうしたの?」梓に声をかけられ、逸之ははっとして笑顔を作った。「ううん、僕、すごく楽しいよ。だってあさって花見に行けるもん。ただ、ちょっと残念なのは......僕と、お兄
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