All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 2161 - Chapter 2170

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第2161話

麗華は言った。「……あなたの口からは、息子の良いところが一つも出てこないのね」理仁は長男であり、祖父母の傍で育った。当時、麗華は初めて母親というものになったので、子供をどう世話すればいいのかわからなかった。義父母が自ら世話をすると買って出てくれたので、麗華は気楽でいられた。夫の栄達は結城グループを引き継いだばかりの頃でとても忙しかった。彼女もよく夫に付き添って会食や接待に行っていた。義父母が長男を世話してくれているのも、理仁を結城家の将来の後継者として見ていたからだ。もちろん、理仁は祖父母に育てられたものだから、自然と彼らの距離は縮まり、祖父母の言うことをよく聞くようになった。やがて祖父が亡くなったので、理仁に言うことを聞かせられるのは祖母だけになった。だから、母親である麗華は、理仁に指図することができないのだ。しかし、義父母は教養の高い人たちだから、理仁にしろ他の子供たちにしろ、みんなにきちんと教育を施してくれた。麗華も、結城家に嫁に来た他の夫人たちも、母親という肩書きだけで何もせずに楽ができた。「別に良いところがないなんて言ってないよ。ただ、女の子ほど可愛くないってだけだ」麗華は夫をたしなめた。「あなたったら娘なんていたかしら?どうして娘のほうが可愛いだなんてわかるのよ?結城家は女の子が生まれない呪いでもかけられてるでしょ。私があなたと結婚して、三人も生んだっていうのに、一人も女の子が生まれなかった。夢にまで娘がほしいと見たのに。たくさん女の子用のスカートやお洋服を買ったのに、全部他の人にあげちゃったわよ」栄達は笑って言った。「もしかしたら、四人目を頑張っていたら娘だったかもしれんぞ」「四人も男だったら恐ろしいわ」栄達「……」それもそうだ。結城家にはもう何代にもわたって女の子は生まれていない。「孫に期待しよう」麗華はため息をついて、アルバムを閉じた。「でも、いつになったら孫に会えるかわからないわ。唯花さんの前では言えないし。あの二人が今不在だから言えるけど。理仁が結婚適齢期になって、彼が結婚するのをまだかまだかと待ってたわ。結婚したら孫娘ができないかわくわくしてた。今は、男の子でも女の子でもいいから、ただ孫が生まれるだけでいいと思ってる」「お前は何を心配しているんだ。理仁も唯花さんだ
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第2162話

栄達と麗華は二人とも大喜びで尋ねた。理仁は頷いた。「音濱岳邸にいる時、唯花が吐いたんだよ。酒見先生に脈を見てもらって、彼女は妊娠している可能性が高いって言ったんだ。それで急いで唯花を連れて帰ってきた」「本当なのね、それはよかった、本当によかったわ!」麗華はとても喜んで夫を抱きしめて笑った。「あなた、私おばあちゃんになるのよ」栄達も非常に嬉しそうだった。次の瞬間、麗華は夫を押しのけ、さらに唯花を支えて車から降ろそうとしていた理仁までも横に押しやった。彼女は慎重に唯花の体を支えて車から降ろさせた。唯花はかなり恥ずかしかった。「お義母さん、私は本当に大丈夫ですから。疲れていません、ぜんっぜん疲れていないですからね」彼女は飛行機に乗っている時眠たくなって、ただ寝たかっただけだ。それなのに、理仁ときたら、どうしても疲れているのだと言い張る。それで彼女を抱っこして飛行機から降ろした。それには唯花に何かあったのではないかと、みんな驚いてしまった。今、姑のこの慎重な態度は理仁に引けを取らない。「妊娠したばかりでまだ不安定な時期よ。それなのに何時間も飛行機に乗って、あんなに遠いところから帰ってきたのだから、疲れているに決まっているわ。お義母さんが支えて一緒に中に入るわ。いえ、理仁に抱きかかえてもらいましょう」麗華はあまりの喜びに、一体何をすればいいのかよくわからなくなっていた。彼女は唯花を支えたいが、息子に抱きかかえさせて家に入るほうがもっと良いとも思った。それで、彼女はまたさっき横に押しのけた息子を引っ張り戻し、彼に言った。「理仁、唯花さんを抱っこして中に入るのよ。ゆっくりね」理仁「……」彼はさっき母親から突然横に押しのけられて呆然としていた。何か自分が間違ったことをしたのだろうかと思っていたのだ。そしてその状態から我に返る前に、また母親に引き戻されてしまった。一番喜ぶべきは、このもうすぐ父親になれる自分ではないのか?どうも母親のほうが自分よりも喜んでいるように見える。それから十分後。「唯花さん、はい、お水」「唯花さん、果物でも食べて」「唯花さん、スープができたよ」「唯花さん……」強制的にソファに横にさせられた唯花は、結城家の年配者たちにガチガチに囲まれてしまった。飲み物でな
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第2163話

唯花が妊娠した!唯月は理仁のさっきの言葉の意味を理解してから、喜びの大声をあげた。彼女はこの時、息子と一緒に神崎家のリビングにいた。詩乃が陽に会いたくなったのだ。陽の幼稚園が終わってから、迎えに行き、唯月はそのまま神崎家に来て、ここで夕食を済ませて一晩泊まる予定でいた。明日は神崎家から陽を幼稚園に送るつもりだ。そこへまさか、妹の夫からおめでたい連絡を受け取ったのだ。「どうしたの?」唯月が大声で叫んだので、詩乃とその夫の航、それから理紗も陽も唯月を見ていた。「良い知らせですよ」唯月は笑って言った。「おば様、おじ様、それに理紗さん、とってもおめでたいニュースがあるんです。唯花が妊娠したそうです。今結城さんから連絡を受けました」彼女がそう言ってすぐに詩乃の携帯が鳴り出した。それは玲凰からだった。詩乃は息子からの電話を取りながら笑顔で唯月に尋ねた。「妊娠確定なの?」「母さん、確定してるに決まってる。結城社長いわく、酒見先生が脈をみてくれたらしい。彼女は名医の直々の弟子だし、彼女の医術の腕は話すまでもないだろ。同じく名医の称号を受け継ぐだろう人だ、妊娠しているかどうかは一発で分かるだろうし、絶対間違いないって」玲凰はさっき母親が唯月ではなく自分に尋ねたのだと勘違いし、喜んだ様子でそう返事した。詩乃は喜びににやけてしまう顔を戻すことができず、息子に尋ねた。「あなた、どうして知ってるのよ」「結城社長から報告があったんだよ。あいつが母さんに伝えてくれって頼んできたんだ。嬉しすぎて母さんの電話番号を思い出せないから、こっちにかけてきたんだと」詩乃は笑って言った。「彼はあなたの電話番号なら覚えていたのね」玲凰は言った。「あいつと俺は長年ライバルだったからな。とっくの昔にお互いの電話番号なんて暗記済みだ。母さん、これは特大ニュースだぞ、それもとびっきりの良い知らせだ。これからは唯花さんに子供ができないんじゃないかって心配する必要はないぞ。不妊なんかじゃなかったんだよ。あいつも夫婦ともに健康そのものだって言ってただろ。ただ、子供との縁がまだ来てなかっただけで、今その縁が来たんだ。ほら、おめでたの知らせが飛び込んできた」玲鳳は母親がずっと唯花は不妊症なのではないか心配していたことを知っていた。実を言うと、彼自身も
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第2164話

「陽、おばちゃんのお腹には妹がいるって言わなくちゃ」唯月は息子にそう教えた。陽は大きな瞳を輝かせて、幼い声で言った。「なんで、妹だって言うの?」彼は本能的に叔母が従弟を生んでくれると思ってしまった。「妹が欲しいって言ってなかった?よくおばちゃんに女の子を生んでって頼んでいたじゃない」陽は言った。「瀧君にはいとこの妹がいるから、ぼくだって欲しいんだ。じゃ、ぼくおばちゃんに、弟はいらないから妹が欲しいって言うね」「どちらでも良いわ」詩乃は笑って言った。「唯花ちゃんは第一子よ、息子さんでも娘さんでもいいわ。子供が元気に生まれてきてくれるだけでいいの。唯月さん、今から琴ヶ丘へ行きましょ。いろいろ買って行かなくちゃ」「お義母さん、唯花さんは結城社長と音濱岳にいるのではないですか?隣の桐生さんも帰ったって、姫華ちゃんもできるだけ間に合えば行くと言っていましたよ。善さんの甥御さんと姪御さんが今日は百日祝いをするからって」理紗は詩乃にそう伝えた。「そうだったわ、なら、彼らが帰ってきてからまた伺いましょ」理仁はあまりに嬉しすぎて、みんなに自分が父親になる報告だけして、自分は唯花を連れてすでに星城に戻っていることを伝えるのを忘れていた。だからみんな理仁と唯花はまだ音濱岳にいると思い込んでいた。この時、執事が外から入ってきた。「旦那様、奥様、黛様というお嬢さんが奥様にお会いしたいとお見えですが」その言葉に、その場の笑い声は消えた。黛というお嬢さん?柏浜の黛家だろう。唯月は詩乃を見つめた。詩乃は冷たい声で言った。「唯月さん、ちょっと誰が来たのか確認してもらえないかしら。凪さん以外とは誰にも会うつもりはないの」先週、詩乃は唯月を連れて柏浜に赴き、裏で黛家の過去について聞きまわった。だから黛家の人間と接触はしていない。一週間かけて調査し、得られた結果は息子が調査したのと全く同じだった。黛一族は多いが、詩乃はただ凪だけに好感を持っている。「伯母様、ちょっと見てきますね」唯月は息子を下におろした。しかし、陽は彼女と一緒について来たので、息子と一緒に外に出て行った。神崎家の門の前に一台のタクシーが停まっていた。唯月は門まで行くと、タクシーの後部座席に座っている人物がいくつかの手土産を持って降り
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第2165話

「はじめまして、私は内海唯月と言います」唯月は大らかな態度で凪に右手を差し出した。凪はサングラスと黒いマスクをつけていたが、唯月は相手が黛凪だとわかった。それは凪が彼女自身と似ているからだ。二人は顔だけでなく、体格も幾分か似ている。内海唯月だと聞いて、凪は急いで右手を差し出して握手をした後、マスクとサングラスをはずしてから言った。「内海唯月さん、はじめまして。私は黛凪と申します」唯月は微笑んで言った。「黛さん、どうも」それから息子にも凪に挨拶するように言った。凪は陽のほうを向くと腰をかがめて、彼の頭を撫で、褒めた。「可愛くて賢そうなお子さんですね。内海さんの息子さんですよね」唯月は頷いた。「ええ、そうです。名前は『陽』って言うんです」「陽君、はじめまして」陽は幼い声で答えた。「はじめまして、こんにちは。おねえちゃんはぼくのおかあさんに似てるね?」凪は笑って言った。「私と陽君のお母さんには縁があるの、だからちょっと似ているんだよ。陽君と私もちょっと似ているわ」「ぼくとおかあさんが似てて、おねえちゃんとおかあさんが似てる。だからぼくとも似てる」凪はまた彼の頭を撫でて賢いと褒めた。すると凪は立ち上がって唯月に言った。「内海さん、突然お邪魔して申し訳ありませんが、神崎家の奥様はいらっしゃいますか?」「伯母様でしたら、中にいますよ。黛さん、どうぞお入りください」唯月は凪に手招きして入るように促し、一緒にリビングへと向かった。中に入ると、凪はソファに座っている詩乃の姿がすぐに見えた。「伯母様、黛凪さんがいらっしゃいました」唯月は詩乃のほうへ歩いていって伝えた。そして凪も詩乃の前までやって来て、丁寧に挨拶をした。「神崎夫人、はじめまして。私は黛凪と申します。突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」詩乃は顔を上げて、凪をじろじろと見つめた。柏浜では遠くから凪の姿を何度か見ていたが、近くまで行って話しかけることはなかった。凪と唯月の顔は似ていて、凪が唯月の姉妹だと言われたらみんな信じるくらいだ。「黛さん、どうぞお座りください」詩乃は凪に座るように言った。唯月は凪に一人掛け用のソファを勧めた。凪はそれから航と理紗にも挨拶をした。どうやら、凪は神崎家全員の資料には目を通して
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第2166話

詩乃はすでに以前、凪を見たことがあるとは教えず、この時初対面のふりをして接した。凪は詩乃を見つめながら、遠回しではなくストレートに告げた。「私は柏浜にある黛家の娘です。でも、一年前に黛家に戻ってきたばかりで、以前からいた若葉という子のほうが偽物だったんです。実は、黛家の過去を聞いたことがあり、神崎夫人も旧姓は黛だと知りました。そして、今日は心の中にある疑いを確かなものにするために、お邪魔させていただいたわけです」詩乃は返事はせず、凪の話が終わるのを待っていた。「私は、神崎夫人と一度血縁関係を確かめるために、DNA鑑定をさせていただき、その答えを出したいのです」もし、詩乃が凪の伯母の娘であるなら、凪と詩乃は従姉妹関係ということになる。二人はDNA鑑定をすることにより、血縁関係があるのかどうか確かめられる。詩乃はまさか凪が自らやって来て、このようなことを言うとは想像もしていなかった。凪は引き続き話した。「私と母も鑑定をしたことがあります。結果はここにあります。私と神崎夫人がDNA鑑定をして結果を比べれば、あなたが黛家出身者であるかどうか確かめることができます」実際は詩乃と和子が鑑定した方がもっといいが、今凪としかできないのは仕方ない。少なくともこれで詩乃が凪と同じ一族であると証明できる。詩乃と凪の鑑定結果で、間接的に詩乃の母と和子が姉妹だということを証明できる確率が高い。詩乃は静かに凪を見つめていて、暫くしてからやっと尋ねた。「黛さんはおうちの方に黙って、こっそりここに来られたのですね?今自分が何をしているのかはっきりわかってのことですね?あなたがこうすると決めたからには、その影響は大きなものになります。それをよくわかったうえでのことですね?」凪が自分と血縁関係があるか鑑定したいという提案には、もちろん詩乃は喜んで受けるつもりだった。しかし、凪はどうあっても黛現当主である和子の実の娘。将来、黛家の当主になるかもしれない凪がこのようにすれば、その座を失うことにも繋がりかねない。詩乃は凪が本気でそうしたいと思っているのか、それとも他意があるのか見極めたかった。凪は実の両親のもとで育っていないが、体には黛家当主の血が流れている。その遺伝子を持つ彼女が、今後、和子のような残酷な性格にならないとは言い切れない。凪は素直に詩乃
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第2167話

「神崎夫人、私が何を企んでいるか探る必要はありませんよ。私は確かに、あなたと私には血縁関係があるのかどうか、知りたいんです」凪は詩乃の気持ちを理解していた。凪の実の母親に関する噂を聞いただけでは、凪と詩乃は敵対関係であるはずだからだ。それなのに、凪が詩乃にDNA鑑定をしようと提案してきたのだから、詩乃が疑って当然だ。「もし、あの噂が本当だとしたら、黛さんはどうするつもりなんです?」詩乃は凪に尋ねた。それに対し、凪は黙っていた。凪は黛家で育っておらず、戻って来てから一年あまりしか経ってないが、和子の娘であることには変わりない。家族に牙を向けるというのは、言葉では簡単だが、それを本当に実行できる人はどれだけいるだろうか?暫く経ってから彼女は答えた。「神崎夫人のほうで証拠を集めたら、どうするかはお任せします。私はただ、あなた方とは敵対しないという保証しかできません。母がやったことに値する罰を受けることになったとしても、私はあなた方を恨むことはこれっぽっちもありませんから」凪にできることと言えば、ただ詩乃と敵対しないということだけだ。詩乃が和子を刑務所送りにするなら、凪もそれを邪魔しようとはしない。もし、噂が本当であれば、母親はその罪を償ってしかるべきことだからだ。「黛さん自ら自分の母親を警察に突き出すのはとても辛いことでしょうね。だけど、お母様には自首するように説得することもできますよ」凪はまた少し黙っていてから言った。「噂が本当だと証明できれば、母には自首するよう勧めるつもりでいます。もし嫌がるようであれば、私が持つ証拠をあなた方にお渡ししますので、どうするかはそちらで決めてください」「噂が本当であれば、黛当主は本当に冷酷な人間で、情のかけらも持っていない非情な人間だとしか言えませんね。そのような残酷な人に、あなたのような真実を見極めようとする正義感溢れる娘さんがいるなんて。あなたは本当に大した人ですよ」凪は苦笑し、自嘲するように言った。「きっと、私が小さい頃から彼女の傍で育っていないからでしょうね。娘と母の情はそんなに深くないから。ただ、真相を突き止めたい。私が得るべきないものは欲しくない。ただそれだけです。黛一族は本当に荒れた一族ですから」凪はやはり自分が作った会社を社長として経営するのが好きだった。自分で
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第2168話

黛家の息子は黛グループを継ぐことはできないことになっているが、長男は和子にとって永遠に実の息子であることに変わりない。だから、息子を徹底的に抑え込むような真似は和子にはできないのだしかし、一族の当主として、彼女は当主が持つすべての権力を守りつつ、それを継いでいかなければならないので、他の者が当主に挑もうとするのを断じて許してはならない。たとえ自分の手で狼のような脅威のある子供が育ったとしても、その手綱を自分の手でしっかりと握っておかなければならない。凪は三人の兄に対しても家族の情は持ち合わせていない。彼らは凪のことを妹として見ていないからだ。兄や嫁たちからすると、若葉こそが黛家の可愛い妹だ。彼らは若葉と手を組んでわざと凪の足を引っ張り、どん底に落とそうと、様々な策を講じて妨害してくる。だから、凪は一切のためらいなく、兄や嫁に仕返しできる。ただ、兄たちには少しばかり会社で力を持っているので、凪が跡取りになった後に彼らを清算するのには心身共に苦労するはずだ。もし自分が黛グループを継ぐ必要がないのであれば、こういった負の部分は見ぬが仏なのだ。言ってしまえば、このような状況に対峙すると、凪は逃げ出したくなる。黛家は、柏浜にある大きな一族の中では下のほうで、世代ごとにどんどん落ちぶれていっている。もし、凪がそんな黛家を繁栄させることができなければ、おそらく一族は柏浜では上流社会から圏外にランクダウンするはずだ。詩乃の妹、つまり唯月姉妹の母親はすでに十数年前に他界しているから、彼女の存在は考える必要はない。唯月と唯花については、唯花は結城家の長男の妻であるから、きっと柏浜まで来て黛一族を継ぐことはないだろう。唯月のほうは自分の飲食ビジネスに精を出し、詩乃の娘である姫華もきっと黛家を継ぐことはない。姫華にはそのような気持ちが一切ないのだ。この三人の中で、もしかすると、ただ唯月だけが黛家を率いる可能性があるだろう。凪は思考を巡らし、唯月を見るその眼差しはまるで救世主を見るかのようだった。唯月は凪の視線を感じて、軽く会釈した。「神崎夫人のお気持ちはしっかりとわかりました。この件をはっきりさせるために尽力すると誓います。では、DNA鑑定の件ですが、今から関係機関に行ってもよろしいでしょうか?少ししたらもう柏浜に戻らなくてはいけ
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第2169話

凪が指先を少し傷つけて数滴の血をとったとしても、その傷は浅いから家族から気づかれることはない。家族から重視されていない彼女が少しくらいの傷をつくったところで、誰からも気づかれない。詩乃は優しい声で言った。「黛さんもそんなに焦らなくたって、せっかく来たのだから食事くらいしていってはいかがです?」「ありがとうございます。ただお気持ちだけ受け取っておきますね。夜十時になるまでには家に帰らないといけませんので」詩乃は少し黙ってから言った。「それなら、無理にとは言いませんよ」詩乃は執事に果物ナイフを取りに行かせて、それを凪に渡すように合図した。それから彼女には使い捨てのコップも渡した。凪はナイフを手に取ると、指先に突きさした。たらりと鮮血が流れ出てくると、すぐに使い捨てのコップで受け止めた。数滴入ってから彼女は手で傷口を押さえた。一切迷いなくこのようなことをする彼女を見て、詩乃は凪が肝の据わった人間だとわかった。今見てみると、凪が黛家の中で最もまともな人間でよかった。そうでなければ、このような人が敵に回ると、非常に頭を悩ますだろう。唯月は絆創膏の箱を持ってきて開けると、凪の傷口に貼ってあげた。「内海さん、ありがとうございます」「どういたしまして」凪は自分の血が入ったコップを詩乃の前に置き、言った。「神崎夫人、DNA鑑定をするなら、これくらいの血で足りるでしょうか?」「十分だと思うわ」詩乃は唯月に頼んでラップを持ってきてもらい、コップにしっかりと封をした。後で凪の血を持って鑑定できる病院に行くことにした。「黛さん、どうもありがとうね」詩乃は改まってお礼を言った。凪は笑った。「それはこっちのセリフですよ。私のことを信じてくださってありがとうございます。夫人、それではもう時間がないので、夕食のお誘いはお断りしてこれで失礼します。今後もし機会があれば、お食事にお誘いしますね」「唯月さん、黛さんをお見送りしてもらえるかしら」凪が時間がなくもう帰ると言うので、詩乃も引き留めることはせず、唯月に彼女を見送らせた。唯月は頷き、立ち上がって見送りにいった。凪はまたサングラスと黒いマスクをつけて、唯月と一緒に出て行った。「黛さんはどうやって帰るつもりですか?」唯月は歩きながら尋ねた。「事前に飛行機のチ
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第2170話

詩乃は唯月が凪を見送りに出て行くと、長男の玲凰に電話をかけた。彼が出るとすぐに言いつけた。「さっき黛凪さんが来られたわ。彼女のことを観察して、星城から離れたら、彼女がここに来た痕跡は全て抹消するのよ」玲凰は母親にどうしてそんなことをするのか尋ねず、すぐに返事した。「母さん、わかったよ、任せて」「仕事が終わったら早く帰って理紗さんに付き添いなさいよ」「はいはい」それから詩乃は電話を切った。凪が神崎家を訪問し、何を話し、何をしたのかなど、今周りからチヤホヤされている唯花は知らなかった。彼女は今琴ヶ丘の全員からもてはやされていた。夜九時、唯花が理仁との寝室に戻ると、彼はようやく彼女の傍に近づくことができた。「唯花」理仁は唯花より一足先に部屋に戻っていた。この夫婦が帰ってきて唯花の妊娠がわかると、結城家の年配者たちから囲まれてあれやこれやと騒がれた。理仁がいなくても彼らはどうでもよく、彼が唯花の隣に座っても、他の先輩方に隅の方へ追いやられてしまったのだ。そのようなことが繰り返されて、彼はどうしようもなく、先に部屋に戻ってみんなからチヤホヤされる妻の帰りを待っていた。ドアの開く音が聞こえた瞬間、彼は唯花を出迎えた。唯花が入ると、理仁はすぐに愛妻を胸に抱きしめた。大切な妻を懐に包み込み、理仁は両腕の力を強め、満足そうにため息をついた。「ようやく俺の奥さんがここに戻ってきた。子供ができたのは、俺の功績でもあるってのに、母さんたちは俺を隅のほうへ追いやったぞ」理仁坊ちゃんは不満があるようだ。唯花は彼の懐に包まれ、不満を訴える彼の言葉を聞き、笑って言った。「そんなふうに悲しまないの。私だってみんなに囲まれて身動きできずに逃げ出したかったのよ。あんなに熱烈に囲まれたらたまらないわ」理仁は彼女を抱き上げ、中へと進み彼女を大きなベッドの上に横たわらせると、彼女の顔にキスをした。「慣れればどうってことないさ。ばあちゃんが知らせを受けてすぐに帰ってくるって。うちに引っ越してきて俺を監視するために一緒に住むとか言ってたぞ。それにしても、ばあちゃんが俺を監視してどうするんだ?様子を見守るべきは君のほうだろう?」唯花は笑って、彼のイケメン顔をつねった。「あなたじゃなくて私が妊娠してるのよ、バカね。私は妊娠初期だから、でき
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