All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 491 - Chapter 500

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第491話

「ジンジャーティーも作ったんだ。時間がないなら、タンブラーに入れるから一緒に店に持って行って飲んでくれ」唯花は少し意外そうに彼を見つめた。彼が彼女のためにわざわざジンジャーティーまで作ってくれていたなんて。理仁はタンブラーをさっと水洗いし、作っておいたジンジャーティーをその中に入れて、それをまた袋に入れてから彼女に手渡した。「ちゃんと飲んでね」唯花はそのタンブラーの入った袋を受け取り、じいっと彼を見つめてから言った。「行ってきます」それだけで行ってしまった。理仁はその場に立ったまま彼女が出かけるのを見送っていた。おばあさんは彼に「彼女を送ってあげないのかい?」と聞いた。「彼女は出口がどっちかくらいわかってるだろ」おばあさん「……」さっきまで彼が進歩したと褒めようと思っていたのに、結局はまたがっかりさせられてしまった。こいつ、本当に……呆れて言葉も見つからない。「ばあちゃん、彼女のさっき俺を見つめるあの目、たぶん、ばあちゃんがここにいなかったら、きっと俺にキスしてくれたぞ」おばあさん「……」理仁は残念そうにおばあさんの隣に座り、祖母と孫二人で黙々と朝食を食べた。「唯花さん、厚めのコートは着て行かなかったみたいだけど」おばあさんは突然そう言った。理仁は淡々と言った。「彼女に後で持って行くよ」おばあさんは彼がちゃんと話が通じるようになって大変満足した。唯花は急いで出かけたが、姉に電話をするのは忘れなかった。陽の状況を尋ね、姉が会社を休んだと知って、姉の家には行かず、直接店に行った。すでに生徒の登校時間が過ぎた時間だった。彼女はお店を開いた後掃除をした。外は雨が降っているので、店の外には看板やラックなどは置かず、店の中にそのまま置いていて、少し中が狭く感じた。彼女は羽根はたきを持って、本棚のホコリを落とした。数日後には高校生たちは冬休みを迎える。彼女の本屋は基本的に店を閉めて年越しの準備ができる。「唯花さん」聞きなれた声が後ろから聞こえてきた。唯花が後ろを振り向くと、まず目に飛び込んできたのは鮮やかな薔薇の花束だった。その花束を抱えていたのは金城琉生だった。暫くの間彼に会っていなかったら、琉生は少しやつれたようだった。ヒゲも綺麗に剃っておらず、以前のように太陽みたいな男の
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第492話

琉生は辛そうに言った。「唯花さん、あなたが結婚していることはわかってます。だけど、旦那さんとは契約結婚なんでしょう。あなた達はいつか離婚するんだ。俺はあなたが好きです。唯花さん、俺はずっと前からあなたを好きだったんですよ。今は俺のこと、受け入れてもらえないってことはわかってます。俺だってあなたのところに行ったらだめだって、自分を抑えたかったですけど、我慢できません。暇があるとすぐにあなたのことを考えてしまって、頭の中はあなたの声と笑顔でいっぱいです。唯花さん、ただあなたに、俺はあなたを愛してるってわかってほしいだけです」彼はまた花束を唯花の前に差し出し、じいっと彼女を見つめた。「唯花さん、俺、あなたがいつか振り向いてくれるのを待っていてもいいですか?」明凛は彼によく言い聞かせたし、警告もした。それでも琉生はここで諦めることはできなかった。彼は心の底から唯花のことが好きで好きでたまらないのだ。彼も自分が唯花を好きになった時、すぐに彼女に告白しなかったことを後悔していた。もし告白していたら、もしかしたら彼女は知らない男とスピード結婚するという道は選ばずに、彼が大人になるのを待ってくれていたかもしれない。唯花は手を伸ばしてその花束を受け取り、琉生の横を通り過ぎて、その花束を直接店の入り口にあったゴミ箱へ捨ててしまった。そして振り返り琉生に言った。「金城君、自分で出て行く?それとも私に箒で追い出されたい?」「唯花さん!」琉生は悲痛な声を上げた。「俺にそんな冷たい態度取らないでくださいよ。以前はこんなんじゃなかった。以前はずっと俺にとても優しくしてくれましたよね。それなのに、今みたいに冷たくなって、まるで尖ったナイフを体に突きつけられているみたいだ。俺、すごく傷つきました。唯花さん、俺のどこがスピード婚相手に及ばないんですか?俺たちは知り合ってもう十数年経ちます。お互いよく知っている仲なのに、どうして俺を選んでくれないんだ!」明凛は彼に、唯花がどうして彼を選ばなかったのか分析して伝えてある。それは彼女がずっと彼を弟としてしか見ていないからだった。しかし、琉生はまったく聞く耳を持たない。彼は唯花の弟になんかなりたくなかった。彼は彼女の夫になりたいのだ。彼女のたった一人の男に。「私は昔からあなたのことは弟として見てきたか
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第493話

「金城君、私は今夫がいるの。私は彼と結婚しているのよ。確かに私と彼はスピード結婚だけど、でも、今お互いのことを好きになってきたの。私は夫を裏切るようなことはしないわ。それなのにあなたが独りよがりに、私と夫の間に割り込んできて、彼を誤解させて私たちを喧嘩させようとするっていうなら、私とあなたの過去はなかったことにさせてもらうわ。それにそんなことになれば一生あなたを恨み続けて、本当に仇としてあなたを見るわよ」琉生の血の気が引いていき、唯花はため息をついた。彼女は自分が一体いつ、気づかないうちに好きでもなくしつこい人間に気に入られてしまったのか、まったくわからなかった。彼女も言っていたが、彼女がもし金城琉生の自分に対するそんな期待を知っていたら、死んでも絶対に金城琉生には優しくなどしなかったのだ。彼女と明凛は長年の親友で、明凛との交友関係があり琉生とも知り合いになった。彼はずっと彼女のことを「姉さん」と呼んでいたし、彼女は彼よりも3歳年上だ。それでずっと姉としての役でいたのである。だからこんなことになるとはまったく……「金城君」唯花の表情は少しだけ柔らかくなり、言った。「金城君、あなたは太陽みたいにキラキラした男の子だわ。でも私たちはお互いに相応しい相手じゃない。お姉ちゃんから離れてちょうだい。お姉ちゃんも今後あなたには会わないって約束するから。時間と物理的な距離を保って落ち着いた頃には、あなた自身もきっと実は私じゃなきゃいけないわけじゃないって気づくはずだから。諦めて。あなたは何かを失うわけじゃないの、新しい人生がまた始まるのよ。そこからようやくあなたの本当の愛が見つかるわ。金城君、お姉ちゃんのことを好きになってくれてありがとう。あなたにはチャンスをあげられないことを許してちょうだい。だって私は夫のことを愛しているから。一生、彼から離れていかない限り、私は彼から離れるつもりはないわ。私の心は狭いのよ。彼が私の心の中にいるから、他の男性なんて入る隙間がないの。それから、今後は今日みたいなことは絶対にしないでちょうだい。もし次があれば、私は本気で箒を持ってあなたを追い出すわよ。その時は完全に関係を断ち切って、一生会うことはないからね!」琉生は体をふらつかせた。彼は唯花がこんなに残酷だとは思っていなかったのだ。彼女の言葉がど
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第494話

彼らは結婚当初、お互いになんの感情も持っていなかった。まったく知らない相手との交際0日婚なのだ。だから、彼らの結婚は他とはまったく違うので非常に気をかけて生活していかないと、感情が生まれないし一生を共にすることは難しい。唯花は車を運転して行った。琉生も車でその後を追いたかったが、店には彼以外誰もいなかったので、追いかけるのを諦め、唯花の代わりに店番をすることにした。唯花はちょうど高校の前に差しかかるカーブの道で神崎姫華の車に出くわした。お互いの車は危うくぶつかってしまうところだった。双方は共に急ブレーキをかけて、衝突は免れた。姫華は車の窓を開き、ひとこと怒鳴ろうとしたが、相手が唯花の車であることに気づき、彼女を呼んだ。「唯花、どこに行くの?」唯花もまさか相手が姫華だとは思っていなくて驚いた。姫華が運転する車の助手席に中年くらいの綺麗な女性が座っているのを見て、恐らくそれが神崎夫人だろうと思った。彼女はこの親子二人に会釈をして言った。「姫華、ちょっと急用があって急いでいるの。明凛が熱を出して病院に行ってて、お店には誰もいないのよ。申し訳ないんだけど、ちょっとの間だけお店を見ててくれないかしら?」「唯花、私……わかったわ、先にその用事を済ませていらっしゃい」姫華は母親を連れてきて唯花に一緒にDNA鑑定をしてほしいとお願いに来たと言いたかったが、唯花がすごく焦っている様子を見て、なにか急ぎの用があるのだろうと思い、その言葉を呑み込んだ。そして唯花に代わって店番をしてあげることにした。唯花は再び車を出し、すぐに他の車の流れに入っていった。この時間帯はちょうど出勤時間で、交通量が非常に多かった。ほとんどの道で渋滞していた。相当焦っているというのに。自分はスーパーウーマンでもないから、空をひとっ飛びして結城グループに行くことなどできない。こんなことになるなら、電動バイクで出勤すればよかった。自動車は雨に濡れる心配はないが、容易に渋滞に巻き込まれてしまう。それだったら、二輪車で行ったほうがまだマシだ。渋滞に巻き込まれている中、唯花はひたすら理仁に電話をかけ続けた。が、彼は一度も出ない。メッセージを送っても、まったく返信をしない。これには身に覚えがある。彼が彼女に怒って誤解すると、いつもこんな感じで
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第495話

しかし、理仁は暗い顔をしながら、九条悟のことは無視して突風が過ぎるかのように彼の前を勢いよく通り過ぎていった。この時、悟は理仁が氷のように冷たい声で木村に命令するのだけが聞こえた。「全ての役員に会議を開くと通達しろ!」これは大地震の予感?と悟は思った。「かしこまりました」木村は悟よりも反応が早かった。悟のほうは親友のあの怒りに満ちた顔に驚いて動けなかったのだ。理仁はそのまま社長オフィスに入り、二分も経たず、また中から吹き荒れる強風の如く出て来て先に会議室へと向かった。悟は今度は彼に続いていった。会議室にはまだ誰も来ていなかった。今日はそもそも会議を予定していなかったのだ。しかし、理仁が木村を通して管理職役員たちに会議を通達した。これは、何か荒れる予感だぞ!理仁は会議室に入ると、自分の席に腰を下ろし、冷たい顔で管理職の面々が到着するのを待った。悟は一瞬戸惑い、彼の隣まで来ると椅子を引いて座った。「理仁、何があったんだよ?朝っぱらから、また誰が君を怒らせたんだ?」彼は理仁に近づき、探るように尋ねた。「奥さんと喧嘩でもしたのか?」以前、理仁が唯花と誤解があって喧嘩した時も、彼はこのような表情だった。その時は会社の中は数日間荒れ、結局おばあさんが関わることで夫婦仲が改善し、会社に立ち込めていた暗雲はやっと去り晴れたのだった。理仁は何も言わず、携帯を取り出してLINEを開き、唯花から送られてきたメッセージを見た。その内容はさっきの出来事を彼に説明するものだった。彼女と琉生は別にあやしい関係ではないと。そして、彼に琉生が彼女に告白してきたが、彼女はそれを断り、彼に自分を諦めてもらうために話をしていただけだと伝えた。彼女は本当に理仁に対して、何も人に言えないようなことなどしていないのだ。彼女も別に次の男を探しているわけではない。彼女に次の男など存在しない、唯花にとって理仁が一生で唯一の存在なのだから!金城琉生の野郎、彼女に告白しやがった!あのまだ未熟な青二才が、彼女が結婚していると知りながら告白してくるとは、これは堂々と、理仁に喧嘩を売りにきたのと同じことだぞ!「悟、俺たちは金城グループと何か業務提携をしているか?」「本社は別にないけど、傘下の子会社ならあるぞ」「だったらその子会社
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第496話

理仁は黙っていた。「他のみんなが来てないうちに、早く俺に教えてくれよ。そうやって吐き出さないで溜めていると、体によくないし、会社の全社員のメンタルのためにも、な」理仁が一たび怒ると、もはや労働による負担で死人が出るはめになるぞ!悟は懸命にこの会社全社員が突然吹き荒れた嵐に打たれないよう努力していた。「俺が今朝、内海さんにコートを届けに行ったら、彼女と金城琉生が一緒にいるのを見たんだ」「……」悟はそれを聞いて絶句した。暫くしてようやく言葉が出せた。「誤解だ、それは絶対誤解だぞ、理仁。ある時はな、君がその目で見たものと真実が違うことだってあるんだからな。だからこの間みたいに一人で勝手に考えてキレるんじゃなくて、奥さんに説明する機会をあげないとだめなんだってば」「金城琉生が彼女に告白していた」九条悟「……金城琉生にはまったく憧れてしまうな。一週回って逆に彼を尊敬してきたぞ、そこまで大胆で勇敢な男だったとは。なるほど金城家が育ててきた後継者なだけはある」理仁は彼を睨みつけた。悟は鼻をこすり、笑って言った。「理仁、今から木村さんに頼んでさ、ちょっと餅でも買ってきてもらって、俺が網で炙って焼いてやろうか?」理仁の表情が一気に曇った。「聞くけど、君は奥さんがその金城琉生からの告白を受け入れるのを目撃したのか?彼女たちは何を話してた?」理仁は少し黙ってから言った。「内海さんが手にはたきと、もう片手には花束を持って出て来てそれをゴミ箱に捨てた。そのあと、金城琉生と何かずっと話していたようだったけど、何を話していたのかはよく聞こえなかった。あと俺は金城琉生が彼女の手を取ろうとしたのを見た……」悟の両目がきらりと光った。その目は人のゴシップが気になってしょうがないという目だ。そして急いで尋ねた。「で、その手を取ったのか?」「いや、内海さんが持っていたはたきで、奴の手を払いのけていた」悟は一声出した。「おー」と語尾をかなり引き延ばした一声だ。「手は繋げなかったってわけだ。じゃ、なんでそんなにヤキモチ焼いてんだよ?つまり、奥さんは金城君の告白を断ったってことじゃないか」理仁は顔をこわばらせて何も言わなかった。彼は、唯花が金城琉生の気持ちを全然受け入れなかったことはわかっていた。彼女もLINEで彼に多くのメッセージを送
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第497話

この時、管理職の面々が続々と会議室に集まってきた。社長と副社長の二人がすでに会議室で待っているのを見て、彼らは緊張した面持ちになった。突然会議を開くと言われて、何か悪いことだろうと予感していた。理仁は、やはりあの凍えるほどの冷たい表情だった。ある人は辰巳を見て、彼からある種の安心感を得たいと思った。彼らに臨時の会議で一体何を話し合うのか教えてはくれるだろう。辰巳は落ち着いた様子をしていたが、実際は九条悟のほうを見ていた。彼と兄は同じ結城家の出身であることには間違いないが、兄と最も関係が良いのはやはり九条悟だ。悟は立ち上がった。「ちょっとトイレに行ってくる」彼はそう言った。そして辰巳に目配せをした。辰巳はその意味を理解し、みんながまだ揃っていないうちに、彼は立ち上がって悟の後に続いた。理仁は二人のその行動の意味を理解していたが、それを止めなかった。理仁はすでに会議室に入ってきた管理職たちを見ていた。悟は彼が一度怒ると、ここにいる彼らは死ぬほど苦しめられると言っていた。理仁は思った、彼らはどのように苦しむのかと。管理職たち「……」社長、そんなふうに我々を見つめてどうしたんですか?我々が何か悪いことをしたというなら、はっきり教えてくださいよ。やるならもう思いっきりやってください。辰巳は悟に続いて会議室を出て、急いで彼に追いついて尋ねた。「九条さん、俺の兄さんはまたどうしたんです?」悟は立ち止まり、振り返って小声で彼に尋ねた。「辰巳君、お兄さんのお嫁さんの電話番号を知ってるか?」「うん、知ってますよ」「それなら、急いで彼女に電話をして、何があっても会社まで来るように伝えてくれ。君の兄さんはまた嫉妬しているんだ。あのね、この臨時の会議はそもそも予定されていなかっただろ。彼は絶対にまだ終わっていないプロジェクトを持ち出して怒鳴り散らすぞ。あいつは今機嫌が悪くて、俺らに八つ当たりする気だ。今の俺たちを救えるのは彼女しかいない。辰巳君だって、この間みたいな地獄の日々を過ごしたくはないだろう。君は結城社長の弟だけど、あいつに叱られたら、反論することもできず、家に帰っても彼の顔色をうかがわなくちゃいけないよ」辰巳「……週末は兄さんと奥さんはイイ感じだったのに。昨晩だって、夫婦二人はすっごく甘々な雰囲気だ
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第498話

唯花は車を結城グループの入り口付近に止め、再び理仁に電話をかけてみた。ここに到着するまで、彼女は二十回も彼に電話をかけていた。あの嫉妬野郎、どうしても彼女の電話に出なかった。本当にどうしようかと焦ってしまって狂いそうだ!しかし、幸い今回は電話に出た。「理仁さん、私、今会社の前にいるの。上司に頼んで三十分くらい休みをもらえない?ちょっと会ってお話したいの」理仁はそれを聞いて急いで立ち上がり、会議室の窓まで行くとカーテンを開けて下を見た。高層ビルなので、地上からの距離が遠すぎて彼の視力がもっと良かったとしても会社の入り口に止まっている車が唯花のものなのかはっきり確認できなかった。「理仁さん、聞いてるの?何か言ってよ」唯花は焦って言った。「下までおりて来てちょうだい。今出てこないっていうなら、仕事が終わる時間までここで待ってるからね」理仁は低い声で言った。「待ってて、今行くから」カーテンを閉め、彼は振り返り会議室の外へと向かっていった。電話を切った後、低い声で指示を出した。「悟、お前が会議を取り仕切ってくれ」悟はもはや爆笑しそうだった。彼の予想は的中だ。しかし、それを表情には出さずに「わかったよ」と答えた。理仁は管理職の面々を放っておいて、つむじ風のようにひゅーっと会議室を出て行った。彼がエレベーターで一階までおりて、オフィスビルを出ると、そこには唯花がいた。彼女はすでに車を降りて、彼が彼女の車のフロント部分に投げ捨てた傘を持っていた。彼は傘を持っていなかった。理仁は傘を差さず雨が降る中出て行こうとしたが、フロントは非常に観察力に鋭く、急いで雨傘を取って彼に渡した。「社長、雨が結構降っていますので、こちらをどうぞ」「ありがとう」理仁はフロントが渡した雨傘を持って、それを差し、どっしりとした大きな歩幅で外へ向かっていった。嫉妬心は、唯花が会社の前に立っているのを見たその瞬間に一瞬にして消え去ってしまった。理仁はまさか唯花が追いかけてくるとは思っていなかったのだ。それで彼の心は大雪から快晴へと変わった。彼女は、彼のことをとても気にしているということだ。金城琉生が彼女と十数年の仲だとしても、横に立って指をくわえて見ているしかないだろう。「理仁さん」唯花はこの憎たらしい男が
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第499話

「このバカ、説明もさせてくれないなんて。目で見たことがそのままの意味だとは限らないのよ」彼女は彼を抱きしめていた手を緩め、怒って彼の腕をぎゅうっとつねった。彼女は本当に死ぬほど心配していたのだ。彼らがまた以前のように冷戦に突入してしまうかもしれないと思った。理仁は黙って彼女におとなしくつねられていた。とても痛かったが、彼は気にしなかった。彼女が彼のことをとても気にしてくれているという事実だけで、十分だったのだ。「金城君が私に告白してきたけど、私は断ったの。私はあなたの奥さんだもの。私の残りの人生は、あなたが私をいらないって言わない限り、ずっとあなたと一緒にいるわ」「それは本当?」理仁は自分が正体を隠していることを考えていた。彼が長い間彼女のことを騙していると知ったとしても、彼女は彼から離れていかないのか?「それって、私のこと信じられないってこと?」理仁は軽く息を吐き、また彼女を自分の胸に抱きしめた。「唯花さん、さっき君と金城が一緒にいるのを見た時、すごく怒りが込み上げてきて、その場をすぐ離れてしまったんだ。君のせいじゃないってわかってるよ。金城の奴が君に付き纏ってるだけだって。実は、その……ヤキモチを焼いてしまって。俺はどうやらかなり嫉妬しているらしい。金城が君を深く愛していて、君たちが十数年も知り合いの仲だっていうのを思ったら、すごくモヤモヤしてきたんだ」彼と彼女は知り合ってからそんなに時間が経っていないから。だから、彼女と金城琉生の十数年来の仲には遠く及ばない。金城琉生は彼よりも先に彼女と知り合い、彼よりも先に彼女のことを好きになったのだ。どれをとっても彼のほうが金城琉生よりも遅れを取っている。「私と金城君は……この前もあなたに言ったと思うけど、私は彼のことを弟としてしか見ていないの。彼に対して全く恋心なんて抱いていないわ。もし私が彼にそんな気持ちを持っているなら、私たちは今頃結婚なんてしていないでしょ。それなら彼とさっさと偽装結婚でもしてお姉ちゃんを安心させてあげていたはずよ」理仁は彼女が言っていることは本当の話だとわかってはいても、心の中でものすごく気に食わなかった。唯花が言ったその、もし彼女が金城琉生のことを好きだったら、初めから理仁と結婚していなかったというその言葉だ。彼
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第500話

「確かに君は空手ができるけど、それでも彼には近づかないほうがいい。夫の俺は心がかなり狭い男だ。君とあいつが一緒にいる姿は見たくない。あいつが一方的に君に執着してきたら、俺はまたヤキモチを焼くぞ」以前も彼はヤキモチを焼いていた。ただそれを決して認めようとしなかっただけだ。もし気にしていなかったら、彼も彼女が誰と一緒にいてもまったく気にならないはずだ。気になっているから、怒って、理性を失いこのような行動に出てしまったのだ。「彼が来たら、もちろん追い出すけど。彼の足を切り落として歩けなくすることなんかできないでしょ」理仁は冷たい表情になった。「俺があいつを二度と君の前に来られないようにしてやる」「何をするつもりなの?バカな真似はしないでよ」理仁は彼女の頬を軽くつねった。「安心して、君がいる限り、俺はバカな真似なんか絶対にしないから」彼はまだ残りの人生を彼女と一緒に歩いていくのだから。彼はすでに金城グループとのビジネス上の付き合いを切ってしまった。そして、金城グループが受けられるプロジェクトも横取りしてやるのだ。金城グループはこれで結城グループが彼らに敵対することがわかるだろう。彼は金城社長自ら彼のところにその理由を尋ねに来るのを待つだけだ。唯花に金城琉生の行動を止めることはできなくとも、彼の両親ならどうだ?「明凛の存在も忘れないで、金城君にあまりひどいようにしないでね」明凛の名前が出て、理仁は解せない様子で尋ねた。「牧野さんはどうして金城琉生を止めなかったんだ?」まさか、牧野明凛も従弟を応援しようとしているとか?「明凛は今日熱を出して病院に行ってるの。だからお店には来ていないのよ」そう言い終わると、唯花はハッと何かに気づき、おかしくなってヤキモチ焼き男に言った。「あなたまさか明凛が金城君を応援しているとでも思ったんじゃないでしょうね?彼女はそんな人間じゃないわ、彼女こそ一番、彼を諦めさせようとしている人なのよ」明凛は唯花の一番の親友だ。だから唯花がどのような人間なのか一番理解している。唯花が金城琉生を好きでないと言ったら、好きではないのだ。彼がいくら頑張って何をしても、彼女が好きになることは絶対にありえない。琉生が彼女に執着しても、ただ彼自身が傷つくだけだ。明凛は琉生の従姉だから、自分の従弟を
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