唯花はじっと柴尾鈴(しばお すず)を見つめていた。彼女があの薬の入ったお酒を誰にも渡さず、自分も飲まずにいたので、唯花は彼女がなぜそのようなことをするのか気になっていたのだ。そして、すぐにその理由がわかった。あの酒は飲ませる相手が決まっていたのだ。その相手はこの時やって来たばかりだった。一台のバイクが桜井家の邸宅にやって来た。邸宅の敷地内に駐車してある高級車たちと比べると、そのバイクは異常なまでに目立っている。そのバイクでやって来たのは二十歳過ぎの女性だった。それは重要なことではなく、重要なのは、そのバイクの後ろに座っている女性で、彼女は花束を抱えており、バイクを降りると片手で白杖をついて、それを使って道を探るようにゆっくりと前方に歩いてきたのだった。彼女は目の見えない人だった。唯花はお酒のグラスを置き、姿勢を正して花束を抱えた目の不自由な女性が白杖をついてゆっくりと芝生の上を歩いて来るのを見ていた。すると脳裏に一枚の写真が浮かんできた。それはおばあさんが辰巳に渡していた写真だ。つまりおばあさんが辰巳のために選んだ花嫁候補の女性である。辰巳には一年以内に彼女に猛アタックをし、結婚できなければどうなるかは自己責任だと脅してきていたアレだ。そうだ、その女性の名前は柴尾だ。柴尾咲、柴尾グループの現社長の義理の娘であり、また彼の姪っ子でもある。唯花はまさか桜井家のパーティーで柴尾咲本人に出会うとは思ってもいなかった。咲は目が不自由なので、ゆっくりと歩いていた。バイクを止めた場所は鈴からはそう遠くなかった。目が見える人であれば二分ほどで彼女のところまで歩いて来られるだろう。しかし、咲は十数分歩いてようやく鈴の元までやって来た。「花束持って来てって言ってから、こんなに時間がかかるなんてね。こんな配達の速度じゃ、店が閉まらないだけラッキーよね。これはもう奇跡としか言いようがないわ」鈴は咲よりも六歳年下で、今年ちょうど二十歳になる。咲の母親が伯父と再婚してから、初めて生まれた子供がこの鈴だ。夫婦二人から一身に愛を受けて育ち、また、柴尾家は財産が億単位の隠れ富豪でもある。だから鈴は両親から溺愛されてわがままな性格になってしまったのだった。彼女にとって、一番、目の上のたんこぶとなっているのは咲だった。鈴はいつも柴尾家の令嬢
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