All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 531 - Chapter 540

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第531話

「あれは子供同士の喧嘩でしょう。偶然の出来事で、大したことじゃなかったのに。陽ちゃんのことを任せてくれたら、二度とあんなことは起きないと約束するから」佐々木母は心を痛めたように諭した。「俊介、離婚をやめましょう。母さんは耐えられないわ」彼女は子供同士の喧嘩が、孫の親権がどちらにつくか影響が出るとは思ってもみなかったのだ。彼女はこの年になるまで、一度も離婚のために裁判をする人を見たことがなかった。周りの人達が離婚すると決めたら、いつも女性のほうが荷物とともに家から出され、家も車も子供までも全部男側に残るのが普通だった。「確かに子供同士の喧嘩だけど、問題を起こしたことは事実だ。他人から見ると、陽がうちに残ったら、成長によくないと思うだろうな」俊介はゆっくりと両親を説得しようとしていた。「母さん、俺はもう唯月のことが愛せないんだ。向こうもそうだぞ。無理に一緒にいても幸せになれないんだ。このまま長引いてもみんな一緒に苦しむだけなんだ。それに、唯月ももう我慢できないと言ってた。離婚しか選択肢はないだろう。俺はもう決めたんだ。今回帰ったのは、ただ母さんたちに知らせるためだったんだよ」莉奈が言った通り、これは彼と唯月のことだから、彼が決めればいい話だ。その決定を親にひとこと言えば十分だ。佐々木母は泣きそうになった。そして、彼女は夫を叩いた。「あなた、何か言ってよ。だめよ。私は今から英子に電話する。英子に来てもらって説得してもらいましょ」彼女は言いながら電話しようとしたが、夫に止められた。「英子に任せたら、ただ問題を大きくするだけだぞ!」佐々木父は怒ったように言ってから、また息子に尋ねた。「どうしても離婚するか?あの写真やらなんやら、本当にお前にひどい影響が出るのか?」自分の息子のことだから、よくわかっている。もし脅されなかったら、息子はここまで譲って、唯月の言う通りにするわけがない。「お父さん、もし唯月がこれを全部うちの社長に渡したら、俺はもう終わりだ。こんな感情もない婚姻を終わらせることで、俺の将来が守れると思ったらいい話じゃないか」佐々木父は黙った。佐々木母は相変わらず罵っていた。「あの女、本当にひどいよ。あなたの将来を潰して、彼女に何が得られるの?」「俺は彼女を苦しめたから、彼女はやり返しただけだろう。
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第532話

佐々木母はまた離婚協議書を取り、何回もよく見返した。唯月に分ける金額を見るたびに、胸が締め付けられるような顔をして言った。「半分分けるって言ったでしょ?この金額おかしいよ」「家と車は唯月が要らないって言ったから、別に彼女に補償金を払わなきゃ。全部合わせると、この金額なんだ」佐々木母「……じゃ、家のリフォーム代は?」俊介は答えた。「含めてないよ。俺はもうあいつに言ったんだ。リフォーム代は絶対返さないって」それを聞いて佐々木母はようやく気が少し楽になった。「リフォームにも数百万かかったから、これを請求してこないなら、うちは幾分かマシね」少なくとも、そこまで気が病まなかった。「俊介、唯月はどうやってこの証拠を集めたんだ?」佐々木父は息子の嫁にそんなツテはないはずだと思った。「もしかして、誰かが手伝ってあげたんじゃないか」「聞いたけど、答えてくれなかったんだ。一体誰に手伝ってもらったのか、俺もさっぱりわからない。ここまでできる人物は絶対相当な厄介者だぞ。俺にとっても爆弾みたいな危険な者だから、父さん、怖くないわけがないだろう。だから、妥協しかないんだ」佐々木母もようやく状況を把握して、疑いながら言った。「唯花夫婦がやったんじゃない?」「陽の一件では、唯月はこんなもん出してなかったから、あの時はまだ持ってなかったはずだ。たった数日でこれだけの証拠を集めてきた。きっと短期間で集めたものだろう。唯花の夫の家族には確かに人が多いけど、皆一般人なんだ。そんな能力はないはずだ。母さん、そんなに心配しなくてもいい。俺らが唯月の要求を受け入れれば、きっと大丈夫だろう。唯月も離婚協議書に、離婚後俺に絶対また報復したりしないと書いてるし」俊介の両親はまた黙り込んだ。俊介は時間を確認してから、彼ら二人に言った。「父さん、母さん、もう帰らないと。明日も仕事だ。午後になったら休暇を取って離婚の手続きをしに行く予定だから」二人は黙っていた。俊介はまた少し座ってから、帰って行った。彼が帰った後、佐々木母は夫に行った。「あなた、本当にこのまま俊介たちを離婚させる気なの?もう止められないの?」離婚しなかったら、お金を分ける必要もないし、孫もそのまま佐々木家の子だ。息子と唯月も夫婦のままなのだ。「俊介がもう決めただろう?俺らはどうしようもない
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第533話

「英子も仕事がうまくいってないって、一体どうしたの。職場でよくやっているんじゃなかったっけ?どうしてうまくいかなくなった?」佐々木母はぶつぶつ言いながら、娘に電話をかけた。電話で英子がイライラしながら言った。「お母さん、私にもさっぱりわからないのよ。皆わざと私を陥れるようなことをしてきたの。一日中ずっと嫌がらせしてくるわ。ほっとできる時間なんて一分もないよ。お母さんったら、俊介が離婚したいならさせたらいいじゃん?あの子は優秀なんだから、また結婚なんてできるでしょ」「唯月がどこからか、たくさん証拠を集めてきたのよ。全部俊介を不利にさせようとするものばかりよ。それで、俊介が唯月の要求を全部受け入れるしかなくなったんだ。離婚すると二千万以上も取られるわ。陽ちゃんの親権も渡さないと。まして毎月六万円の養育費付きよ」「俊介にそんな大金あるわけ?」英子はびっくりした。「俊介が前から隠して移した財産よ。まさか唯月に証拠をにぎられちゃったなんて。まあいいわ、あなたも大変だったみたいだし、明日一緒に行かなくてもいいよ。お母さんはお父さんと明日早く星城へ行って唯月姉妹に会ってくるわ」英子はすぐに返事した。「お母さん。唯花を説得しょう。彼女を説得できたら、きっと唯月も納得できるよ」「お母さんもそう思うわ」佐々木母と娘はしばらく電話でおしゃべりしてから、ようやく電話を切った。……唯花は仕事を終わらせると、先に姉の家へ行った。姉の離婚後の居住場所を話し合うためだ。案の定、唯月は妹の家に住むことを拒否した。彼女は言った。「俊介がちゃんとお金を送ってくれれば、もうお金で困ることがないから、あなた達の家に住まなくてもいいよ。まず適当に家を借りて、それから不動産屋を回るつもり。もらったお金で小さな家の頭金が払えるはずだし。「残ったお金については、とりあえず東グループでまだやっていけるかどうか試してみてからね。無理だったら仕事を辞めて、前に言ったようにそのお金で弁当屋をやるわ」唯花はこれ以上姉を説得しなかった。そしてただ彼女に言った。「お姉ちゃん、もしお金が足りなかったら、私に言って。先に貸すこともできるからね」「わかったわ。本当に必要だったら、絶対唯花に言うよ」唯花は姉に抱かれた甥の頭を撫でた。「おばたん」「おばちゃんが抱っこし
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第534話

携帯を見てみれば、可哀想に床に転がったままだった。確かに部屋で待ってはいてくれたが、まさか寝た状態で待っているとは。まさに理仁の、そのうきうきとした心に冷たい水をかけられてしまった。彼はおばあさんから買った指輪を持ってきて、今晩唯花につけようと思っていたが、結局この仕打ちだ。理仁はベッドの端に腰をかけ、手を出し軽く唯花の頬をつねった。「本当に子供のようにぐっすりだな」頬をつねってから、彼は頭を下げ、彼女の頬に、それから唇にもキスをした。それでようやく彼女の携帯を拾ってあげて、サイドテーブルに置いた。妻が寝たまま彼の帰りを待っていたのに少し不満だが、少なくとも確かに彼の部屋で待ってくれていた。某若旦那様にとって、これが僅かな慰めだった。翌日、唯花が目を覚ますと、視野は大きい花束でいっぱいだった。その花束の後ろに、理仁の整った顔が見えた。彼女は瞬きをした。自分が夢を見てるわけじゃなくて、今見ているのは確かに理仁だということを確認し、彼女は起き上がり、笑いながら言った。「お帰り」「唯花さん、おはよう」おはよう?「うそ、もう朝?朝まで残業したの?」「いや、昨日の夜帰ってきたんだ。誰かさんが待っていてくれるって約束しといて、一人で先に夢の世界へ飛んで行っただけさ」唯花は恥ずかしそうに笑いながら、そのきれいな花束を受け取った。「お花屋さんがこんなに早く開いてるの?」「俺が買いたいと思うなら、いつでも買えるよ」理仁は彼女が花束を受け取った後、体を屈め、黒くてキラキラした瞳で彼女の美しい顔をじっと見つめながら、低くかすれた声で聞いた。「おはようのキスは?」彼女に贈ったこの花束は、実家の執事である古谷に電話をかけ、実家の庭で一番美しく咲いていた花をとり、専用車で送らせたのだ。朝、目を開けてすぐきれいな花束をもらうなんて、理仁の心遣いとロマンチックな行動に感動し、唯花は何のためらいもなく、彼におはようのキスをした。「唯花さん。聞きたいことがあるなら、直接言っていいよ」唯花は嬉しそうに花束を愛でながら尋ねた。「どこの花屋さんで買ったの?綺麗だね。うちのベランダに植えたどの花よりもきれいに咲いているわ」「ある園芸店に電話して注文して、専用車で届けてもらったんだ。こんな早い時間に、開いてる店はない
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第535話

「唯花さん」唯花が彼に指輪をつけてくれた時、理仁は優しい声で言った。「これから、何があっても、絶対別れようとか、離婚しようとかお互いに言わないようにしないか?」唯花はこの対の指輪が夫婦二人によく似合っていると思い、心の中で彼のセンスを密かに褒めていた。選ぶ時に彼女を連れて行かなかったとしても、ちゃんと彼女に似合うものを選んでくれた。そして彼の話を聞くと、彼女は顔を上げ返事をした。「それはできないわ。もしあなたが佐々木俊介のようなクズだったとしても、離婚するって言い出せないの?浮気した男なんて、早くそいつを蹴っ飛ばしたほうが楽よ。傍に残していても気分が悪くなる一方だわ」理仁はまず彼女と誓いを結んで、後で自分の正体がばれてしまったとしても、彼女が離れることができないように仕掛けようとしたのだが。全く引っかかってこない。こんなロマンチックな状況でも、彼女はしっかり冷静さを保っていた。さすが結城理仁が惚れた女だ。「じゃ、俺が浮気しない限り、何があっても離婚なんか口にしないでくれる?この一生ずっと夫婦でいたいんだ」理仁は絶対に浮気などしないと自負していた。彼のような性格の男は、一度誰かを愛したら一生変わらない。だからこそ、怖くなってきたのだ。もし唯花が彼が結城家の御曹司だと知った時、彼の傍から離れるのではないかと。「何か後ろめたいことでもしたの?」唯花は逆に彼に尋ねた。「本当に変よ。朝っぱらから専用車で花束を送ってこさせたり、結婚指輪まで用意してくれたり。宝石にはあまり詳しくないけど、とっても高いものでしょ。普通の日なのに、ここまでよくしてくれるなんて、絶対変だよ。きっと何か後ろめたいことをしたんでしょ。そうやって甘い言葉でごまかして、私に罠を仕掛けて、後で私が気づいたとしても怒らないようにしている。そうでしょ?」理仁は黙って彼女を見つめた。暫くして、彼は手を伸ばし、唯花の髪の毛を撫でながら、何食わぬ顔で淡々と言った。「この頭の中で、とんでもないことを想像しているんだな。わざわざロマンチックなことをしようとしたのに、誤解されるなんて」「私が勘違いしたの?」唯花は彼のいたって冷静で自信満々な顔を見て、少しためらった。「本当に後ろめたいことしてない?」理仁は逆に彼女に聞いた。「俺がどんな後ろめたい
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第536話

「まだはっきり決まっていないんだ。仕事が片付いたらすぐ帰るよ」「じゃ、いつ出発するか教えてね。荷造りを手伝うから。車で空港まで送るし」彼の部屋には彼女の着替えを置いていないため、自分の部屋に戻って身なりを整えに行こうと思った。理仁は彼女が部屋を出ようとするのを見ると、思わず手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。その黒い瞳がじっと彼女の美しい顔を見つめた。「それだけ?」「……」唯花はただただ瞬きをしていた。彼の意図がわからなかった。それだけ?じゃないなら、どうしろと言うのか。まさか出張先まで送ってほしいとか言い出すわけじゃないだろうね。「家族が一緒に行っていいの?」理仁は口角を引き攣らせた。「一緒に行けないでしょ。空港に送るだけじゃだめなの?」この時、理仁は彼女を掴んだ手を離した。唯花は彼の手を見て、眉をひそめて言った。「最近ようやく口数が少し多くなったかと思ったのに、また黙っちゃって。はっきり言ってくれないし、私が本当にそれでわかると思うの?私頭悪いから、わからないよ。着替えて来るね。朝ごはんはどうする?外で食べる?それとも自分で作る?」唯花は外へ向かって行きながら尋ねた。「好きにすればいい」彼の声が少しむっとしたのを聞いて、唯花はドアの前で立ち止まり、振り返ってチラチラと何回も彼を見てから、ドアを開けて出て行った。部屋を出るとおばあさんをみつけて、唯花は何もなかったように挨拶をした。「おばあちゃん、おはよう」「おはよう」おばあさんはニコニコしながら、唯花が孫の部屋から出て来るのを見ていた。夫婦二人は実際まだ何もしていないが、少なくとも同じベッドで寝起きをしているから、これは大きな一歩だ。結局、朝ごはんは家で食べることになった。唯花は二人にうどんを作ってあげた。素朴なものだが、それでも美味しい。「プルプルプル……」この時、唯花の電話が鳴った。姉からの電話かと思ったが、携帯を見ると知らない番号からだった。それを見て、彼女の表情が曇った。知らない番号だったら、基本的に実家の厄介なクズ親戚たちからのものだろう。この前、姫華が彼女のために親戚たちを懲らしめてくれてからというもの、あの人達はしばらく静かになっていたのだ。今日また電話をかけてきて、一体何をしようとしている
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第537話

「私はそんなこと言ってないでしょ、あなたが自分で勝手にそう言ったんだから」内海じいさん「……お前今どこにいる?今何時だと思ってるんだ?まだ店を開けてないのか?勤勉な人はもう早々に店を開けてお金を稼いでいるぞ」「理仁さん、うちのおじい様ったら、私の店の開店時間を気をかけてるのよ。もう太陽が出てきてる?早く携帯を持ってベランダに行ってきて。今日は太陽が西から昇ってくるかもしれないわよ。世界珍百景を写真におさめなくっちゃ」内海じいさんは暗い顔をしながら声をあげた。「唯花!話を逸らすな、真面目に話してるんだぞ。今俺は伯父さん叔母さんたちと一緒に店の前で待ってるんだ。早く来て店を開けろ。朝ごはんも食べていないから、来る途中で朝ごはんも買ってこい」「周りに朝食を売っている店なんてたくさんあるでしょ。食べないなら、そこでお腹を空かせてれば?」彼らに朝食を買ってあげるほど親切な気分には全くなれなかった。どうせお腹が満たされたら、また彼女のことを罵るだろう?内海じいさんは唯花の態度に頭にきて、口を開けてまた罵ろうとした時、携帯を内海智文にとられてしまった。智文はできるだけ優しそうに言った。「唯花、俺だ、従兄弟の智文だ。今店の前で待っているから、早く来てくれないか?大事な用事があるんだよ」「朝ごはんを食べ終わったら行くわ」「わかった、じゃ、待ってるぞ」智文は言い終わると、電話を切った。「実家の連中がまた来た?」唯花が電話を切ったのを見ると、理仁は声を低くして尋ねた。彼が裏で小細工をしていたため、奴らは今はかなり苦しい状況に陥っているはずだが、まさかまた来る度胸があるとは。本当に悟の言ったように、彼らに何もかも失わせたら、もうこれ以上恐れるものなどないと思って、無理やり唯花にお金を請求しようとしているというのか?「うん。たぶん全員私の店の前で待っているんでしょ。一体何をしたいのかさっぱりわからないわね。どうせまた私におばあさんの医療費を無理やりに請求しようとするんでしょ。人数が多いからって別に怖がったりしないよ、私は」おばあさんには親孝行してくれる子がたくさんいるから、彼女のような好かれていない孫が医療費を払う順番など回ってこないだろう。彼女の従兄たちは唯花姉妹たちよりずっといい生活をしていたのだから。「あとで、店まで送
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第538話

唯花は心の中で冷たく嘲笑った。頭上三尺に神あり、神様はいつも見ている。いつか絶対報いというものがくる。内海じいさんとばあさんも例外なく、報いを受ける日はそう遠くないはずだ。「彼らが何の目的で来ようと、私たちも一緒に行くわ。喧嘩になっても人数では負けてないでしょ?」おばあさんはどうしても唯花に同行すると主張した。唯花は自分一人でも強いと言いたかったが、実家のクズたちが全員店に集まって、実際に本当に喧嘩になったら、人数で確かに負けているのは明らかだった。だから、おばあさんの同行を止めなかった。姉の話によると、おばあさんはなかなか強いという。朝食のうどんを食べると、唯花は食器を片付けようとした。おばあさんが孫を一瞥すると、理仁は黙って椅子から立ち上がり、唯花から食器を受け取ってキッチンへ洗いに行った。「唯花ちゃん、あまり理仁を甘やかしすぎちゃだめよ」おばあさんは唯花に言った。「ちゃんと家事を手伝わせなくちゃ。この家は夫婦二人のものだから、二人一緒に分担しないとね。彼は確かに毎日仕事で疲れてるけど、唯花ちゃんだって働いているでしょ。疲れるのは同じよ。家で王様みたいにさせちゃだめよ。ちゃんと家事をやらせてね。そうしたらあなた自身も楽になるでしょ」「おばあちゃん、理仁さんは十分しっかりしているよ。いつも家事を手伝ってくれるの」あのクズの元義兄のほうこそ正真正銘の王様なのだ。家に帰ったら何もしない。何もかも姉にやらせておきながら、彼に「手足がちゃんとついているから自分のことは自分でしてください」と言えば、すぐ「一日中ずっと働いて疲れてるんだから、家で休ませろ」と不満を返してくる。それから、姉が毎日家で子供の世話だけ見ていて楽にしているだけなのに、家事まで彼の手を煩わせて、とんでもない怠け者だ、と……これ以上あのクズ男の話を言ってもうんざりしかしてこない。姉はもうすぐ彼を成瀬莉奈という女に譲って、新しい生活を手に入れるのだ。今後、成瀬莉奈は本当に俊介を甘やかして、何もさせずに楽にさせるだろうか?「彼ら兄弟たちは、将来自立できるように小さい頃からちゃんとしつけをしていたの。確かになかなかできる男になったわ。でもね、あなたが彼が仕事で疲れてるって気遣いすぎて、つい甘やかさないか心配なのよ。唯花ちゃん、いい男っていうのは、自
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第539話

キッチンにいる理仁には二人のお喋りが筒抜けだった。おばあさんが唯花のことを甘やかすのは日常茶飯事で、理仁はもうとっくに慣れていた。おばあさんはずっと孫娘が欲しくて欲しくてたまらなかった。結局、九人の男の孫だけだ。おばあさんは唯花の人柄が気に入ったので、最初から孫娘のようにかわいがっていた。しかし、孫娘はいつかは他のところにお嫁に行くものだと突然気づき、考えを変えた。それからというもの、いろいろな手を使って、唯花を孫の嫁にしようとしたのだ。そうすれば、ずっと結城家にいるだろう。理仁は食器を洗い終わると、コンロもきれいに拭いた。全部終わると、洗剤で布巾を丁寧に洗い、何度も手を洗ってからキッチンを出てきた。唯花は立ち上がり、彼のスーツとネクタイを持ってきてあげた。彼女はまだ彼にネクタイをしてあげるのには不慣れだが、今は彼が言いだすのではなく、彼女自らしてくれるので、理仁は嬉しいと思っていた。皿洗いだけで、美人なお嫁さんに世話をしてもらうご褒美がついてくるなら、これは儲けたと理仁は思った。おばあさんも唯花の行動に満足そうだ。ちゃんと何か理仁にしてあげることを忘れなければ、理仁は絶対彼女にぞっこんになるだろう。夫婦はお互いに与え合うことで長く一緒にいられるものだ。何もかも一方的に与え続ければ、絶対いつか疲れがきて、その愛も冷めてしまうのだ。三十分後。三人が店に着いた時、店はすでに開いていた。しかし、店を開けた明凛は内海家の人達に一切お客としての振る舞いをしていなかった。内海じいさんだけが智明に店から椅子を運ばせて外で座っている以外、他の人は店の前で立ちっぱなしでいたり、しゃがんだりして、イライラした様子だった。智文は何本目の煙草を吸ったか、もうわからないほどだった。彼は結城社長に匿名の手紙を送った後、自分が結城グループに入ることができると自信満々だったが、結局何の反応もなかった。結城グループどころか、他の中小企業ですら採用してくれなかった。誰も彼を雇おうとしなかったのだ。彼だけでなく、内海一族全員の仕事に影響が出ていた。商売している者も顧客が奪われ、赤字のない日が一日も訪れなかった。智文はこれが唯花の後ろ盾の仕業だと誰よりも理解していた。彼は怖気づいたのだ。だから祖父を説得し、彼に一族の人を連
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第540話

「唯花」智明と智文は内海じいさんと一緒に入ってきた。他の人は外で待機していた。「この人がお前の旦那か?」内海じいさんはしばらく理仁を観察して、唯花の夫は確かに唯月の夫よりずっと立派な人だと思った。同時に、二人の孫娘が結婚する時、結納金を一円も彼らにあげなかったことに不満を覚えた。ここまで育てた孫娘がただで他人のものになったわけだ。もし亡くなった三男が知ったら、怒るに違いない。姉妹には親はもういないが、祖父母はまだいるから、その結納金は当然のことで、祖父母が受け取るべきだった。なのに、唯月姉妹は夫の家族に説得し、全く結納金を出してくれなかったのだ。「そうよ、どう?カッコイイでしょ?」唯花は理仁の傍に来て、わざと片手を彼の肩に乗せ、祖父に聞いた。「私たち、お似合いでしょ?」内海じいさん「……」そして、彼はまた結城おばあさんに聞いた。「そっちは?」「義理の家族よ」なるほど、男性側の家族なのか。内海じいさんは煙草を取り出し、火をつけて吸いながら尋ねた。「唯花が結婚するという大事なことを、俺たちにひとことも言ってくれなかったんだ。義理の親戚がいることも知らせなかった。今日は初対面というわけだな。聞いた話、唯花たちはまだ結婚式をあげていないそうだな。結納金はいくらくれるつもりなんだ?それと、新居と車も、もちろん用意してくれたよな?唯花の両親はもういないが、見た通り、祖父母である俺たちはまだ生きている。以前は確かに誤解でいろいろ不愉快なことがあったが、それでも俺が唯花の祖父という事実は消せないんだ。唯花の結納金は、俺たちがもらうべきだろう」結城おばあさんが、もし普通のお金持ちのばあさんなら、初対面で挨拶もちゃんとせずに結納金の話をされたら、きっと顔を曇らせて帰るところだろう。しかし、彼女はニコニコしながら言った。「内海さん、結納金はもちろんちゃんと用意していますわよ。でも、それは唯花さんに渡すもの。唯花さんがそのお金をどう使うかは彼女の自由で、私たちは口を出さないわ」つまり、内海家がその結納金を取りたいなら、唯花の同意が必要だということだ。内海家の人間はこれまで何回も唯花と対峙したことがあり、毎回も散々な結果しか得られなかった。唯花からその結納金を奪おうにも、その実力があるかどうか考えなければならない
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