All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 561 - Chapter 570

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第561話

唯花は座って、そのジンジャーティーを持ってきて、ゆっくりと飲んだ。理仁が心配してくれる気持ちのおかげか、それともジンジャーティーの効果なのか、彼女は飲み終わって少しの間横になっていると、かなりお腹の痛みが緩和された。理仁が薬を手に入れて戻ってきた頃、彼女は携帯でニュースを見ていた。「お腹が痛いのに携帯をいじってるなんて」理仁は彼女のもとへ近寄り携帯を取って、薬を彼女に手渡した。実際はボディーガードに頼んだのだが、彼はこう言った。「夜遅いからドラッグストアは閉まってたよ。だから、比較的近くに住んでる同僚に連絡して痛み止めを持ってないか聞いたんだ。さ、これを飲んだら休むんだ」唯花は顔を彼のほうへ向けてじいっと見つめた。「どうした?」彼女は突然立ち上がり、彼の前に立って彼の腰をぎゅっと抱きしめ感動した様子で言った。「理仁さん、あなた私に優しすぎるわよ!」理仁も彼女を抱きしめ返した。そしてジンジャーティーを飲んで彼女はだいぶ楽になったのだと思い、愛情のこもった声で言った。「君は俺の妻だろ、優しくするのは当然だ。じゃなきゃ一体誰に優しくしろって?」彼が彼女にとても良くしてくれると感じてくれれば、今後彼に騙されていたということを知っても、彼を捨てることはしないと願っていた。きっと彼が彼女に優しくして、よく気遣ってくれたことを思い、それを考慮してくれるはずだ。おばあさんからも彼女の心を攻めろと言われていたことだし。甘い言葉を吐くのは彼は慣れないし、彼女だって聞き慣れない様子だ。だから日々の暮らしの中の細かいところまで気を配り、少しずつ彼女の心を溶かして信頼関係を築きあげ、彼女が彼を深海の如く深く深く愛するようにさせるしかない。そうすることで二人の未来が開けるのだから。「理仁さん」「なに」「あなたさっき出かける時、どんな格好で行ったかわかってる?ナイトウェアで出かけていったのよ」理仁は驚いて急いで彼女を離し、視線を下に向けて自分の着ている服を見てみた。確かにナイトウェアだ。「しかもスリッパを靴に履き替えずに出かけていったんじゃない?」理仁はまた自分の足に視線を落とした。なるほど出かけている時、なんだか足がスース―すると思ったわけだ。スリッパのまま出かけてしまったのか。幸い夜遅くに出かけたので、誰も彼を見てい
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第562話

彼女がここで注目したのはまさか金なのか!彼は結城家の御曹司にして、結城グループを率いる社長だ。家は億万長者の名家だというのに、まさか妻からお金があるのかと疑われる羽目になるとは……彼女を離し、理仁は立ち上がって出て行ってしまった。唯花は目をパチパチさせて、怒りん坊をまた怒らせちゃったかと思っていた。彼女も立ち上がったが、彼をなだめに行くことはせず、自分で水を入れて彼が持ってきてくれた薬を飲んだ。彼が自分の格好も気にせず、ナイトウェアとスリッパ姿で薬を探しに行ってくれたのだ。彼女がそれを飲まなかったら、彼のせっかくの好意を無下にしてしまって、また彼がさらに腹を立ててしまうかもしれない。すると理仁はすぐに彼女のもとへ戻ってきた。「手を出して!」彼は命令口調で言った。「どうしたの?」唯花が彼のほうへ顔を上げると、彼の手には赤いボックスがあって、彼女は尋ねた。「……これって、指輪?」理仁はそのボックスを開けて、彼女の左手を掴み、その中に入っていたゴールドの指輪を取り出して彼女の薬指にはめた。「これは俺が先に買っておいたものなんだ。後でエタニティリングのほうが綺麗だと思って、あれにしたんだけど、とりあえず今はこれをつけておいて。これはまあ応急措置とでも言っておこうか。明日の朝店に着いたら、あのエタニティリングをまたつけてあげるよ」ゴールドの指輪は理仁が本来、神崎姫華を追い払うために買ったのだが、その時に唯花のことを思いカップルリングで買っておいたものだ。今、ようやくこの指輪も登場する出番が回ってきたのだった。唯花の指にそのゴールドの指輪をはめ、理仁は自分の指輪も取り出した。とりあえず、エタニティリングは外して、このゴールドの指輪のほうをはめておくことにした。彼女とずっと一緒にいると約束したのだから、お揃いでつけていなくては!まったく呆れた俺様大王だ。偉そうだし、心は狭いし、すぐにヤキモチを焼きたがる。その嫉妬はこの世を崩壊させてしまうくらいに激しい。唯花は心の中でこの自分の夫に愚痴をこぼしていた。理仁はゴールドの指輪をはめた後、再び唯花の手を取り、お互いの指を絡め合った。そして、もう片方の手で携帯を取り、夫婦二人がしっかりと握った手を写真に収めた。唯花は可笑しくなって言った。「これをインスタにでもアッ
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第563話

理仁は唯花を抱きしめて、一緒に夢の世界に入ろうと思っていた。そして瞳を閉じた後、彼は突然あることを思い出し、急いで彼女をそっと自分から離し、ベッドに座り直した。そして手を伸ばして唯花がベッドサイドテーブルに置いた携帯を手に取った。彼がインスタに投稿したのは彼ら上流社会たちの間で彼が結婚したと宣言するものだった。その写真は必ず外に流出することだろう。理仁も別にその写真が世間に広まっても怖くはなかった。ただ手が写っているだけだから唯花を守れてはいるのだ。だからそんなに早く記者たちから彼女が詰め寄られることはないのだ。しかし、唯花がアップしたインスタは、恐らく神崎姫華も目にすることだろう。彼女と神崎姫華は今とても仲が深くなっているから、二人は絶対にお互いをフォローしているはずだ。そして、神崎玲凰が誰かを介して理仁の写真を見て、さらに姫華も唯花のインスタ投稿を見れば、その二つを見比べて姫華がきっと唯花こそが彼の妻だということに気づくだろう。今はまだ神崎姫華に彼と唯花の関係を知られるわけにはいかない。唯花と神崎夫人がDNA鑑定をした結果はここ数日で出てくるはずだ。その結果がどうであれ、唯花と姫華が気が合うという事実は変えようがない。彼の正体が姫華によってばらされてしまったら、その結果どうなるか理仁は想像するだけで恐ろしかった。唯花の携帯を手に取り、理仁は彼女のインスタを開こうと思ったが、パスワードがあるから開くことはできなかった。「パスワードか――」理仁は眉を寄せて、さっき唯花が携帯を開いていた時のことを思い出していた。彼はすぐ横にいて、見ていたのだ。彼女の設定したパスワードは――暫く記憶を呼び覚ましてから、理仁は入力を試みた。一回目は間違った。そして、二回目もまた間違えてしまった。理仁は手を止めた。自分に冷静になれ、焦るなと言い聞かせ、唯花がパスワードを入力していた時、どの数字を打っていたかまた思い出そうとした。しんとした時間が数分過ぎ、理仁は再び入力を試してみた。今回はパスワードが正しく無事開くことができた。理仁は口元をニヤリとさせた。彼は今、数千億の契約を取った時よりも嬉しそうな顔をしている。彼は急いで唯花のインスタを見てみた。やはり姫華がフォローしていたのだった。姫華が自分のインスタアカウント
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第564話

「本当に気が利く優しい人ね」唯花は服を手に取り、すぐにはベッドをおりなかった。片手で服を抱きかかえ、もう片方の手で携帯を取り、いつものように先にインスタを開いて確認した。昨夜アップしたストーリーズには数人「いいね」を押してくれていた。しかし、そのストーリーズを公開している人は近しい友人などに限っていた。業者が提携している店にだけ売るように、彼女は誰にでも見せるのではなく、自分のプライベートな空間をしっかりと守っていたのだ。ストーリーズなら、どのみち24時間で削除されてしまうし。昨晩アップしたストーリーズに初めに「いいね」を押した人は理仁だった。唯花はそれを見て驚いた。彼ら夫婦がお互いにインスタをフォローした時に、彼女はストーリーズを彼に対して公開するにしていただろうか?たぶん当時、彼がフォローしてくれた時に、特に彼に対してストーリーズを非公開設定にはしていなかったのだろう。結婚手続きをしてからというもの、彼女のハンドメイド作品やベランダに咲く花以外に特に何もストーリーズに投稿していなかったことを思い出した。唯花はそれでホッと胸をなでおろした。幸いにもインスタで理仁の悪口を言っていなくてよかった。その時、理仁がドアを開けて入ってきた。「目が覚めた?」彼はスポーツウェアを着ていた。聞くまでもなく、彼は外で朝のジョギングをしてきたのだ。「寒くなったのに、あなたもこんな朝早くに起きてジョギングだなんて」「習慣になってしまったからね」理仁は部屋のドアを閉めた後、彼女のほうへ歩いてきて、ベッドの端に腰をおろし、心配そうに彼女に尋ねた。「お腹はまだ痛い?」「もう大丈夫よ」唯花は服を抱えて携帯を手に持ちベッドからおりた。「今すぐ着替えたりしないよね、私が先に洗面所に行ってくるから」「先に使って。俺は朝ごはんを作りに行くから」唯花はそれを聞いて足を止め、彼のほうへと向いて尋ねた。「あなた、問題ない?」聞いた理仁は顔を暗くさせた。唯花は彼のその表情の変化に気づき、急いでいった。「そういう意味じゃなくて、美味しい朝ごはんが作れるかって聞きたかったの」理仁は立ち上がり、彼女の前までやって来ると、手を彼女の整えていない乱れた髪に当て、それを梳かしてあげながら低い声で言った。「俺に問題があるかないかは、君が実際
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第565話

唯花が、生まれ変わって太陽のように暖かくなった理仁のおかげで心まで温かくなっている時、姫華のほうは朝起きてすぐに冷水を浴びせられたかのように心まで冷え切っていた。理仁の裏工作によって、姫華は全く唯花の投稿した写真を見ることはなかったが、彼女の義姉が見せたのだった。義姉は姫華が起きたばかりの時にドアをノックして中に入ってきた。そして、義姉は何も言わずにある写真を開いて彼女に見せた。姫華は起きたばかりだったので、義姉がこうする意味をよく理解できていなかった。それで彼女は義姉に尋ねた。「お義姉さん、誰がこんなラブラブっぷりを見せつけてきたの?わざわざ私に見せにくるなんて、彼氏がいないことを皮肉ってる?」神崎家の当主玲凰の妻である神崎理紗(かんざき りさ)は静かに彼女を見つめ、ひとことも発しなかった。実際、理紗は姫華が真実の愛を追い求めることに賛成していた。結城理仁はどこをとってもとても優秀な人間だから、義妹にとても相応しいと考えていたのだ。しかし、どうしようもないことに、結城理仁は全くこの義妹のことを好きではなかったのだ。義妹も諦めようと努力をしてみたことはある。しかし、数年間かけてもやっぱり諦めきれず、大胆にも公開告白し、理仁を追いかけ始めたのだった。それがまさか結城理仁が突然結婚するなどと誰が思いついただろうか。だから彼女は結城理仁はわざと義妹に結婚していると見せかけるために指輪を見せて諦めさせようとしているのだと思っていた。しかしこの日の朝、彼女は夫から送られてきた理仁のインスタのスクショを受け取ったのだった。理仁のその写真投稿には一文字もコメントをつけていなかったが、誰が見ても彼がインスタでもう結婚したと宣言したことがわかるものだった。玲凰はこの写真を理紗の携帯に送り、姫華に見せたのだった。つまり姫華に結城理仁のことを完全に諦めろと言いたいのだ。しかし理紗は夫に、こんな朝早くに姫華にこんなものを見せたら心に悪い影響が出るんじゃないかと言った。玲凰は姫華は遅かれ早かれ知ることになるからと返事した。結城理仁がこの写真をインスタにアップすれば、星城の上流社会ではこのことがあっという間に広まり、隠せることではなくなるからだ。彼らは姫華の家族として、他人が彼女に教える前に姫華に見せたのだ。姫華が家族が自
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第566話

理紗は義妹のことを可哀想に思い、しっかりと抱きしめ慰めた。「姫華ちゃん、結城さんは本当に結婚したみたいだし、もう彼のことを考えるのはおしまいにしましょう。この世には結城さん以外にもたくさん良い男性がいるわ。あなたが彼のことを完全に諦め切れたら、彼よりも良い男性がいるってことに気がつくはずよ。姫華ちゃん、私はあなたがとっても良い子だって思ってるの。結城さんがあなたのことを好きにならなかったからって、自分のことを否定しないで。私の話をしっかり聞いて。結城さんのことは忘れましょう。私とお兄さんがあなたに相応しい相手を探すのを手伝うから。あなただけを愛してくれる素敵な男性をね。将来、結城さんなんかよりもずっと幸せになれるって保証するわ。結城さんみたいに冷たい人と結婚した女性が幸せになれるとは限らないし。考えてもみて、誰があんなふうに毎日毎日氷山のように冷たい人と一緒にいたいと思う?」姫華はきつく下唇を噛みしめ、必死に涙を堪えていた。理紗は彼女がそんなふうに唇を噛んで出血しないか心配し、我慢できず夫の悪口を吐いた。「玲凰の大馬鹿者、こんな朝早くに私を悪者に仕立て上げるだなんて。姫華ちゃん、やめてちょうだい、そんなふうに噛んだら自分を傷つけちゃうわ。つらいなら思い切り泣いていいの。泣いて気持ちを吐き出すのよ。お義姉さんは余所者じゃないでしょ、家族なんだから、泣きたいなら泣いて。そうしたほうが気持ちが楽になるんだから。そうだ、私と一緒にショッピングに出かけましょうよ。たくさん買い漁るの。あなたが好きなものは何だって買っちゃうんだから。それか、あなたのお友達を誘って出かけてもいいじゃない?」姫華は手で目をこすり、唇を噛むのをやめた。笑おうとして笑ったが、その笑みは泣き顔よりも悲痛な表情を見せていた。彼女は「お義姉さん、私は大丈夫だから。前から知っていたことだし。あの日、理仁が結婚指輪をつけているのを見て、わかってたことだもの」と言った。「お義姉さんが言うことは正しいわ。この世界にはたっくさんイイ男がいるものね。それは理仁一人だけじゃないんだもの。私も別に彼じゃないとダメってわけじゃないし。彼がもう他の女性の夫になったんだっていうなら、彼への気持はもう諦めるわ。これでよかったの、彼がようやく私を完全に諦めさせてくれたわ」理仁が結婚指輪をしている
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第567話

「これこそ私があなたを気に入っているところなの。人によっては相手が結婚しているかどうか無視して好きになったら真実の愛だとかなんとか言って、人の結婚をめちゃくちゃにしようとする人間もいるでしょう。ああいう人って、私本当に嫌いなのよね」彼女が言ったことは心から出て来た言葉だった。義妹である姫華の人となりがかなり良いからこそ、彼女は夫側の家族たちと同じように、まるで血の繋がりがあるかのように義妹に接しているのだ。それがもしクズのような人間であれば、彼女はこのような人間の相手などしたくない。「お義姉さん、私はもう大丈夫だから、もう一度寝てちょうだい。お兄ちゃんにも、私のことは心配しないでって伝えて。私だって別に結婚できないような女じゃないんだからね」「わかったわ、じゃあ私は部屋に戻るわね。あなたももう一度寝直したら?」「私は寝なくていいや。後で唯花を誘って遊んでくる。そうだわ、昨日うちのパティシエが作ったあのお菓子とても美味しかったわね。残ってるかどうかわからないけど、唯花と明凛の分を包んで持っていってあげようっと。あの子たちは二人とも甘いものが大好物だから」それは彼女の義姉と同じだった。神崎家には本来パティシエは雇っておらず、ずっとシェフがお菓子作りも担当していた。しかし、理紗が結婚して神崎家にやってきてから、彼女の兄が特別に理紗のために腕の良いパティシエを雇ってきたのだ。理紗のために様々なお菓子を作る専属パティシエだ。理紗は笑って言った。「私も食べてみたけど、とっても美味しかったわ。パティシエにはまた新しく今日デザートをお願いしていたの。下におりてみて、きっとできているはずよ。多めに唯花さんたちに持って行ってあげて。もし彼女が好きなら、毎日届けさせてもいいわよ」内海唯花がもしかすると夫の従兄妹かもしれないので、直接はまだ会ったことはないが、唯花に対して好感を抱いているのだ。「彼女はきっと好きよ」唯花と明凛の話題になり、姫華は話す時に笑顔を浮かべていた。あの二人はどちらも食いしん坊だから、確かに親友になるのは自然のことだろう。性格もだいたい似ている。話題が逸れた後、姫華は理仁が結婚していることはさほど気にしなくなったので、理紗は安心して自分の部屋に戻っていった。玲凰は部屋で妻が戻って来るのを待っていた。「姫華
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第568話

玲凰はため息をついた。そうだ、人生には後悔はつきものなのだ。……唯花は姉が借りているマンションへと向かった。そして、清水と陽を連れて、理仁と一緒に店に出勤した。彼女は理仁の車に座ってはいなかったが、彼が車で彼女の車の後に続いて送ると言ってきかないので、それをおとなしく受け入れるしかなかった。陽は母親と一緒にいたことで、だいぶ落ち着きを取り戻していた。それに清水に遊んでもらうこともまた慣れたので、唯月はようやく働き始めることができたのだ。試用期間はまだ終わっていないので、ずっと休みを申請するわけにもいかなかった。店に到着してすぐ、理仁は唯花に催促した。「エタニティリングを早く」唯花「……つけるわ、今すぐつけるから。今後はずっとこの手につけ続けるって約束するから」そして、彼女はレジの前に行き、鍵で引き出しを開けた。あの相当に価値のあるエタニティリングはその引き出しの奥の方におとなしく眠っていた。それを見た理仁の顔色が闇夜の如く暗くなっていた。彼女はなんと適当なのだろうか。唯花はその指輪を取り出すと、再び薬指にはめ直した。昨夜、とりあえず応急措置でつけていたあのゴールドの指輪は、この日家を出る前にすでに外してあった。「ほら、確認した?」唯花はわざとらしく自分の手を彼に見せびらかした。理仁はこれでようやく満足してくれた。「ほらほら、早く会社に向かって。送れちゃうわよ」理仁「……」いつもいつも、早く早くと彼を追い出そうとするよな!彼女はちっとも彼のことを恋しいと思ってくれないのか。「陽ちゃん」明凛が店の奥から出てきて、陽が来たのを見ると、笑顔で向かってきて清水のもとから陽を抱き上げた。そして、理仁に挨拶代わりに少し会釈をした。本来は妻からキスの一つでももらってから出勤するつもりだったが、明凛が出てきたので、この淡い期待は悲しくも消し去るしかなかった。理仁は淡々と「どうも」と明凛に返事し、挨拶を済ませてから、すでに自分の近くからは去っていたあの人にもう一回意味深な目線をやり、背中を向けて店を去っていった。数歩進んで、また足を止め、振り返って唯花のほうを見た。明凛が唯花がつけているあのダイヤの指輪を見てきたので、唯花は手をまっすぐと伸ばして親友にそれをじっくりと見せていた。理仁
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第569話

姫華はただ自分の見間違いだと思った。理仁はいつもあのロールスロイスに乗っているのだ。それにいつも黒い何台かのボディーガードの車もしっかりと後についている。また、理仁がこんなところに現れるわけもない。彼の家族で、星城高校に通っている人もいない。それで、姫華はさっきのことを記憶に留めなかった。唯花の本屋の前に着くと、彼女は車を止めた。すると、唯花が陽を抱っこして店から出てきた。「唯花、私が来たってわかったの?」姫華は車を降りながら笑って言った。「しかもわざわざ陽ちゃんと一緒に出迎えに来てくれるなんてね」「そうじゃないのよ。これから陽ちゃんを連れてスーパーに行こうと思って」姫華はやって来て、陽を抱っこしようと手を伸ばしたが、陽のほうはぷいっとそっぽを向いてしまって唯花の首にしっかりと抱きつき「おばたんがいい」と言った。それで唯花はどういうことか説明した。「陽ちゃんは今だいぶ良くなったんだけど、いつもよく一緒にいる人とじゃないとまだ嫌がるのよ」「あの佐々木一家のクズ共のせいね!」姫華は可愛い陽を抱っこすることができず、思わずまた佐々木家を罵った。そして、尋ねた。「お姉さんはあのクズと離婚できた?」「したわ。昨日離婚したの。財産分与した分もちゃんと口座に入金されたわ。住んでいた家の内装費だってしっかりといただいたしね」唯花は陽を抱っこしたまま店に戻った。姫華が来たので、彼女はひとまずスーパーに行くのはやめることにしたのだ。「こんなに朝早く来るなんて、鑑定結果が出たの?」姫華一人だけで、神崎夫人の姿は見えなかった。恐らく、結果が出て彼女と神崎夫人には血縁関係がなかったのだろう。「結果はまだ出てないの。お母さんが明日の昼に出かけて取りに行くって。私今日あんまり気分が良くなくて、あなたの所に来たってわけ。あなたとおしゃべりしたら気分も良くなるからね。お母さんも一緒に来たがっていたんだけど、来ないでって言ったの。だって、私がこの鬱憤をスッキリ晴らしたいんだもん」姫華は理仁に長年恋焦がれていたので、短い時間で彼への気持を整理しろと言われても、それはなかなか難しい問題なのだ。彼女は辛く、心に傷を負っていたが、家族の前では泣きたくないのだった。それは家族に心配をかけたくないからだ。唯花は彼女の気持ちを理解してくれる
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第570話

姫華はお茶を一杯飲んだ後、つらそうに口を開いて言った。「唯花、結城社長、本当に結婚していたのよ」唯花はそれを聞いて目をパチパチさせた。「この間、彼は結婚指輪をはめていたって言ってなかったっけ?」それなのにどうしてまた結城社長が結婚しているなどと今日も言ってきたのだろうか。姫華は少し黙ってから言った。「彼が結婚指輪をしているのは見たけど、心の中では少しそうじゃないって期待もしていたの。彼がわざと指輪をつけているのを見せて私を諦めさせようとしているんじゃないかって」明凛は彼女に尋ねた。「もう確定したの?結城社長が本当に既婚者だって」姫華は頷いてそれに答えた。「結城社長がインスタで自分は結婚しているっていうのを公表したのよ。これは今星城の上流社会でかなりの衝撃を与えているわ。多くの人が結城社長の奥さんは誰なのか知りたがっているの。今も芸能記者たちが結城グループと結城社長の邸宅を見張って、一番最初にビッグニュースを手に入れようと争っているわよ。だけど、ここに来る前にどんな報道もされていないから、きっと何も情報が得られてないんでしょうね」唯花は驚いて一瞬言葉が出せなかった。「メディアはそんなに彼の結婚に注目してるわけ?」明凛と姫華は同時に唯花のほうを見た。唯花は気まずくなってハハハと笑った。「私、ずっと結城社長なんて全然知らなかったし、私からはかなり遠い存在だって思ってるし、一生関わりを持つような相手ではないでしょう。だから私がこんなことに注目するはずないじゃない。そんな時間があったら、招き猫でも作ってお金を稼いでいたほうがマシよ。明凛が彼の噂をするのが好きで、よく私に話していたから、彼のことを知ってるだけよ」姫華「……星城一のトップ富豪である結城御曹司で、かつ結城グループのトップに立つ人よ。高貴な身分だし、おまけにかなりのイケメンでしょ、ずっと独身を貫いていて、恋愛話すらも聞いたことがなかったのに、突然『結婚しました』だなんて宣言したんだから、そのひとことで世間はかなり大騒ぎなのよ。だから記者たちはどこの令嬢が結城社長の妻になるっていう、そんな幸運の持ち主なのか知りたくて知りたくてたまらないの。芸能記者たちだけじゃなく、私たちだって知りたいのよ。だけど、お兄ちゃんでも調べることができなかったわ。一体結城家の若奥様になったのはど
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