桜子は思いもよらなかった。隼人が自分を連れてきたのは。かつて三年間、彼女が一人で暮らしていた、あの部屋だった。「んんっ......」隼人は静かにベッドに降ろそうとしていた。けれど、桜子は暴れる子猫みたいにじたばたして。そのまま、彼の腕からすり抜け。どさっ!勢いよくベッドに突っ伏した。幸い、桜子の顔は『整形ゼロ』。もし作り物だったら、鼻が終わってたかもしれない。「自分で転がったんだろ。俺はちゃんと下ろすつもりだったけど?」隼人は目を細め、微かに笑みを浮かべた。「クソ男......言い訳だけは一人前ね」桜子は唇を尖らせ、不機嫌そうにうつ伏せのままぼそっと言った。彼女は身を起こそうとしたが、次の瞬間。「きゃっ......」隼人が素早く足首を掴む。そのまま体を乗り出し、桜子の上に覆いかぶさった。「ちょっ......足、放してよ!変態なの?」スカートの中が見えそうで、焦りまくる桜子。いくら身のこなしに自信があっても、隼人相手じゃ子どもレベル。隼人の指が、彼女の足首をしっかり掴んだまま。その視線が。頬、唇、首筋、鎖骨へと、じわじわと落ちていく。胸の奥が熱くなる。息が、自然と荒くなっていく。そんなとき。「......っ!」隼人のこめかみに鋭い痛みが走る。彼は目を閉じ、額を押さえる。「隼人......いたい......やめて......」「いい子にして、すぐおさまるから......」「できるだけ優しくする。......約束するよ......」知らない声が頭の中に響く。いや、知らないはずなのに、どこかで確かに『聞いたことがある』。そして、映像がよぎる。この部屋で、誰かと肌を重ねていたような......そんな場面。「......そんなわけ、ないだろ......」彼は誰とも、そんな関係になったことなんてないはずだった。その隙を、桜子は逃さなかった。「どいてっ!」小さな足が、彼の腹にストレートヒット!手加減はしていた。けれど、隼人の身体が大きく揺れた。「っ......!」ふらりと後退し、壁に手をついてなんとか体勢を立て直す。その顔は真っ青で、額には汗が滲んでいた。桜子は驚き、思わず固まる。
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