深夜零時を過ぎても、慎一はまだ寝室に戻ってこなかった。まあ、それ自体はいつものことだ。でも、今日はどうしても彼に相談したいことがあった。どうしても一度、海外に行きたい。そのことは彼に隠せない。別荘の中は、まるで闇に呑まれたように静まり返っている。書斎も灯りは消えていた。もしかして一階の客間にいるのかと探してみたけれど、どこにも彼の姿は見当たらない。私は再び二階へ引き返した。書斎の扉が半分開いている。「慎一?」返事はない。窓の外から射し込む月明かりを頼りに中を覗くと、本棚の端に立てかけていたはずの脚立が床に倒れており、数冊の本が棚の上から落ちていた。整然とした中に、思わぬ乱れが混じっている。慎一は机に突っ伏したまま、浅い眠りに落ちていた。長い睫毛が小刻みに震え、明らかに安らかな眠りではない。私はそっと彼の肩を揺らした。「慎一、もう寝室に戻ろう」慎一はゆっくりと目を開け、ぼんやりと私を見つめる。まだ夢の中にいるようだった。掠れた声で、「なんで、ここに?」と問いかけてくる。「まだ仕事してたの?明日にしたら?もう寝る時間よ」雲香が毎晩彼に甘えているのだと思っていたけど、案外、彼女は休みになると夜な夜な遊び歩いて朝帰りばかりだ。で、その兄は誰にも気にかけられず、こんなところでひとり眠っていた。まだ覚醒しきっていない慎一は、ぼんやりとしたまま私を引き寄せて抱きしめた。「どこで寝ればいい?」「寝室でしょ」硬く短い髪が私のパジャマに触れ、ちくりと痛くてくすぐったい。私はパジャマの袖をぎゅっと握りしめ、ぎこちなく立ち尽くす。このところ、私たちの間はずっと冷え切っていた。お互いに忙しすぎて、相手を気遣う余裕もない。こんなふうに静かに、少しだけ甘えた言葉を交わすのは、本当に久しぶりだった。「戻りたくない」彼は私の胸元に顔を埋め、くぐもった声で呟く。その熱い吐息が私の胸元に届き、心臓がざわつく。寝るだけのつもりだったから、私は下着もつけていない……私は少し身を引こうとした。彼は顔を上げて私を見上げ、どこか寂しげな眼差しを向けてくる。まるで私が彼を拒絶したみたいで、私の中にイライラが込み上げてくる。もう彼の意思なんてどうでもよくなって、私は彼の手を握ると、ぐいっと椅子から引き起こした。彼は素直に私について
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