Semua Bab 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん: Bab 391 - Bab 400

404 Bab

第391話

凛は単刀直入に切り出した。「内藤先輩、C122実験室は先輩が借りたんですか?」「C122?」一は一瞬ぽかんとし、すぐには反応できなかった。凛は続けた。「内藤先輩が現在取り組んでいる課題を調べましたが、CPRT測定器は全く必要ないはずです」一は視線を落とした。最初の驚きはすでに消え、今はすっかり冷静さを取り戻していた。再び顔を上げたときには、目の中にあった戸惑いもすっかり消え、ただ平然とした表情が残っていた。「そう、僕が借りたけど」凛と学而は、そっと視線を交わした。「必要があったから借りたが、何か問題でも?」凛は問い返す。「ではなぜ、私が何度も前を通っても、実験室が使われている様子がなかったんですか?」一は淡々と答えた。「頻繁には使わないが、ときどき必要になるんだ」その答えに、早苗が今にも「それって資源の無駄遣いじゃないの?」と口にしそうになっていた言葉を、思わず飲み込んだ。使っているのなら、無駄とは言えない。研究科の資源は皆で共有するものであり、原則は早い者勝ち。文句をつける余地など、彼にはまったくなかった。「では先輩、あとどのくらいその実験室が必要なんですか?」凛は聞いた。一は答えた。「まだ分からない」「了解しました」凛は静かに彼に頷いてみせ、それから学而と早苗に目配せして、退出を促した。一は三人の背中を見送っていたが、そこに勝ち誇った様子はなく、むしろ眉間にしわを寄せていた。彼は実験室へ戻って残りの作業を終えたあと、白衣を脱ぎ、私服に着替えてオフィスへと足を運んだ。上条の研究室のドアはきちんと閉まっておらず、入口に着いた瞬間、中から声が聞こえてきた――「この奨学金の方が金額が高いのに、なぜこちらに応募しないの?」それは、真由美の声だった。「国家奨学金は、あなたが望めばすぐに申請できるようなものじゃないのよ。今回は特別に、学校の奨学金を一つ申請しておいたわ。金額は国家奨学金ほどじゃないけど、そのぶん目立たないし、変に注目されにくい。あなたは入学したばかりで、すでに十分話題になってるんだから、他のところではもう少し控えめにした方がいい」真由美は不満げに口を尖らせた。「でもその奨学金、国のとは比べものにならないじゃない……それに、なんで国家奨学金が内藤に行くのよ?」「彼には論文
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第392話

一は聞いた。「先生は、僕の名義で教務課に研究室の申請をされたんですか」「ああ、そういうことだったね」「その研究室は、どなたが使う予定ですか?相手に連絡したいので」彼の問いに、上条は微笑んだままこう返す。「誰にも使わせないわよ」「……そのまま空けておくんですか?」予想していた返答ではあったが、一の胸の内に、重たい何かがのしかかってくる。「ええ、空けておくの」これ以上突っ込むべきではないと、理性ではわかっていた。これまでも何度も、同じように受け入れてきたのだ。だが――ふいに、脳裏に浮かんだのは、あのまっすぐ問い詰めてきた、凛の姿だった。気づけば、言葉が口をついていた。「……使う予定がないのなら、なぜ申請を?」その瞬間、上条の眉がわずかに動いた。まるで、飼い慣らしていた犬に噛みつかれたかのような顔つきだった。それでも彼女の笑みは、むしろさらに穏やかさを増した。「今は使わなくても、いずれ必要になるかもしれないでしょう?リソースっていうのはね、取れる時に取っておくものよ。早い者勝ち、そんなこと、今さら私が教えるまでもないでしょう?」「あの部屋に、何か特別なリソースがあるんですか?」一の問いかけに、上条は当然だという顔で微笑んだ。「あるに決まってるでしょう?CPRT測定器が置いてあるじゃない」一が念を押すように言った。「でも、うちの研究チームには、すでに一台あるはずです」「二台あって困るものじゃないわ」「……僕たちには重複した無駄な設備でも、他の研究グループにとっては極めて重要な――」「内藤くん」上条が彼の言葉をぴしゃりと遮った。「今日はそんなに暇なの?研究室のやることはもう全部終わったわけ?」「……いえ、まだです」その返事に、上条の表情が一気に冷えた。「じゃあ、自分のやるべきことを先に終わらせなさい。余計なことに口を出す必要はないわ。あなたが天才で、これまで素晴らしい実績を積んできたことは否定しない。でもね――今のあなたが何を使い、どこで研究できているか、それが誰の与えた環境か、わかってるわよね?」一の口元が強ばり、一瞬、顔の筋肉がぴくりと動いた。上条は冷ややかな視線で彼をじっと見つめ続ける。そしてついに――彼は視線を伏せ、いつもの従順で角のない態度に戻った。「……申し訳ありません、先生」
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第393話

一は目を伏せたまま、表情からは感情の起伏は読み取れなかった。だが、袖の奥で握られた拳が、強く、そしてさらに強く締められているのがわかった。どれほどの沈黙が流れただろうか──やがてその拳が、糸が切れたようにゆるんだ。力を抜いたその仕草は、すべての抵抗を手放し、ただ従うことを選んだようにも見えた。「ありがとうございます、先生……これまで、色々と気にかけていただいて」「当然のことよ。あなたは私が最も誇りに思う学生なのだから。直系の弟子は特別扱いされるべき……違うかしら?」一は、何も言わなかった。彼はもともと寡黙で、同級生や教員からも無口で実直な学生と見られていた。「……じゃあ、戻りなさい。論文の件は、無理に今月中に仕上げる必要はないわ。スケジュールはあなたに任せるけど……あなたなら、きっと私をがっかりさせないって信じてる」一は無言でその場をあとにした。上条は椅子に腰を戻すと、手元の湯呑みに口をつけ、ひと息つく。「さすがはおばさん!あの内藤を、あんなに素直にさせるなんて!」真由美が嬉しそうに近づき、笑いながらそう囁いた。……研究室が借りられず、一も申請を取り下げるつもりはない。ならば、もう自分たちでどうにかするしかなかった。早苗のような食いしん坊でさえ、怒りのあまり夕飯を抜いていた。「ひどいよ、ほんとにひどすぎる!学校は何もしてくれないの!?」苛立ちをぶつける早苗に、学而が冷静に答える。「学校が優遇するのは、より多くの成果を出せるチームだけ。内藤の申請は、手続きもルールもきちんと通ってる。学校が口を出せる余地なんてないよ。何の理由で動けっていうんだ?」早苗は大きなため息をつき、ふっくらとした両手であごを支えながらぼやいた。「でも、研究室がなかったら、私たちの課題、もう進められないじゃん……」「研究室そのものは空きがあるよ。問題はそこじゃない。問題なのは、CPRT測定器の方なんだ」学而は言った。あれさえあれば、どの研究室でもいい。「そのCPRT測定器って……高いの?」早苗がぽつりと問いかけた。凛は一瞬、言葉に詰まる。学而の手も止まった。数秒の沈黙ののち、ぽつりと漏らす。「その質問……意外と核心ついてるかも」そう言ってスマホを取り出し、すぐさま検索を始めた。「……今、市場に出回ってる中で
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第394話

三十秒ほど経った頃、チーンと軽やかな着信音が鳴った。早苗はスマホのホーム画面に戻り、ちらりと確認すると——やっぱり入金通知だった。電話の向こうで、川村政司(かわむらせいじ)の声がした。「どうだ、届いたか?」「うんうん、ちゃんと届いたよ!」振り込まれていたのは、2000万円ではなく――3000万円だった。わーい!パパ、1000万も多く入れてくれてる!「普段から無理して節約なんかするなよ。お金が足りなくなったら、またパパに言うんだぞ、いいな?!」「うん!わかったよパパ!」通話を切ると、彼女はスマホをぽんとしまった。そしてふと振り返ると、学而と凛がじっとこちらを見ていた。早苗はきょとんと目をぱちぱちさせた。「……ちゃんとお金もらえたよ?なんでそんな目で見てるの?」学而は目を細め、腕を組んだ。「早苗……君、いろいろ隠してたね?」「?」「実家は村だって?」「そうだよ。うちのあたりは都市型の村ってやつで、周りは全部商業エリアとか高級住宅街なの。環境もすごくいいし、めちゃくちゃにぎやかなんだから!」学而は沈黙した。凛がつぶやく。「……ご両親は失業中で、ビルの管理してるって?」「うんうん。あの辺のビル、八十何棟か全部パパのものなの。大家さんだから、住人から水漏れだのブレーカー落ちただのって電話がしょっちゅうかかってきて、それでパパが対応してるの。行ったり来たりして、まるで管理会社の人みたいでしょ?」つまり、自分で持ってるビルを自分で管理してるってことか。凛は絶句した。学而が慎重に口を開いた。「……じゃあ、漁に出るっていうのは?」「へへっ、ママはヨットでパーティーするのが好きで、パパは海釣りにハマってるの。だから二人してよく海に出てるのよ〜」ヨット……そんなレアな単語!学而はじっと早苗を見つめて、ゆっくりと口を開いた。「……つまりさ、君の家って、全然貧しくないよね?」その言葉に、早苗はようやく驚いたように目を丸くした。「えっ?なんでうちが貧乏だと思ったの?」彼女の問いに、学而は言葉に詰まりながら、彼女を上から下まで見やった。Tシャツに、短パンに、ビーチサンダル……そう、彼女は今やクロックスすら履かず、素足にビーサン一足であらゆる場所を闊歩している。「いや、その……正
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第395話

「じゃあ私は何すればいいの?」早苗が首をかしげて尋ねた。「お金の管理、お願い」その日のうちに、凛と学而はそれぞれ840万を早苗の口座に振り込んだ。あ~お金があるって、なんて幸せなんだろう~!早苗はビスケットをかじりながら、にっこにこで銀行カードを撫でていた。たしかに彼女の家は裕福だ。でも、それでもお金が大好きなのだ!金の魅力には永遠に抗えない――この点は父親譲り。ふふっ。……凛は、CPRTの国内正規販売代理店が「千陽テクノロジー」というスタートアップ企業であることを突き止めた。さらに調べを進めると、この会社の大株主が村田陽介(むらだようすけ)という人物であることがわかった。そして村田陽介名義で登録されている企業を検索していくうちに——複雑に絡み合った関係図の中から、ひとつの見覚えのある名前が浮かび上がった。堀川悟。「凛さん、最近どうっすか?」「まあまあね。そっちは?」凛は穏やかに返した。「いや~、聞いてくださいよ。この前転んじゃって、すねの骨を骨折しちゃって……もう一週間も病院のベッド生活っすよ」「そんなに?大丈夫なの?」凛は少し驚いた。「まあ命に別状はないんすけど、とにかく退屈で退屈で。俺、じっとしてるのが一番苦手なんすよ。毎日寝たきりとか、マジで地獄」それだけか!「骨のケガは百日かかるって言うでしょ。ちゃんと医者の指示に従って、無理せず静かに養生しなさい。下手に動くと、あとで後遺症が残るわよ」「はいはい。了解っす。凛さん、で、今日は何か用事があって電話くれたんすよね?」凛は本題を切り出した。「……CPRTって何っすか?CPRなら知ってますけど……」悟の声が少し間抜けに響いた。凛は穏やかに説明した。「動態測定器の一種で、主に生物学の研究に使われるものよ」「で、凛さんが言ってたその会社って……」「千陽テクノロジー」「そうそう、それなら心当たりある。確かに俺の名義でテック系のベンチャーに投資するファンドがあるんだけど、あの分野はあまり得意じゃなくてさ。基本的には他人のあとについていく形で、短期の投資しかしてない。この千陽って会社も、たしか広輝に合わせて出資した案件だったと思う。俺は資金を出すだけで、経営戦略や具体的な運営には関与してないから、社長に一度も会っ
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第396話

凛は少し戸惑った。広輝はさらりと言った。「彼こそが社長だよ」「……」結局、ぐるっと回ってまた知った顔に辿り着いた。通話を切ったあと、凛は深くため息をつき、観念したように時也の番号を押した——あの日、自分が言った「あなたって、計算高すぎるから、これからはあまり関わらない方がいい」って台詞、あれは本音だった。あの男はまるで狡猾な狐。油断すれば、たちまち罠にかけられてしまう。だからこそ——凛が出した結論は、最も簡単で、最も有効な方法。それは――距離を取ることだった。しかしそんな言葉を口にしてから、まだたいして時間も経っていないのに、結局また自分から連絡を取る羽目になった。なんというか、結構痛いね。……一方その頃、広輝はスマホをポケットにしまいながら、ベッドでぐっすり眠っているすみれに視線を向けた。その瞬間、湧き上がってきたのは怒りだった。「時間ぴったりに来い、1分でも遅れたら許さないって言ったの、誰だよ?!なのに、どうなった?俺は時間通り来たのに、肝心な人はまだ夢の中!もう四十分も待ってるんですけど、すみれさん?良心はないのか?!」ベッドの上の彼女は身じろぎし、軽く寝返りを打っただけで、またすぐに深い眠りに落ちていった。「……は??」広輝は苛立ちを隠さず、ベッドのそばまで歩み寄った。「なあ、昨夜またどっかで遊び歩いてたんじゃないだろうな?」問いただしながら、視線は部屋の隅々をレーダーのように巡っていた。幸い、男の痕跡は見当たらなかった。だがそのとき、広輝の視線がふと止まる――ベッドサイドのテーブル。コップが二つ?!広輝の中で、理由もない怒りが一気に噴き上がった。説明なんて要らなかった。ただ、猛烈に腹が立った。「す!み!れ!」ドン!返事の代わりに、枕がひとつ飛んできて、彼の頭に命中した。ベッドからむくりと起き上がったすみれは、寝起き特有の不機嫌さ全開で怒鳴った。「……いー加減にしてくんない!?さっきからずっとガミガミガミガミ……うるっさいのよ!?待てるなら勝手に待ってろ!待てないなら出てけ!」彼女の眠りを妨げる権利は、誰にもない。広輝は「……?」と、眉をひそめた。あろうことか――彼女は、まだこんなにも堂々と人を罵ってくるのか!?「すみ——」「出
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第397話

「あったよな!お前ってさ、気が短いだけじゃなくて、記憶力もガタガタなの?どうなってんの?」そう言われたすみれは、勢いよく枕を投げつけた。「うるさい!」広輝はひょいと首を傾けて華麗に避けた。その手慣れた動きは、どう見ても常習犯だ。すみれはさらにもう一つの枕を手探りで探そうとしたが――「無駄だよ、それならこっちにある」広輝は背後を軽く叩いてみせた。「……え、なんでそっちにあるの?」すみれはぽかんと目を丸くする。「……」ほらね。記憶力が悪いって、これで確定だ。「お嬢さん、さっき一発投げたよね?これで二発目」「……あ、そう」なんとも言えない空気が流れた。気まずい。「で、今何時?」「……十時半」また彼の心をえぐるような一言だった。「慌てなくていい、まだ時間あるでしょ。将来の義母に会うんだから、ちょっと念入りにおしゃれしたって許されるでしょ?」「……」「ちょっと取って——」「水だろ?」広輝は即座に返事し、化粧台からカップを取って差し出した。中にはすでに水が注がれていた。「はい、さっさと飲んで。飲んだら起きて、準備して出かけるぞ!」すみれは手を伸ばしてカップを受け取ったが、すぐに眉をひそめた。「……これ、お湯?」「そりゃそうだろ?女の子って、基本ぬるま湯飲むもんじゃないの?」「冷たいのに替えて」すみれはきっぱりと言った。「いや……朝からそんな冷たいの飲んで、大丈夫なのか?」そう言いつつ、彼自身も朝から冷たい飲み物を飲むタイプではあった。でも違う。彼女は女の子なんだから。「女だからって何?」すみれはあきれたように目を白く剥いた。「女はみんなぬるま湯しか飲まないって、誰が決めたのよ?バカじゃないの?」「俺の……」「元カノたちでしょ?」すみれはにっこりと続けた。「……」「ほんと、バカね」「ちょっと待って、なんでお前っていつもそんなに人のこと罵るの?」「じゃあ聞くけど、あなたの元カノたちって、タピオカミルクティーは飲まないの?お寿司は食べないの?冷たいカクテルは?」「……なんでそんなこと根掘り葉掘り聞くわけ?」「だって、今挙げたの、どれも冷たいか生のものよ?結局、彼女たちは食べるの?食べないの?」……あっ。返す言葉が見つからない。すみれは気持ち良く背
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第398話

「おい、何ぼーっとしてるの?コップ、ちょうだい」その瞬間だった。光に包まれた幻想は、彼女のその一言で――パリンと音を立てて砕け散った。広輝は口元を引きつらせた。「……ひとつ、提案してもいい?」「……言ってみなさいよ」すみれは冷たい水をひと口飲んで、すっかり目が覚めたようにすっきりとした表情で言った。「俺と話すとき、もうちょっと優しくできない?俺たち、一応恋人同士だよね?敵じゃないんだから……そういう話し方だと、母さんが心配するって」「……何を心配するの?」「息子が彼女にいじめられてるんじゃないかって、心配するに決まってるだろ!」「……」すみれは無言で、目をぱちくりさせた。「ねえ、ダーリン、こういう感じで話せばいいわけ?このワンピース、お義母さん気に入ってくれるかなあ、あたしすっごく悩んで選んだのよぉ~」……その甘ったるい声を聞いた瞬間、広輝は全身に鳥肌が立った。「……やっぱり、元のままでいい。怖いくらいがちょうどいい」素っ気ないくらいのほうが、まだまともに聞こえる。彼女のその妙に甲高い声を聞くたびに、次の瞬間には絞め殺されるんじゃないかという錯覚に襲われた。「もう一度怖いって言ってみなさい?」「怖いなんて……ぜ、全然そんなことない……」ん?今のにも怖いって言ってなかったか?!すみれは、最短の時間でさっとナチュラルメイクを仕上げた。「よし、行くわよ」広輝は思わずぽかんと口を開けた。「そのメイク……」「どう?ナチュラルでしょ?これはね、ノーメイクメイクっていうの。化粧してるのに、してないように見せるのよ。あんたみたいな男を騙すためのね。見事でしょ?」これまで何度もその手に騙されてきた広輝は、何も言えずに黙り込んだ。今の台詞、ひとことひとことが全部自分に刺さってる気がするのは気のせいか?二人が桐生家に到着したのは、もうすぐ正午になろうという頃だった。桐生小百合(きりゅうさゆり)は玄関先で何度も外を見やり、ようやく息子の車が視界に入ると、ぱっと笑顔になって迎えに出た。すみれが車を降りた瞬間、彼女の手はすぐに小百合に取られた。「すみれ、いらっしゃい。早く中に入りなさいな。外は日差しが強いから」そう言って、すみれを嬉しそうに家の中へと連れていく。広輝は黙り込んだ。え、俺は?息子は
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第399話

「ずいぶん待たされるかと思ってたけど、あの子ったら意外と動きが早かったわね。ちょうどいいわ、ようやく役に立つ時が来たって感じよ」やっぱり、これはオークションレベルの品だ。安く見積もっても8桁、場合によっては9桁にも届くかもしれない。「ダメです、おばさま、私こんなもの受け取れません!」すみれは反射的に手を振って押し返した。もし彼女が広輝の正真正銘の恋人なら、どれほど高価なブレスレットだって、胸を張って受け取る。だけど、実際は偽の彼女にすぎない。そんな自分が、何千万、いや何億もする品物を受け取るなんて……考えただけで良心が痛む。「ただのブレスレットじゃないの、大したものでもないわ。心配しないで、これは何かを強要したいわけじゃないし、結婚を急かすつもりもないの。ただ、おばさんが心からあなたに贈りたいと思っただけよ」そう言いながら、小百合はそっとブレスレットを箱から取り出し、自らの手で彼女の手首に優しくはめた。「サイズもぴったりね。肌の色にもすごく映えるわ」極上の帝王緑なんだから、映えないわけがないでしょ。すみれは心の中でつぶやいた。二人が部屋から出てくると、ソファに座っていた広輝がニヤけながら声をかけてきた。「何の話で部屋にこもってたんだ?しかも、ずいぶん長かったじゃん……」「はいはい、あなたは私が彼女を独り占めしてたのが気に入らないのよね。じゃあ返してあげるわ」小百合はそう言って、笑いながらすみれの背中を押した。「母さん、そんな冤罪やめてよ。別にそんなこと……」広輝はツンと顎を上げて、まるで拗ねた子供のようだった。午後、すみれは極上のアロマSPAを満喫した。外のエステなんて比べものにならないくらい、技術もサービスも素晴らしい。そのあと、階下へ水を取りに降りた彼女は、ちょうどグラスを手にしたところでスマホの着信音に気づいた。そのままリビングの大きな窓辺に歩いていき、電話に出る。「もしもし」「……庄司さん、僕のこと覚えている?三浦太陽だよ」すみれの目がわずかに細められる。あの夜、ホテルでの出来事が脳裏をよぎった。口元に意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりと答える。「もちろん、覚えてるわ。どうかしたの?」「あの日以来、連絡がなかったから……もう忘れられたのかと思ってた」電話の向こうから聞こえてくるの
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第400話

正確に言えば、彼女と広輝見つめていたのだ!小百合は目を細めて嬉しそうに言った。「見て、このふたり、なんてラブラブなのかしら!」伊達は感慨深げにうなずきながら言った。「坊っちゃんが女の子にこんなに積極的なの、初めて見ましたよ」小百合は誇らしげに笑いながら言った。「すみれが普通の女の子なわけないでしょ?出自も育ちも抜群で、何をとっても一流よ。あのバカ息子、やっとまともなことをしてくれたわ」「坊っちゃんは肝心なところをちゃんと押さえる子ですから、大事な場面では絶対にヘマしませんよ」「あの子がすみれとずっと一緒にいてくれたら、私、寝てる間に笑って目が覚めちゃうわよ」「あれ?坊っちゃんの顔色、なんだか優れないみたいですね?」「そう?」小百合は目を細めてじっと見つめた。「……ほんとだ、なんだかすみれの体も少し硬直してるように見えない?」若い二人があんなにぴったりくっついてるのに、なんだか様子がおかしいわね……普通ならもっと自然なはずなのに。階下で、広輝が言った。「動くなよ、母さんがもう疑い始めてる」「おばさま、いつから来てたの?」「電話に出る前からあそこにいた」「……」しまった、ますますやましい。「あら、ただ抱きしめてるだけ?もう少し何かあってもいいんじゃない?」小百合は言った。この言葉は、すみれにはっきり聞こえた。彼女は責任感の強い人間だ。自分で蒔いた種は、自分で刈り取るべきだと心得ていた。彼女はじっと広輝を見つめた。「キスして」「!」「何をぼんやりしてるの?早く!」広輝の喉仏がごくりと動き、その眼差しはますます濃く、まるで底知れぬ深淵に妖しい渦が巻き起こるようだった。そして次の瞬間、彼は容赦なく彼女の細腰を抱き寄せ、強引かつ一切の拒絶を許さぬ気迫で、唇を奪った。「――っ!」すみれは思わず息を呑んだ。唇が触れ合い、熱く湿った舌が絡む。「あらまあ!キスしたわよ、キスした!伊達さん、早く下がりましょ、ふたりが気まずくならないうちに」「まったくその通りですわ」そう言って、小百合たちは立ち去った。――パンッ!乾いた音がひとつ、部屋に響いた。「ちょっ……なんでいきなりビンタ?」広輝は訳が分からず、目を見開いた。すみれの膝は震えていた。「あんた、ほんとにキスするなんてどうい
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