凛は単刀直入に切り出した。「内藤先輩、C122実験室は先輩が借りたんですか?」「C122?」一は一瞬ぽかんとし、すぐには反応できなかった。凛は続けた。「内藤先輩が現在取り組んでいる課題を調べましたが、CPRT測定器は全く必要ないはずです」一は視線を落とした。最初の驚きはすでに消え、今はすっかり冷静さを取り戻していた。再び顔を上げたときには、目の中にあった戸惑いもすっかり消え、ただ平然とした表情が残っていた。「そう、僕が借りたけど」凛と学而は、そっと視線を交わした。「必要があったから借りたが、何か問題でも?」凛は問い返す。「ではなぜ、私が何度も前を通っても、実験室が使われている様子がなかったんですか?」一は淡々と答えた。「頻繁には使わないが、ときどき必要になるんだ」その答えに、早苗が今にも「それって資源の無駄遣いじゃないの?」と口にしそうになっていた言葉を、思わず飲み込んだ。使っているのなら、無駄とは言えない。研究科の資源は皆で共有するものであり、原則は早い者勝ち。文句をつける余地など、彼にはまったくなかった。「では先輩、あとどのくらいその実験室が必要なんですか?」凛は聞いた。一は答えた。「まだ分からない」「了解しました」凛は静かに彼に頷いてみせ、それから学而と早苗に目配せして、退出を促した。一は三人の背中を見送っていたが、そこに勝ち誇った様子はなく、むしろ眉間にしわを寄せていた。彼は実験室へ戻って残りの作業を終えたあと、白衣を脱ぎ、私服に着替えてオフィスへと足を運んだ。上条の研究室のドアはきちんと閉まっておらず、入口に着いた瞬間、中から声が聞こえてきた――「この奨学金の方が金額が高いのに、なぜこちらに応募しないの?」それは、真由美の声だった。「国家奨学金は、あなたが望めばすぐに申請できるようなものじゃないのよ。今回は特別に、学校の奨学金を一つ申請しておいたわ。金額は国家奨学金ほどじゃないけど、そのぶん目立たないし、変に注目されにくい。あなたは入学したばかりで、すでに十分話題になってるんだから、他のところではもう少し控えめにした方がいい」真由美は不満げに口を尖らせた。「でもその奨学金、国のとは比べものにならないじゃない……それに、なんで国家奨学金が内藤に行くのよ?」「彼には論文
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