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第395話

Author: 十一
「じゃあ私は何すればいいの?」早苗が首をかしげて尋ねた。

「お金の管理、お願い」

その日のうちに、凛と学而はそれぞれ840万を早苗の口座に振り込んだ。

あ~

お金があるって、なんて幸せなんだろう~!

早苗はビスケットをかじりながら、にっこにこで銀行カードを撫でていた。

たしかに彼女の家は裕福だ。でも、それでもお金が大好きなのだ!

金の魅力には永遠に抗えない――この点は父親譲り。ふふっ。

……

凛は、CPRTの国内正規販売代理店が「千陽テクノロジー」というスタートアップ企業であることを突き止めた。

さらに調べを進めると、この会社の大株主が村田陽介(むらだようすけ)という人物であることがわかった。

そして村田陽介名義で登録されている企業を検索していくうちに——

複雑に絡み合った関係図の中から、ひとつの見覚えのある名前が浮かび上がった。

堀川悟。

「凛さん、最近どうっすか?」

「まあまあね。そっちは?」凛は穏やかに返した。

「いや~、聞いてくださいよ。この前転んじゃって、すねの骨を骨折しちゃって……もう一週間も病院のベッド生活っすよ」

「そんなに?大丈夫なの?」凛は少し驚いた。

「まあ命に別状はないんすけど、とにかく退屈で退屈で。俺、じっとしてるのが一番苦手なんすよ。毎日寝たきりとか、マジで地獄」

それだけか!

「骨のケガは百日かかるって言うでしょ。ちゃんと医者の指示に従って、無理せず静かに養生しなさい。下手に動くと、あとで後遺症が残るわよ」

「はいはい。了解っす。凛さん、で、今日は何か用事があって電話くれたんすよね?」

凛は本題を切り出した。

「……CPRTって何っすか?CPRなら知ってますけど……」悟の声が少し間抜けに響いた。

凛は穏やかに説明した。「動態測定器の一種で、主に生物学の研究に使われるものよ」

「で、凛さんが言ってたその会社って……」

「千陽テクノロジー」

「そうそう、それなら心当たりある。確かに俺の名義でテック系のベンチャーに投資するファンドがあるんだけど、あの分野はあまり得意じゃなくてさ。基本的には他人のあとについていく形で、短期の投資しかしてない。

この千陽って会社も、たしか広輝に合わせて出資した案件だったと思う。俺は資金を出すだけで、経営戦略や具体的な運営には関与してないから、社長に一度も会っ
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