立花はしばらく考え込み、確かに一理あると思った。「立花社長、もう全部話したから、そろそろ寝てもいいかしら?」「行け」立花は何気なく手を振った。真奈が出て行こうとしたとき、立花がふいに声をかけた。「待て」「まだ何かあるの?」「石渕美桜は、冬城グループの株式譲渡契約書をお前に渡したのか?」真奈は淡々と答えた。「そういうこともあったわ」「その株式は、俺が買う」そのころ、唐橋が立花邸を出ると、黒い車が静かに近づいて彼を乗せた。先ほどまでおどおどしていた唐橋の顔には、氷のような冷たさが宿り、目には軽蔑の色が浮かんでいた。「瀬川真奈なんて大したことない、ちょろいもんだ」運転席の男は帽子のつばを深く下げ、低い声で言った。「ボスからの伝言だ。油断するな。その女は狡猾だ。もうその正体を疑っているかもしれない」「もし疑ってるなら、俺を解放するはずがないだろ?そんなの信じられるか」唐橋は鼻で笑い、続けた。「瀬川を過大評価するな。黒澤がずっと後ろ盾になってるから、今の地位があるだけだ」「君はまだ若い。人を見る目は当てにならない。人の心の中なんてわからないもんだ。瀬川が本当に何を考えてるかなんてな。今後は瀬川の信頼を得て、うまく内通者として立ち回ればそれでいい」その言葉に、唐橋は眉をひそめた。「年上ぶって説教するなよ。忘れるな、俺がお前の上司だ」「君のためを思って言ってるんだ」「そんなの、余計なお世話だ!」唐橋は冷たく言い放った。「自分の仕事をちゃんとやれ。出過ぎた真似はするな」「……はい」翌朝、真奈は早くから目を覚まし、まず黒澤の腕の傷を確認した。ほとんど治っているのを見てから、薬の塗り替えを続けながら言った。「ほんと、あなたって幸せな男だね。こんないい嫁をもらったなんて」「前世で徳でも積んだんだろ」「うそばっかり」包帯を巻きながら、真奈は続けた。「今日はちょっと出かけるわ」「唐橋家か?」「知ってたの?」「昨夜、ドアの外であんなに声を荒げてたら、知らない方が無理だろ」「じゃあ……私に何かいいアドバイスでもくれない?」真奈はわかっていた。黒澤はずっと洛城の情勢を見てきたし、唐橋家のことも少なからず把握しているはずだった。黒澤は真奈の期待に満ちた目を見つめ、ふっと笑って言った。「
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