その頃、レストランの個室では。立花は手元の時計に視線を落とした。時刻はすでに、21時15分。晩餐会が始まってから、すでに1時間以上が経過している。だが、あちらの様子は一向に伝わってこない。「立花社長、お宅と瀬川さんに目をかけていただけるなら、うちの息子の将来も明るいですよ。もう一杯、乾杯させてください!」唐橋社長は心から嬉しそうにそう言ったが、立花はその饒舌な口上にすっかりうんざりしていた。「チリリン――」そのとき、立花のスマートフォンが鳴った。画面には、登録されていない番号が表示されている。だがその番号は、立花にとって見慣れたものであった。すぐに通話ボタンを押すと、受話器の向こうから黒澤の焦った声が飛び込んできた。「ゴールデンホテルに罠が仕掛けられている!すぐに中へ突入させろ!」「……なにっ!?」その一言で、立花の眼差しが一瞬で氷のように鋭く冷えた。個室の空気すらも、凍りつくような緊張感に包まれる。その隣で、唐橋社長は事態を把握できず、戸惑いながら口を開いた。「立花社長、どうかなさいましたか?」唐橋社長がどう反応するかを見る間もなく、立花は片手で彼の喉元を掴み、顔を鬼のように歪めて言い放った。「よくも俺を騙しやがったな。瀬川に何かあれば、お前を唐橋家ごと葬ってやる」言い終えると、立花はさっと背もたれにあった上着を掴み、馬場に向かって命じた。「車を出せ。全員に突入させろ!」「承知しました、ボス」間もなく、立花の車はゴールデンホテルへと向かった。「ボス、すでにうちの者と連絡が取れました」「どういう状況だ?」「楠木社長の者が外で封鎖しており、我々の者は中に入れません」その報告を聞いて、立花の目に危険な光が宿った。「死にたいのか、あいつ!」「ボス……」「やれ。容赦なくやれ。今夜はゴールデンホテルを焼き払うことになっても構わない。瀬川だけは無事に連れ戻せ」「承知しました、ボス」ゴールデンホテルの五階廊下から宴会場を見下ろしていた白井は、もう二十分ほど真奈の姿を見ていなかった。真奈はまるでこの会場から忽然と姿を消したかのようだった。不審に思った白井が眉をひそめると、無線の向こうからハンターの声が響いた。「白井さん、二階廊下の突き当たりで脱ぎ捨てられた白いドレスを発見しました」
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