「確かに給料はいただいておりますが、それでも……」「もういい!」浅井は立ち上がり、いらだたしげに言った。「瀬川真奈のことを調査するように言ったでしょう?調べたの?」「会長の秘書が調べましたが、瀬川さんが海に落ちて生死不明で、冬城総裁もけがをしたことしかわかりません」浅井は不満げに声を荒げた。「そんなの全部ニュースで見たことじゃない。島に行って、直接調べることはできないわけ?」「それは……」池田さんは困ったように顔を曇らせた。「会長の秘書と冬城総裁の秘書・中井さんは立場が違いますから、何でも好きに調べられるわけじゃありません。せいぜいネットで拾える情報くらいで、お嬢様もそれはご存じでしょう……」「ほんとに役立たずね!」浅井は怒りを露わにしたが、どうすることもできなかった。田沼家は確かに裕福だが、冬城家とは比べものにならない。今は田沼拓郎のあの老いぼれも不在で、この家の人間も彼女の言うことを聞こうとしない。もう、頼れるのは自分だけだ。「車を用意して。冬城家に行くわ」「お嬢様、また行かれるんですか……」池田さんは口にすべきかどうか迷った。浅井はこのところ何度も冬城家に足を運んでいる。こんなことが世間に知れたら、みっともない話だ。「どうした?私の言うことを聞かないの?早く行きなさい!」「……はい」池田さんは部屋を出て行った。浅井は身なりを整えると、車に乗り込み、冬城家へと向かった。冬城家も今は混乱の渦中だった。冬城おばあさんは孫がけがをしたと聞いて、心配でたまらず、毎日のように人を遣って様子を探らせていた。夜も更けたころ、大垣さんが冬城おばあさんの部屋の扉をノックし、声をかけた。「大奥様、浅井さんがいらっしゃいました」「浅井みなみ?今度は何の用かしら」最近は浅井が毎日のようにやって来る。あの女に善意などないことはわかっているのに、表面上はにこやかに応じるしかなかった。「会わないと言いなさい!」「かしこまりました、大奥様」大垣さんは、冬城おばあさんが浅井という厄介者に会わずに済むことを心の中で願っていた。だが、ふと振り返ると、浅井はずうずうしくも、もう堂々と部屋の中へと入ってきていた。大垣さんは息をのんだ。「浅井さん……」「大奥様、お話があって来たんですが、どうやら歓迎され
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