向こうからは何の返事もなかった。真奈はさらに問いかけた。「あなた、昔は用心棒か何かやってたんじゃないの?」立花は洗面所から出てくると、ドアの外に向かって声をかけた。「誰か来い」すぐに桜井がドアを押し開けて入ってきた。立花の姿を見ると、やはり怯えた表情を浮かべた。「立花総裁……」「彼女に着替えさせろ」そう言い残し、立花はそのまま部屋を出て行った。立花が出て行くのを確認すると、桜井は慌てて泣きながら真奈のもとへ駆け寄り、声を震わせながら言った。「瀬川さん、大丈夫ですか……」「うん、大丈夫。大したことないわ。それより、私の目配せをちゃんと察してくれてよかった」その時、桜井は真奈の腕に目をとめた。先ほど、ドアの外で一部始終を聞いていた彼女は、小声で尋ねた。「瀬川さん、その腕……」「怖がらなくていいわ。自分でやったの」「えっ?」桜井は驚きの声を上げた。「でも……森田マネージャーがやったんじゃ……」「彼は牛じゃないんだから、ぶつかったくらいで脱臼するわけないでしょ」けれど、こうしなければ――あとで立花が調べた時、すべてが自分の仕組んだ罠だと疑われるかもしれない。狡猾に男に取り入ろうとする女よりも、反抗的で、目の前で理不尽な仕打ちを受ける女の方が――男の庇護欲を掻き立てるのだから。もしバレたら、立花のところでようやく得た特別な好意もすべて失ってしまう。「瀬川さん、全部わかってます。私のためだったんですよね。だから絶対に誰にも言いません」真奈は静かに頷いた。「ええ、それでいいの」これで、桜井の証言、自分が立花の目の前で受けた傷、そして立花自身が目撃した現場――そこに森田の元々の好色な人間性まで加われば、立花が森田の言い訳を信じる余地はどこにもなかった。その頃、船内では医師が森田の応急処置を終えたところだった。扉の外に待機していた二人の傭兵が無言でドアを開け、何も言わずに森田を拘束して連れ出した。デッキでは、立花が縛られた森田を一瞥し、冷ややかな表情を浮かべていた。「立花総裁……本当に違うんです!あの女が私を誘惑したんです!調べればすぐにわかります!私はずっと総裁のそばで働いてきました、絶対に嘘なんてつきません!」森田の全身は恐怖に支配され、声も震えていた。立花は眉をわずかにつり上げ、ゆっくり
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