福本英明の動きが止まり、彼は再び冬城の前に立つと、金縁メガネを押し上げて言った。「俺が誰なのか、知ってるのか?」「さあな?」「じゃあ早く俺を告発してくれよ。お願いだ。この福本社長役なんてもううんざりだ。福本信広でいることがどれほど退屈かわかりゃしないだろ!」「若様!」宮内の顔は暗く険しかった。福本英明は服を正し、改まった声で言った。「冬城社長、どうぞお入りください」書斎の中では、福本宏明がすでに二人の会話を耳にしていた。彼は靴を脱ぎ捨てると、それを福本英明に向かって投げつけた。「このろくでなしめ!何の役にも立たん!」福本英明はとっさに防ごうとしたが、その靴は背後にいた冬城の方へ飛んでいった。冬城は素早く手を伸ばし、それをしっかりと受け止めた。「福本様、商談をしましょう」そう言って、冬城は靴を福本宏明の机の上に戻した。福本宏明は冬城の礼儀正しい振る舞いを見て、うなずきながら口を開いた。「冬城の孫か。黒澤の老いぼれの孫よりはずっとましだな」黒澤の傲慢な態度を思い出すと、福本宏明の脳裏にはあの嫌味な黒澤おじいさんの姿がよぎった。「それで、どんな話をしたい?」「祖母が海外に来ています。福本様には、祖母がどんな要求をしても受け入れず、そのまま海城に送り返していただきたいのです」「それだけか?」「それと、次男さんは不出来で大任には耐えられません。俺が彼の師として鍛えましょう」その言葉に、福本英明が思わず顔を上げた。「なんで俺がそんなことを?絶対に嫌だ!」「黙りなさい!」福本宏明は歯がゆさを覚え、福本英明を鋭く睨みつけた。冬城は言葉を続けた。「もし福本家の分家や外の者たちが、あの福本信広がすでに事故で亡くなっていると知れば、福本様が亡くなった後には一斉に群がり、福本家の財産を奪い合うでしょう。次男さんは福本家唯一の嫡流の子孫です。このままでは骨の髄まで食い尽くされますよ」「師になれる人間なら他にも大勢いる。なぜお前なのだ?」「俺が冬城司、冬城繁樹の孫だからです」冬城の簡潔な一言に、福本宏明は言い返すことができなかった。冬城繁樹の実力については、彼もよく知っていた。その孫が海城で祖父を超えるほどだという噂も、福本宏明の耳には届いていた。「ほかにはないのか?」と福本宏明が問う。「三
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