ゲストルームで、桜井は真奈の向かいに座り、「瀬川さん……私を呼んだのは何か話したいことがあるからですか?」と言った。「楠木静香が死んだの、知ってる?」その言葉に、桜井の体がこわばった。楠木静香の死はニュースになり、洛城で知らない者などいないはずだ。「楠木静香は立花のためにすべてを捨てたのよ。あの名門楠木家のお嬢様を、立花は未練もなく殺した。もし立花に不利な証拠を隠していると彼に気付かれたら、あなたをどうすると思う?」「瀬川さん、わざわざ来られたのは、森田マネージャーが残したあの携帯電話が目的ですか?」「立花家はいま海外に拠点を築き、福本家の未来の花婿でもある。本来なら立花家の使用人を探すのは難しくない。けれど、あなたは立花の手の中の駒だわ。彼は簡単には手放さないでしょう。だからあなたに会うには、私が危険を冒してでも来るしかなかったの」真奈は手を差し出して言った。「携帯をちょうだい」「私……」バンッ!外から立花が突然ドアを蹴破って入ってきた。真奈は差し出した手をすぐに引っ込めた。真奈は言った。「立花、それは失礼でしょう」「そうか」立花は一歩外へ下がり、こんこんとノックしてから、再び勢いよくドアを押し開けた。「どうだ、これで礼儀正しいのか?」「……」立花は前へ進み、桜井に向かって言った。「出て行け」「承知しました、ボス」桜井は去り際に何度も振り返り、目には不安の色が浮かんでいた。真奈は眉をひそめて尋ねた。「私に用事があるの?」立花は真奈の食事ワゴンを見下ろし、わけもなく苛立ちを覚えた。「俺よりいいものを食ってるな」「すべて立花社長のご厚意のおかげよ。心から感謝しているわ」「だが田舎者は高級品が分からん。黒澤夫人には合わんだろう。忠司、食事は全部下げろ。これから夕飯は漬物とご飯だけにしろ。黒澤夫人の好物だからな」食事ワゴンが下げられるのを見て、真奈は思わず嗤った。「立花、子供じみてるんじゃない?」立花は真奈の向かいのソファに腰を下ろし、言った。「子供っぽいかどうかなんて関係ない。俺を騙した以上、楽にさせる気はない」「立花、あなたを騙したのは確かに悪かった。でもそれは自分を守るためだったし……それに、もう報復したでしょう?」そう言って、真奈は腕を差し出した。「そんなに怒ってる
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