学校から別荘へ時折電話が入ってきたが、明日香は安静を求めてすべての電話線を引き抜き、携帯電話もどこかの隅に放り出したままにし、完全に外界とのつながりを断っていた。彼女の日常は、食事と睡眠、そして絵を描くことだけで成り立っていた。気が向いたときに庭の花へ水をやる程度である。スカイブルー社。遼一は片手をポケットに入れたまま会議室を出た。傍らには中村が付き添っている。「南苑別荘の様子はどうなっている?」「明日香さんは病院から戻って以来、ずっと別荘に籠ったままで、長らく外へは出ていません」「ああ......」遼一の瞳は陰鬱な光を帯び、何を思っているのか掴めなかった。オフィスに戻った彼はデスクに腰を下ろし、無意識にマウスを動かした。モニターには、白地に花柄のパジャマ姿で胡坐をかき、筆を洗っている少女の姿が映し出される。画面を拡大すると、薄布越しに浮かび上がる胸元の曲線が、否応なく視線を引き寄せた。遼一は手元のコーヒーをひと口含み、下腹に灯る熱を冷まそうとした。実際のところ、明日香が何をしなくても構わない。彼には、彼女を生涯安らかに暮らさせる力がある。明日香の行動はすべて彼の監視下にあり、その一挙一動が筒抜けであった。やがて画面の中で少女が立ち上がろうとし、ふらついて倒れそうになる。その瞬間、遼一の胸が思わず締めつけられる。幸い、駆け寄った使用人が彼女を支えた。映像の隅に、飲みかけの牛乳パックが捨てられているのが見える。遼一は眉をひそめた。彼は知っている。明日香は十八年間、朝と寝る前に必ず牛乳を一杯飲むのが習慣だった。だが今は――もう、その習慣すら手放してしまったのだ。芳江が彼女を二階へ支えながら、小言を洩らした。「まあ、お嬢さん。一日中あんまり食べんさかい、低血糖になるのよ。ちょっと休みんさい。ご飯できたら持ってきまんね」ベッドに横たわった明日香は、淡々と告げる。「郵便受けを見てきて。何か届いてない?」「はい」そろそろ知らせがあってもいい頃だ。数分後、芳江が分厚い封筒を手に戻ってきた。「今届いたんじゃけど......お嬢さん、これ、なんじゃろか?」明日香が封を切ると、金色の文字が燦然と輝く招待状が現れた。そこには、三日後に授賞式に出席するよう記されていた。彼女の顔に久しぶりの笑みが
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