誠健は知里を抱きかかえながら階段を上がり、ベッドにそっと寝かせて、布団をかけてやった。それから立ち上がり、部屋の中をうろうろと歩き回り始めた。まるで何かを探しているようだった。知里は彼をじっと見つめながら問いかけた。「何を探してるの?」誠健は眉をひそめて彼女を見た。「どうして君の家には、俺のものが一つもないんだ?マンションにも、ここにも何もない。知里……もしかして俺が記憶を失ったのをいいことに、きれいさっぱり縁を切ろうとしてるのか?」その言葉を聞いて、知里は思わず小さく笑った。「何が欲しいの?ツーショット写真?それとも、何か思い出になるプレゼント?誠健、もし私たち、一度も一緒に写真を撮ったことがなくて、あなたが私に一つもプレゼントをくれたことがないって言ったら、信じる?」誠健は信じられないという顔で彼女を見た。「そんなわけないだろ。ずっと君のことが好きだったんだぞ。まともなプレゼントも一つもないなんて、ありえないだろ」「私にはその価値がなかったのかもね。それに、あなたが目を覚ましたとき、はっきり言ったじゃない。責任を取りたいなら金で払えばいい。感情は、無理だって。そんなふうに言われて、私がしがみつけると思う?」誠健はその言葉を聞いて、無意識に拳を握りしめた。昔の自分は、本当にバカだったんじゃないか。嫁を口説こうとして、プレゼント一つすら惜しんでたなんて。じゃあどうやって口説いたんだ?口先だけか?そう思うと、誠健は思わず奥歯を噛みしめた。そして、知里の方を見つめた。そのとき、颯太から電話がかかってきた。知里はすぐに通話ボタンを押した。電話の向こうから、颯太の焦った声が響いた。「知里、秘書から聞いたけど、倒れたって本当か?一体どうしたんだ?」「大したことないよ。脚のケガが炎症起こして、熱が出ちゃっただけ。もう大丈夫」「だから言っただろ、仕事に無理しちゃダメだって。アイツに忘れられたからって、そんなに自分を追い込む必要ないだろ?今どこ?俺、すぐ行くから」「別荘にいるけど、来なくていい。ほんとに大丈夫だから」「心配なんだよ。待ってて、すぐ行く」颯太の電話を切ったとたん、知里は顔を上げ、誠健の鋭く冷たい視線とぶつかった。男は一瞬たりとも目を離さず、彼女をじっと見つめていた。
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