彼の目は深く沈み、感情を表に出すことはなかった。そのせいで、知里には彼の胸の内を読み取るのが難しかった。今もそうだった。誠健が言ったその言葉の意味が、冗談なのか、それとも別の感情が込められているのか、彼女にはわからなかった。知里は彼を横目で睨みながら、無表情で言った。「そんなにキレイさっぱり忘れられるってことは、つまり大したことじゃなかったってことよね?違う?」彼女の言葉に、誠健は何も言い返せなかった。知里の目からは、彼女がどれほど傷ついているかが伝わってきた。上手く隠しているつもりでも、彼にはわかった。彼女は、自分のことを忘れられたのが相当こたえていた。胸の奥に、強い罪悪感が芽生える。誠健の目が一瞬だけ揺れ、声にもかすかなかすれが混じった。「でも……記憶をなくしたその部分を、取り戻したいんだ。手伝ってくれないか?」その言葉を聞いた知里は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにフッと笑った。「どうせ思い出せないって。思い出す必要もないし。物は届けたんだから、もう帰って」そう言って、彼女はドアのところまで歩いていき、扉を開けた。どう見ても「帰れ」のサインだった。誠健は意に介さず、颯太に視線を向けた。「お前のことだよ。見てわかんないのか?」そのやり口に、颯太は思わず吹き出した。「俺の理解が正しければ……追い出されてるの、お前でしょ?」「彼女は芸能人だぞ。こんな真夜中に男と長く一緒にいたら、まずいんじゃない?」もっともらしい口ぶりで言われ、颯太は言葉を失う。それでも軽く笑い、知里のそばに近づいてやさしく言った。「俺は先に帰るよ。知里も早く休んで」知里はうなずいた。「腕、水に濡らさないようにね。今度ご飯でも奢るわ」「うん」二人のやり取りを見ながら、誠健の唇の端がほんのわずかに冷たく歪んだ。彼はドア口まで歩き、知里を見た。「俺に何か言いたいことはないのか?」知里は眉を上げた。「じゃあね、見送りはナシ」そう言って、彼を外に押し出し、バタンと勢いよくドアを閉めた。誠健は扉の前に立ち、閉ざされたドアを一瞥してから、満面の笑みを浮かべている颯太を見やった。「何笑ってんだ。そんなに嬉しいか?」「別に嬉しいわけじゃないよ。ただちょっと、同情してるだけ。せっかく
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