月咲は小走りで駆け寄ってきた。「夜月社長、どうしていらしたんですか?中に入りましょうか?」月咲はパジャマの上にダウンを羽織っただけで、どこか心もとなかった。けれど、それだけ彼に会いたくてたまらなかった気持ちは伝わってきた。翔太は軽く顎で示した。「乗れ」月咲はすぐに助手席側へ回り、座り込んだ。「夜月社長」車はゆっくりと走り出し、住宅街をぐるりと回った。月咲は、なぜこんな時間に自分を呼び出したのか測りかね、もう一度声をかけた。「夜月社長……」翔太の声は感情を読み取りにくい。「美羽の友人の件、君がやったのか?ネットで美羽を中傷していたのも君か?」月咲は即座に否定した。「な、何のことですか?ネットって……夜月社長、何をおっしゃってるんです?」「知らないと?」「わ、私は……」「手がかりがなければ、わざわざ聞きに来たりはしない」似たようなことを、美羽にも言われたことがある。――証拠もなくここに来たわけじゃない。月咲はダウンの裾を握りしめ、複雑な気持ちになった。3年間付き合った恋人は、たとえ別れても親密さが残ってしまっている。彼女が一瞬ぼんやりしている間に、車は再びマンションのエントランス前へ。翔太が言った。「降りろ」その一言で悟った。――彼は彼女に自ら説明する機会を与えてくれていたのだ。だが、彼女は「否認する」という最悪の答えを選んだのだ。カチリとロックが外れる音。次の瞬間、月咲の目から涙がこぼれた。彼女は彼の腕を掴んだ。「夜月社長、私の顔を見てください」化粧をしていない肌には、まだ赤い傷跡が二筋残っている。「……社長が探してくださった医者でも、この程度までしか消せないって言われました。私を傷つけたのに謝りもしないで、挙げ句にやってもいないことまで押し付けてきたのは紅葉花音なんですよ。あの日泣きながら帰宅した私を見て、母が知ってしまって……また彼女にいじめられたって。それで母が私の代わりに怒りをぶつけただけなんです」翔太は無言のまま、車も動かさない。表情から感情は読み取れなかった。月咲は必死に訴えた。「母がそんなことをするなんて、知らなかったんです。知っていたら絶対止めてました。私はいつも社長の言うことを聞いてきました。『全部任せろ』っておっし
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