美羽は以前のように場を取り繕うことはせず、ただ客人として、主人の家で喧嘩が始まれば自分の存在を消すかのように黙っていた。夜月夫人は慌てて立ち上がり、翔太を止めた。「どうして二人はすぐ言い争いになるのよ。翔太、まだ食事もしていないじゃない?もう少し食べなさい。午後から忙しくなったら食べる暇もなくて、また胃を悪くするわよ」翔太は行く手を遮られて、冷たい表情を浮かべた。夜月夫人は仕方なく翔太の父親である陸斗に声をかけた。「陸斗」陸斗は数秒ほど顔をこわばらせたが、結局は一歩引いた。「年末の取締役改選で、取締役の金山さんと後藤さんを、もう残さないつもりなのか?」翔太は再び腰を下ろしたが、食事にはもう手を付けなかった。「そうだ」会長は眉をひそめた。「彼らは会社の功労者だぞ」翔太は淡々と答えた。「だからこそ、年功を笠に着ている」「彼らは碧雲のために頑張ってきたんだ。その分、自尊心が高くなるのも仕方あるまい」「彼らが取締役会に残るべきではない理由は、すでに父さんに送ったはず。会社の運営に必要なのはルールであって、感情ではない。俺が提出した証拠では、まだ不十分だと?」陸斗はしばらく黙し、最後にため息をついた。「……せめて古株としての情はある」翔太は冷笑した。「彼らは取締役会から解任されるだけで、碧雲を去るわけではない。持ち株の分配金だけで、十分に老後は暮らせるよ」陸斗はこれ以上何も言わず、翔太の処置を黙認した形となった。美羽は黙って俯いたまま食事を進めていたが、内心では考えを巡らせていた。金山さんも後藤さんも、陸斗側の人間だ。翔太の今回の処置は、会社から父の人脈を一掃するということか。思い出した。かつて柚希に鷹村社長との不適切な関係をでっちあげられたあの日、同僚秘書の机の上に取締役の資料が置いてあるのを目にした。当時は翔太がなぜ取締役の資料を必要とするのか分からなかった。だが今思えば、その時すでに陸斗側の人間を整理する考えがあったのだ。美羽はそっと顔を上げ、対面に座る白髪まじりの老人を見やった。体はまだしっかりしているが、やはり年には勝てない。まるで今日、彼が先に口を開いて歩み寄ったように、会社での発言力が次第に小さくなるにつれ、翔太ももはや束縛されることはない。碧雲は翔太
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