慶太は心が揺らいでいた。悠真があそこまで利害を分析してみせたのだ。彼は相川グループに籍を置いてはいないが、それでも相川家の人間、相川家の者は団結するべきなのだ。慶太は彼女を馬の頭に触れさせ、「慣れれば怖くない」と促した。「……本当はずっと前から、君を相川グループに入れたいと思っていた。ただ、2か月前は君の体調が良くなかった。もしあの時点で相川グループに入ったら、新しい仕事を覚えなければならないし、両親のことでも忙しくなり、結局は自分の身体を顧みる余裕がなくなってしまう。だから君を僕のそばに留めたんだ」彼のそばにいれば、収入を得られるだけでなく、過労で潰れることもなく、息をつける時間もある。まさに一石二鳥。そこまで思ってくれるのだから、美羽としては当然、恩に報いようと、このプロジェクトをきちんとやり遂げる気持ちになる。ましてや、相川グループに入れるというのなら。相川グループに入れば、仕事は安定し、収入も安定する。彼女の調べだと、人工心臓――機械の費用と手術費を合わせると1千6百万円。いずれドナーが見つかり、移植をするとなればさらに3千万円。とても今の貯金では足りない。「言ったでしょう?今の私にとって碧雲なんてどうでもいいの。教授はチームの要だ。もし教授が決めたのなら、私たちは当然その決定に従うよ」――乗馬クラブの観光カートに乗り、レストランへ向かっていた翔太は、ふと後ろを振り返った。そこに見えたのは、陽光に照らされる草地の上で、互いに見つめ合い、微笑む男女の姿だった。その瞳には、共に困難に立ち向かう光が宿っている。常に怒りも喜びも顔に出さないはずの翔太の胸に、かすかに炎のようなものが灯った。――美羽……彼女は、あえて自分の言葉を軽んじているのか?……乗馬クラブを出た美羽は、その足で薬局へ寄り、擦り傷用の軟膏を買った。初心者が乗馬すれば、内股が擦れて皮膚が傷つきやすい。着替えの時に見れば、やはり赤くただれ、少し痛んだ。だが、よくよく考えれば、彼女があえて馬を怒らせて翔太を止めようとしたのは、無謀ではあったが、彼の腕前を信じていたからだ。翔太の馬術なら、必ず馬を御せると確信していた。彼を苛立たせつつも、自分の命までは危険にさらさない――なかなか「割のいい」やり方だった。翔太はあまりに多
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