その時、翔太は病院で紫音を見舞っていた。直樹からのメッセージを受け取り、ただ【うん】と短く返した。そのとき、スマホの画面上部に着信が浮かび上がった。彼は一瞥しただけで、無情に通話を切った。紫音は彼に近く座っていたので、その相手が月咲だと見てしまった。彼女は意味深に、甘ったるい声で囁いた。「翔太くんってほんとに悪い男ね。今は私のそばにいながら、親友を真田さんのお見舞いに行かせて……携帯では葛城さんとも繋がってるなんて」翔太はちらりと彼女を見た。「じゃあ、千早さん一人で病院に残れ」紫音は慌てて彼の服の裾を掴んだ。「『男は悪いほうが女に愛される』って言うじゃない。翔太くんが悪ければ悪いほど、私には魅力的で、もっと好きになるの」「君、別にたいした怪我じゃないだろ?病院にいつまで居座るんだ?」翔太はうんざりして言った。紫音は新着通知がないスマホ画面を見て、少し落ち込んだように答えた。「でも……待ってる電話が、まだかかってこないの。あとで彼から電話がきたら、翔太くんがここにいた方が助かるの」「くだらない」彼は不快げに吐き捨てた。「知らないの?恋する女って、みんなこんなふうにくだらないなの。怪我しても、病気しても、彼に知ってほしいの。ただ、それだけで自分を大切に思ってほしいのよ」翔太はその言葉を聞いて、不意に思い出してしまった。――美羽が流産したとき。彼女は病院に3日も一人で横たわっていたのに、一言も彼に知らせなかった。本当にあのとき、彼を好きだったのなら。あんな重大なこと、どうして黙っていられるのか。あの頃はまだ月咲もいなかった。二人の関係は静かで穏やかだったはずなのに。紫音は唐突に言った。「……何も言わないってことは、その人にもう望みがないってこと。完全に諦めたってことよ」翔太は冷たく立ち上がった。「勝手にしてろ」紫音も悟った。もう一日一夜ここに入院していたのだ。連絡が来ないのは、彼が本当に気にしていない証拠。ならば、これ以上ここにいても意味はない。「わかったわ。じゃあ一緒に退院する。翔太くん、抱っこして運んでくれる?」……その日、仕事はなかった。美羽は久しぶりに自由を楽しみ、午後は直樹の秘書稲生琴葉(いのう ことは)と滝岡市を散策した。母へ、姉へ、そして姪っ子へと
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