「先に言っておく、怒らないでね」晴嵐は小さな声で切り出した。乃亜はうなずく。「大丈夫、怒らないよ......」しかし、内心ドキドキしていた。もし何か晴嵐がひどいことをしていたら、この約束なんて意味がないはず。晴嵐は満足そうに笑うと、ランドセルの奥から取り出した。そこには小さなプリンセスドレス......まるでおとぎ話の国から飛び出してきたようなドレスだった。裾のレースと淡い色合いが、夕陽に照らされ、きらきらと光っている。「ママに、これあげたいの」乃亜は目を見張った。それは、明らかに女の子用のドレスだった。晴嵐はすぐに言い訳を口にした。「ママ、これは璃音ちゃんへのプレゼントなんだよ」その言葉には、強い決意と期待が込められていた。純粋なまなざしが胸に突き刺さる。乃亜は晴嵐の頭をそっと撫でながら、にっこりと微笑んだ。「そう......じゃあ、病院に行って、璃音ちゃんに渡そうか」晴嵐はほっと息をついた。「よかった、ママわかってくれた!」車がゆっくり発進する。乃亜はハンドルをしっかり握り、視線は前へ。でも胸の中では、さまざまな思いが渦巻いていた。この子は本当にまっすぐな子だ。いつも冷静で、感情を滅多に見せない。こんなに純粋に、そして無邪気に誰かを想うことがあるなんて......無条件の愛って、本当にあるのだろうか。胸奥がほんの少し熱を帯びた。病院の広い廊下。靴の音が響き、時折、救急ベルが鳴り渡る。この場所には、生と死が渦巻いていた。乃亜はこの世界に慣れたくなかった。しかし、母として、今日はどうしても目をそらせない。廊下の先に二人の影が見えた。真子と凌央。二人は立ち止まっている。まるで時が止まったようだった。乃亜は車から降りると、晴嵐を抱き足を止めた。心臓が高鳴る。ここで凌央と会うなんて、思ってもみなかった。しかも真子までいる。どうして?乃亜の胸はドキドキして落ち着かない。真子の視線がやっと、彼女の腕に抱かれた小さな子どもに届くと、晴嵐の顔、まるで凌央のコピーのようだと気づいた。。その顔に触れた途端、真子の心臓は無形の力でつっぱられるようになり、息苦しくて死にそうだ。乃亜とこの子供が、なんでここに
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