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584 Chapters

第581話

「先に言っておく、怒らないでね」晴嵐は小さな声で切り出した。乃亜はうなずく。「大丈夫、怒らないよ......」しかし、内心ドキドキしていた。もし何か晴嵐がひどいことをしていたら、この約束なんて意味がないはず。晴嵐は満足そうに笑うと、ランドセルの奥から取り出した。そこには小さなプリンセスドレス......まるでおとぎ話の国から飛び出してきたようなドレスだった。裾のレースと淡い色合いが、夕陽に照らされ、きらきらと光っている。「ママに、これあげたいの」乃亜は目を見張った。それは、明らかに女の子用のドレスだった。晴嵐はすぐに言い訳を口にした。「ママ、これは璃音ちゃんへのプレゼントなんだよ」その言葉には、強い決意と期待が込められていた。純粋なまなざしが胸に突き刺さる。乃亜は晴嵐の頭をそっと撫でながら、にっこりと微笑んだ。「そう......じゃあ、病院に行って、璃音ちゃんに渡そうか」晴嵐はほっと息をついた。「よかった、ママわかってくれた!」車がゆっくり発進する。乃亜はハンドルをしっかり握り、視線は前へ。でも胸の中では、さまざまな思いが渦巻いていた。この子は本当にまっすぐな子だ。いつも冷静で、感情を滅多に見せない。こんなに純粋に、そして無邪気に誰かを想うことがあるなんて......無条件の愛って、本当にあるのだろうか。胸奥がほんの少し熱を帯びた。病院の広い廊下。靴の音が響き、時折、救急ベルが鳴り渡る。この場所には、生と死が渦巻いていた。乃亜はこの世界に慣れたくなかった。しかし、母として、今日はどうしても目をそらせない。廊下の先に二人の影が見えた。真子と凌央。二人は立ち止まっている。まるで時が止まったようだった。乃亜は車から降りると、晴嵐を抱き足を止めた。心臓が高鳴る。ここで凌央と会うなんて、思ってもみなかった。しかも真子までいる。どうして?乃亜の胸はドキドキして落ち着かない。真子の視線がやっと、彼女の腕に抱かれた小さな子どもに届くと、晴嵐の顔、まるで凌央のコピーのようだと気づいた。。その顔に触れた途端、真子の心臓は無形の力でつっぱられるようになり、息苦しくて死にそうだ。乃亜とこの子供が、なんでここに
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第582話

いや、そんなはずがない......真子は、頭を振って、ネガティブな考えを追い払った。そして気を取り直し、晴嵐の顔をじっと見つめると、無理に笑顔を作って、凌央に言った。「凌央、璃音の身体はまだ弱いの。他人に病室に入らせるわけにはいかないわ」乃亜はその言葉に眉をひそめ、凌央に視線を向けた。「......あなたも、そう思ってるの?」せっかくの善意が、まるで悪意のように受け取られてしまい、胸がチクリと痛んだ。真子は得意げに胸を張っていた。乃亜はそんな彼女に、薄く微笑みながら冷たく言い放った。「怖いのね。私と息子が、その『偽物』からすべてを奪ってしまうのが」璃音は困ったように俯いていた。でも、それも仕方がない。彼女は......凌央の娘なのだから。「......最低女!」真子は怒鳴り返した。昔の乃亜なら、黙って耐えていた。でも今の彼女は違う。まるで別人のように、強くなっていた。凌央の顔に冷たい怒りが浮かぶ。「......もう一度言ってみろ。今度は許さない」かつては、あれほど欲しても手に入らなかった乃亜。そんな彼女を、平然と侮辱するなんて......許せるはずがない。母親だからって、何を言ってもいいと思うな。真子はビクッとして黙り込んだ。凌央の本気の怒りを知っていたからだ。下手に逆らえば、ただでは済まない。それに......今の乃亜の目には、どこか得体の知れない迫力があった。真子が一歩下がったとき、凌央はそっと手を伸ばした。指先が、晴嵐の頬に触れそうになる......が。次の瞬間。乃亜は、迷いなく体をひねって、彼の手を避けた。その動きは鋭く、そして決然としていた。彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。冷たく、はっきりと「拒絶」があった。まるで、二人の間に深い谷があるかのように。凌央の足音が、硬く床に響く。ひとつ、またひとつ。まるで自分の感情を押し殺すかのような、力強い歩み。その場の空気が一瞬で凍りついた。誰もが声を失い、ただ乃亜の遠ざかる足音だけが、廊下に響いた。その音が、凌央の神経をひとつずつ削っていく。彼の顔は青ざめ、手は微かに震え、そして......力なく下ろされた。その目には、言葉にできない痛みと、深い困惑があった。乃
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第583話

「ママ、あの人たちって......昔もママに、今日みたいなことしてたの?」晴嵐が、乃亜の首に小さな腕をぎゅっと回して聞いてきた。その声は幼いけど、はっきりとした『心配』がこもっていた。乃亜の胸が、きゅっと締めつけられる。......こんな小さな子に、こんなこと言わせるなんて。凌央といた頃のことが、ふと頭をよぎる。あの頃の自分が、どれほど我慢していたのか。どれだけ苦しかったのか。「ううん、そんなことなかったよ」そう答えながら、少しだけ目を伏せた。真子に嫌な顔をすることはあったけど、いつもじゃなかった。家の集まりのときくらいしか、会う機会はなかったが。それよりも......凌央の冷たい態度のほうが、ずっと心に刺さってた。でも、それにも慣れてしまっていた。......今思えば、あの頃の自分って、本当に強かったんだな。あんな日々を、よく一人で耐えてた。「でもね、ママ。もしまたあの人たちが嫌なことしてきたら......そのときは警察に、ちゃんと通報して、やり返さなきゃダメだよ!ママナメられちゃダメだよ!」晴嵐の目に、年齢に似合わない冷たい光が宿る。その一瞬の表情が、凌央とそっくりで......乃亜は、思わず息を飲んだ。こんなに小さいのに、もうあの人に怒りを抱いてるなんて。......私たちの関係が、晴嵐にここまで影響してたんだ。そんなつもり、なかったのに。晴嵐の心に「憎しみ」が生まれてしまっている。それで、ちゃんと成長していけるのだろうか。乃亜の胸に、ズンと重たい後悔が落ちてきた。......やっぱり、一度凌央とちゃんと話し合わなきゃダメだ。親として。どうであれ、二人の問題に、晴嵐を巻き込むのは良くない。この子には、ちゃんと愛されて、人を憎むことなく、育ってほしい。「ママ、大丈夫!僕、早く大きくなるから!そしたらママを守れるようになる!ママをいじめるヤツ、僕がやっつけてあげる!」キリッとした目で乃亜を見つめる晴嵐。乃亜の目が潤む。「......ありがとう、晴嵐。でもね、ママはもう大丈夫。ちゃんと自分のこと、守れるよ。それに、パパもいるから。だから晴嵐は、いっぱい笑って、いっぱい遊んで、元気に大きくなってほしい」この子が、こんなにも優し
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第584話

乃亜は晴嵐の小さな頭を優しく撫でながら言った。「ねえ、璃音のパパのこと、あんまり好きじゃないんでしょ?それなのに、璃音のことは好きなの?」晴嵐は少し首をかしげ、考え込んだ。「初めて見たとき、守らなきゃって思ったんだ。それに、好きなものを全部あげたくなった。おもちゃ、お菓子、全部!だって、好きなんだもん!」3歳の子供にしては、かなりしっかりした答えだ。彼の真剣な気持ちが伝わってきた。乃亜はその言葉を聞いて、胸が温かくなった。晴嵐って、本当に素直でいい子に育ってるな。そのとき、携帯電話が鳴った。乃亜はすぐに通話ボタンを押した。「乃亜さん、こんにちは。主人が順調に回復して、今日午後に退院します。今夜お礼も兼ねてお食事に行きませんか?」電話の声は、以前助けた男性の妻だった。先日、週末に食事をしようと約束したが、予想より早くなったようだ。「もし今日が無理なら、また別の日でも大丈夫です」乃亜は髪を耳にかけながら答えた。「今日でも大丈夫です。場所を送っていただければ伺います」「ありがとうございます!では、後ほどお会いしましょう」電話を切ると、乃亜はその男性のことを思い出した。......部隊の若き長官で、数々の功績を持っている人だ。その人脈や影響力を考えると、無下にはできない。「ママ、今日はご飯の約束があるの?じゃあ、僕はタクシーでパパのところに行こうか?」晴嵐はいつも通り、優しい気配りを見せてきた。乃亜は優しく首を振る。「いいよ、ママが送るから。最近パパは忙しいし、会社に行っても退屈だろうから一緒に家に帰ろう」「わかった」シートベルトをしっかり締めてから、乃亜は運転席に座り、車を発進させた。その頃、亀田病院のVIP病室では、璃音がベッドに横たわっていた。顔色が悪く、まだあまり体調が良く無い様子だった。凌央はベッドのそばに座り、絵本を読んでいた。絵本を数ページめくったところで、璃音が静かに言った。「パパ、兄さんのママに電話してくれない?璃音、会いたいんだ」凌央は絵本を閉じ、璃音をじっと見つめた。「彼のママのことが、好き?」璃音は少し考えてから、素直に頷いた。「うん、好き。あの人が璃音のママになってくれたら嬉しい」璃音にとって、今のママは怖い存
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