理奈は頬杖をつき、目元をきらりと光らせながら言った。「ねえ、あの夜あのみだらな二人が浴室で盛り上がってた時、私たち何もできなかったじゃない?相手がこんなに都合よく現れてくれたんだから、見逃すなんてこっちが悪いと思わない?」言わんとしていることはすぐにわかった。不倫女をこらしめるなんて、望むところだ。明のことはもうどうでもよくなったけど、あの二人からの屈辱は今でも覚えてる。理奈が言うように、こんな絶好の機会を逃すなんてありえない。くすりと笑って頷いた。「もちろんよ!」機転の利く理奈は、黒曜石のような瞳をきらきらさせると、すぐに妙案を思いついた様子。得意げに顎をしゃくり上げて「お任せあれ」と宣言した。立ち上がろうとする彼女の手を掴み、静かに首を横に振った。「私がやる」「え?」理奈は意外そうな表情を浮かべた。「夫を奪った相手だもの。当然、私の手で仕返しするわ」冷ややかに笑う。「私が人を殴るところ、見たことないでしょ?でもね、何事にも初めてはあるもの」理奈が私をかばおうとしてくれる気持ちはよくわかっていた。出会ってからずっと、口論でも値引き交渉でも、いつも彼女が盾になってくれた。私はいつも守られる側で、何もせずに利益を得る。家では両親に甘やかされ、外では理奈が守ってくれた。人と正面から衝突したり、手を出したりする機会などなかった。でも今回は違う。自分で立ち向かいたかった。成長しなければ。自分で戦う力を身につけなければ。いつまでも他人の保護に頼っていてはだめだ。傷つけられたら、自分でやり返さなければ!私のことを誰よりも理解している理奈は、一瞥しただけで私の決意を悟った。「わかった、まずはあなたがやってみな。でももし手に負えなくなったら、私がちゃんとフォローするから」「うん」そう言って立ち上がり、ためらうことなくカウンターへ向かった。ちょうどその時、注文を終えた志穂が友達を待つために一歩下がったところで、振り向いた彼女の視線とばったりと合った。すぐに私だと気づいたようだ。冷静に歩を進めながら、内心では人を殴る方法について考えていた。ドラマでよく見る女同士のケンカは、まず髪の毛を引っ張り合うシーンが多い。長い髪は掴みどころがあり、強く引っ張れば相当痛い。素早く相手を制圧するには最適な方法なのだろう
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