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第73話

Auteur: 小林ララ子
志穂だってバカじゃない。もちろん抵抗してきた。私を振り払おうとして髪を掴もうとしたけど、入院中でちゃんと洗えてなかったからまとめていたし、結局掴めなかった。

でも、喧嘩して無傷で済むわけがない。長い爪が頬をかすって、鋭い痛みが走る。たぶん引っかかれたんだろう。

そして私は、全力で志穂にぶつかっていった。もう言い訳も、まわりくどい説明もいらない。あの動画で顔まで晒されたんだ。今さらとぼけたって無駄。

むしろ、こうした方がスッキリする!

「親は産んだだけで育てることはしなかったの?じゃあ私が代わりに教えてあげる!」

歯を食いしばって、志穂の頬に渾身の平手打ちを喰らわせた。

「人のものを盗んだら代償を払うってこと、今日という日でしっかり学びなさい!」

連続のビンタに志穂が激昂し、必死に私の手を振り払ってきた。

こっちは回復したばかりで体力もないし、よろけたところを理奈が支えてくれなかったら倒れてた。

小野田が心配そうに志穂に近寄ったけど、乱暴に振り払われて、気まずそうに顔を曇らせていた。

志穂はぐちゃぐちゃになった髪を整えながら、私を見下ろすように睨み、怒りに歪んだ顔で冷笑した。

「何を盗んだって?自分の男すら守れないくせに、人のせいにするなんて、笑っちゃうわね」

ここまで図々しいとは、正直想像以上だった。

小説の悪役みたいなセリフなんて、フィクションだから誇張されてると思ってたけど、現実も大差ないらしい!

私が何か言い返そうとした瞬間――

「クソッ!」

理奈がブチ切れた声を上げ、私のそばを離れると、そのまま志穂に飛びかかって、強烈なビンタを叩き込んだ。

「もう我慢の限界だ、こんちくしょう!!」

「な、なによあんた!?」志穂が頬を押さえて反撃しようと手を上げた瞬間、理奈がその手を掴んで押し倒し、さらにビンタを食わらせた。

「こんなクソ女、殴るのに理由もタイミングもいらねよ!この下衆女!」

理奈は腰に手を当て、客席に向かって怒鳴った。

「はい、食事中のみなさん!この女、他人の旦那寝取った上に、わざわざ奥さんに動画送りつけて挑発してきた最低女です!この狐みたいな顔、しっかり覚えといてね!そのうちあなたの旦那も狙われるかもよ!」

時刻は11時過ぎ。人気店だけあって、店内はブランチや友達とのおしゃべりを楽しむ客で
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