「辰也さん」結菜は辰也の姿を見つけるなり、甘えるような声で呼びかけた。辰也は冷淡に軽く頷くだけだった。智昭が辺りを見渡していたのに気づき、佳子が言った。「さっき優里ちゃんが電話かかってきて、外で応対してるわ」智昭は「分かった」と短く返した。その言葉が終わらぬうちに、場の向こう側でざわめきが起きた。中から田渕先生が姿を現したのだ。義久や瑛二など、田渕家の人々も揃っていた。来賓の数は多く、会場が静まってからようやく田渕先生は口を開き、訪れた人々への感謝の言葉を述べた。玲奈と礼二たちは、比較的後方の控えめな位置に立っていたが、それでも義久の目は彼らを捉えていた。礼二が湊家の当主の代理として贈り物を持参する件は、すでに瑛二が彼と田渕先生に伝えていた。だが、玲奈が来ているとは、彼も知らなかったらしい。玲奈の姿を見つけた義久は、静かに微笑んで会釈した。玲奈は義久と田渕先生の関係をこれまで知らなかった。だが相手の挨拶に対し、玲奈も礼儀正しく微笑みを返した。大森家や遠山家の面々も、義久が誰かに挨拶している様子は見ていたが、誰に対してなのかは分からなかった。田渕先生のスピーチが終わると、場内は大きな拍手に包まれた。その後、多くの来賓が田渕先生に近づき、彼の画について語りかけ始めた。同時に、義久たちにも挨拶を交わす人が後を絶たなかった。人が多く集まっていたこともあり、辰也や智昭たちが田渕先生のもとへ挨拶に行けたのは、少し時間が経ってからだった。田渕先生は彼らからの贈り物を受け取ると、穏やかに言った。「わざわざありがとう」そして、視線を智昭、辰也、淳一らに移しながら、微笑を浮かべて続けた。「しばらく見ない間に、みんな立派になったな。素晴らしいことだ」田渕先生が智昭たちと話している間、義久は他の来客に応対しつつ、玲奈たちのもとへと足を向けていた。礼二は彼の姿に気づき、先に声をかけた。義久は礼二に返礼をしてから、玲奈に向かってにこやかに言った。「玲奈、また会えたね」玲奈も礼儀正しく挨拶した。「田渕さん」義久は微笑み、青木おばあさんの素性を聞くと、丁寧に青木おばあさんと握手を交わした。玲奈から、青木おばあさんが彼の父親の絵を好んでいると聞いて、義久は喜びを込めて言った。「もしよろしければ
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