茜は特にクリスマスが大好きだった。昔は毎年、一緒に家でクリスマスツリーを飾りつけていた。当日には一緒に街へ出て、まわりの人々と一緒にクリスマスの雰囲気を満喫していた。けれど、茜が智昭と一緒に海外に行ってからは、もう一度も一緒にクリスマスを過ごしたことはなかった。いや、正確に言えば、彼女はもう完全にクリスマスを祝うことすらやめていた。もう気持ちに整理をつけようとしていたとはいえ。十月十日お腹で育て、長年手塩にかけて育てた娘なのだ。今、賑やかな街の中でまわりの光景を眺めていると、過去の思い出が次々と押し寄せてきて、心の静けさをかき乱していた。「青木さん?」玲奈が振り返る。そこに立っていたのは、瑛二だった。玲奈は軽く頭を下げた。「田渕さん」「こんなところで一人で、どうしたんですか?」玲奈は目の奥にある感情を隠しながら微笑んだ。「ちょっと植物を買いに来ただけです」瑛二が声をかけたのは、少し離れたところから玲奈の寂しげな立ち姿が目に留まったからだった。どこかに拭いきれない悲しみの影も見えた。彼は玲奈のことをよく知らない。何が彼女をここまで哀しませるのか、見当もつかなかった。「何か飲みに行きませんか?」と彼は尋ねた。玲奈は首を振った。「少し買い物して帰ろうと思ってたんです」そう言ってから、丁寧に訊いた。「あなたこそ、お一人ですか?」瑛二が言った。「友人と食事に来たんですが、急用で先に帰ってしまって」瑛二は彼女がたまたま来たと聞いて、こう伝えた。「このあと、ここで大きな花火大会があるんですよ。もしよかったら見ていきませんか?」これは誘いというより、ただの情報共有だった。知らせておこう、ただそれだけの意図だった。玲奈は微笑んだ。「なるほど、それで今日はこんなに人が多いんですね」玲奈は瑛二と親しいわけではないが、何か言おうとしたそのとき、人混みの中に突然現れた三つの人影に言葉を止めた。智昭、優里、そして茜の姿だった。三人は広場の方へ歩いていった。どうやら花火を見に来たらしい。瑛二は彼女の表情に気づき、そっと視線を追うと、智昭と優里、そして小さな女の子の姿が目に入った。彼は一瞬、動きを止めた。以前、淳一から聞いたことがある。最近、智昭には子どもがいるという噂が広ま
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