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第220話

作者: 雲間探
これは、あまりいい兆しではなかった。

彼らは彼女と話をしようと考えていた。

正雄が声をかける。「玲奈……」

玲奈が口を開く前に、礼二がにこやかに言った。「大森社長、ここに来たのは、玲奈との関係を皆に公表したいからですか?」

正雄の笑みが一瞬こわばり、すぐに気まずそうに笑って返した。「湊社長、少し玲奈と話がしたいんですが、よろしいですか――」

玲奈が何も言わぬうちに、礼二があっさり遮った。「もし大森社長が、玲奈との関係を皆に知られても構わないのなら、何を話してもらっても構いませんよ」

正雄としては、礼二を敵に回すわけにはいかなかった。

そのため、彼は律子と共にその場を離れるしかなかった。

ただ、去る前に彼は玲奈に声をかけた。「あとで電話する。忘れないでくれよ」

玲奈は何も返さなかった。

彼女は返事をする気にもなれなかった。

電話など、取るつもりもなかった。

礼二は内心苛立ちながら思った。「もう、いっそ全部ぶち壊してしまいたい気分だ」

玲奈とて、そう思わないわけではなかった。

けれど、智昭との一件で、自らの潔白を証明する証拠が見つからなかったことは、彼女の中でずっと引っかかっていた。

もしここで大森家と公然と対立すれば、智昭や辰也たちは、優里を守るために、きっとその件を持ち出して彼女を攻撃してくるだろう。

それに、遠山家が手のひらを返して非難してくることは、彼女も十分に思い知らされていた。

母が未だに療養院から出られずにいるのが何よりの証拠だ。

礼二としばらく言葉を交わした後、玲奈がふと横を見ると、智昭たちはすでに囲碁を打ち終えていた。

時刻も遅くなり、彼たちは青木おばあさんを迎えに行くことにした。

青木おばあさんはちょうど田渕先生との絵の話を終えたところだった。

田渕先生にはさらに知人が訪れていたため、彼はその対応に向かった。

青木おばあさんも、田渕先生にこれ以上迷惑をかけたくはなかったため、玲奈が迎えに来たのを機に帰る準備を始めた。

彼らが帰ると知った田渕先生は、わざわざ出てきて、青木おばあさんに気に入っていた松山図の絵を贈ってくれた。

軽く言葉を交わしたあと、玲奈たちはその場を後にした。

帰り際、彼らは涼亭で茶を飲みながら談笑している智昭と優里たちの姿を目にした。

智昭と優里たちもまた、玲奈たちに気づいた。

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