玲奈はそう言うと、藤田グループのほかの幹部たちにも挨拶をして、そのまま立ち去った。翔太は玲奈の歩調に合わせた。エレベーターに乗ると、翔太の視線は思わず玲奈の方に注がれた。玲奈は翔太の視線に気づき、「どうしたの?」と聞いた。翔太は首を振り、「いや、特に何でもない」と答えた。生田博士のパーティーで、智昭と玲奈のことについては、文音がいろいろと話していた。玲奈が智昭と結婚するために卑劣な手段を使ったという話を、翔太は当然信じていなかった。だが……文音が話していた、玲奈が幼い頃から智昭に片思いしていたことと、智昭が玲奈を好いていなかったこと。この2つについては、翔太も本当なのだろうと思っていた。もしそれが本当なら、玲奈は今はもう智昭と離婚するつもりで、実際に彼と向き合ってもあれほど淡々としている。ということは、玲奈はもう智昭を愛していないということなのだろうか?だが、もし本当に玲奈がもう智昭を愛していないのなら、どうして今になっても、彼女は自分や瑛二、辰也を受け入れようとしないんだ?まさか、本当に自分たち3人が、玲奈の心の中で思い描いていた理想の相手とは違うからなのか?それとも、玲奈は智昭との恋にあまりにも疲れ果てて、今はもう彼を愛していないとしても、その恋が残した影響からまだ完全には抜け出せていないのか。だから、そう簡単には新しい恋を始められないということなのだろうか?こうしたことについては、翔太も分かっていた。たとえ玲奈に尋ねたとしても、彼女はきっと多くを語らないだろう。なので、翔太も尋ねないことにした。翔太は待つつもりだった。玲奈が自分に心を開き、近づいてきてくれるその日まで。きっとその時になれば、すべての答えが分かるはずだ。……一方で。その日の夜、仕事を終えた優里は、再び智昭の自宅へ向かった。優里はマスクを着けていた。警備員から、どの邸宅を訪ねるのか、名前は何かと尋ねられると、少し間を置いてから「大森です」と名乗り、智昭の邸宅の棟番号も伝えた。智昭と玲奈、そして優里の間に起きたことは、この高級住宅街の警備員もみな耳にしていた。優里が自分は「大森」だと名乗った時点で、当直の警備員は優里の正体にほぼ気づいていた。たとえ優里の愛人という立場を快く思っていなかったとしても、当直の警備員はすぐに智昭の自宅へ内線でビデオ通話をつないだ。
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