「相変わらず、笠井さんはスタイルが良くて羨ましいわー。今もヨガ教室は続けてるの? 最近ちょっと食べ過ぎちゃって、私も少しは運動しなきゃって思ってるの」「そんなぁ、飯塚さんは元が細いから、まだ気にしなくて大丈夫よー」 互いに親し気な言葉を掛け合っている割に、あまり仲良しに見えないのは彼女達の会話の大半に心が籠っているように思えないからだ。いわゆる社交辞令ってやつだからだろうか。それでも笠井達は終始笑顔で、お互いを褒めちぎり合っていた。電話打ち合わせ中だった羽柴が社長室を出てくるまでそれは続きそうで、横で聞いていた三上のうんざり顔がパソコンモニターの後ろでチラチラと見え隠れしていた。 壁面の棚から予備の付箋と修正液を探し出すと、咲月はそっとその場を離れかける。が、笠井の後ろを通り過ぎようとした時、ピンクベージュのネイルをした指がなぜか咲月の腕をぐっと掴んできた。「……?!」 驚いて立ち止まった咲月は、自分の腕を引っ張っている笠井の顔を振り返り見る。事務の先輩はすぐには何も言わず、口角をきゅっと上げた顔を見せてくるが、その目は全然笑っていない。何だか妙な威圧感に、「なんですか?」と聞くに聞けない雰囲気だ。「泉川さんに手伝って貰いたい仕事があるんだけど、今って急ぎで抱えてる作業はある?」「あ、いえ、今は特に……」 午前にやっていた資料のファイリングの続きが残っているけれど、別に期限のある作業じゃない。それをそう伝えると、笠井はくるりと身体を回転させて飯塚と呼んでいた客へ向けて、少し残念そうな表情を作ってみせる。「とってもお久しぶりだから、もっとゆっくりお話ししていたかったんだけど、今は新人への指導もしなきゃだし、あまり余裕が無いのよねー。羽柴ももうすぐ出てくると思いますし、それまであちらでお待ちいただけます?」 パーテンションに仕切られた、商談スペースを指し示しながら、笠井は「バタバタしてて、申し訳ないわぁ」と飯塚へ声を掛けていた。言われた客の方も、「忙しい時にごめんなさいねぇ」とお詫びの台詞を口にしていたが、その表情は何だか釈然としていない。急に改まって客扱いさ
Last Updated : 2025-03-22 Read more