涼は鋭い眉を片方上げた。こいつ、明らかに夕月の前で弱者を演じているな。つい先ほどまで薬の影響下にあった冬真は、涼に対して傲慢な態度を取り、まるで食いちぎりたげな様子だったというのに。それが今や夕月の前では、哀れな被害者を装っている。「ふん」涼は鼻で笑い、「橘社長、皆さんに説明していただけませんか?楓さんはなぜ気を失っているのか。彼女の服を脱がせたのは、あなたですか?」二人が仕掛けた罠について、冬真自身の口から語らせようとしたのだ。もし先に二人の企みを暴いてしまえば、かえって冬真に反撃の隙を与えることになる。涼と夕月は、冬真が自分で作り出したこの混乱をどう収拾するつもりなのか、見守ることにした。「違う!」冬真は即座に否定した。「楓が薬を飲んで、自分で服を脱ぎ始めたんだ。何度も私に襲いかかってきたから、気絶させるしかなかった!」必死に夕月の反応を窺う。自分の潔白が疑われることだけは避けたかった。背中を向けると、後ろ手に拘束された手首を衆人の前に晒した。「楓は私を抵抗できないようにするために、これを……」血に濡れた手錠が、おぞましい光を放っている。必死の抵抗で手首は深く切り裂かれ、肉が手錠に食い込み、めくれ上がった箇所もある。痛々しい光景に、見る者の胸が痛んだ。手首の裂けた皮膚の下からは、白い骨さえ覗いていた。「まあ!」来賓たちからは悲鳴に似た声が漏れ、非難の言葉を飲み込んだ。あまりにも惨いありさまだった。夕月は無表情のまま黙っていた。後ろ手に拘束された状態で楓を気絶させられるほどの力があるのなら、そもそも楓如きが冬真に手錠をかけられるはずがない。おそらく、自分で手錠をはめたのだろう。涼も同じことを考えていた。明らかに冬真は全ての責任を楓に押し付けようとしている。桜都で最も楓を庇ってきた人物さえ、もう彼女を見捨てたのだ。今夜のうちに、楓が冬真に薬を盛って暴行しようとした話は、桜都中に広まることだろう。これまで楓がどんな非道を働いても、冬真が庇い立てしていた限り、桜都財界の御曹司たちは冬真の顔を立てて楓を容認してきた。だが今回ばかりは、楓は全てを失うことになる。今も床に倒れたまま、薬の影響か頬を紅潮させ、目を閉じて唇を舐めている。まるで甘美な夢でも見ているかの
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