【高見陽介】まとめた書類とデータを、とん、と机でそろえて女性社員に手渡した。「じゃあ、このままサポート頼むな」「はい。主任の方は、大丈夫ですか? いくつか仕事引継ぎしときましょうか」「あー、大丈夫。なんかあった時はわかるようにはしてあるし連絡は取れるようにしとくから」ありがとうな、と言いながらつい、目はデスクの上に置かれた携帯画面をチラ見する。今のとこ、連絡はなし。今週入ってからこんな風にそわそわしているのを、周囲にはしっかりと見られてしまっているのだが、落ち着けと言われても無理があるというものだ。案の定、笑われてしまった。「もうじきですよね?」「ん、じき、っていうかもう予定日は過ぎててさ」もういつ陣痛が始まってもおかしくない、はずなんだけど。今週中に陣痛が始まらなければ、陣痛促進剤を使うか考えなければいけないと言われた、と真琴さんが言っていた。出来ればそういうのは使いたくないから、と一生懸命歩いたりしてるけれど、それはそれで心配だ。ただでさえ細いのに、妊娠しても体重が増えなくて、お腹ばっかり大きくなって真琴さん自身は逆に痩せたように見える。ふらついてこけたりしないだろうか。「楽しみですね。立ち合いされる予定なんですよね?」「あー、うん。タイミング合えばなあ、と」つい、へにゃっと顔がだらしなく崩れる。自覚はあるけどどうしようもない。主任になって部下が出来てからは、多少キリッとするようにはしてんだけど、仕事中でも真琴さんや子供の話を振られると、ダメだ。結婚して4年、やっと授かった子供だった。なかなかできなくて真琴さんは何度も落ち込んだりして、いろんなことがあったから、妊娠したと確認した時は二人で泣いた。ずっと、二人っていうのもいいかなって思ってた。けど、いざ自分の子どもが出来るとなると、やっぱ……感慨深いものがある。「いざ、って時は皆でカバーできるので、遠慮なく言ってくださいね」「おお」ありがとう。と、礼を言おうとした時だった。携帯が机の上で振動する音がして、思わず画面にくぎ付けになる。「奥様ですか?」慌てて携帯を手に取ると、画面をスライドさせる。着信画像は、間違いなく真琴さんで、仕事中だから気を使ってくれたんだろう、通話着信じゃなかった。『入院することになりました』『慌てなくても大丈夫なので、仕事
Last Updated : 2025-10-31 Read more