【バレる、色々:梶】「あれ……いらっしゃいませ。お久しぶりですね」扉の開く音にそちらへ目を向ければ、最後の来店がいつ頃だったか、すぐには思い出せない程度に久しい顔があった。「ちょっと仕事が忙しくてね。半分ほどは海外で買い付けに行かされてたしね」「それは、大変でしたね。どうぞ」おしぼりを差し出すと、以前はわざと手に触れたりと少々厄介な客だった。ゲイの彼には、僕は随分と好みの外見であったらしい。僕がゲイではないと知ってからは、それこそすーっと波が引くように手を引いて、至って普通の客になった。まあ、騒ぎを起こしたにも関わらずなに食わぬ顔で来店するなんてふてぶてしい、と、うちの番犬が常に威嚇していたが。「番犬くんは元気かい」さして堪えた様子もない。「ええ、元気ですよ」一度、壁の時計に目を向け時間を確認した。それから、カウンターの隅に隠してあった携帯を手に取ったが、連絡が来ている様子もない。仕事が終わって、何か適当に食べてから来るのがいつものことで、週末だから特に約束などなくても必ず来るはずだ。来られないときは、それはそれは未練がましいラインの連絡が入っていたりするから。「多分、そろそろ来るんじゃないかと思います」うん、と一つ頷いてから、梶さんの方へ目を向けると、彼が少し目を見開き、やがて少し厭な雰囲気を漂わせ笑った。「もしかして、私が予想するよりも仲良くなっている感じかな?」「え、」「以前は、一方的に彼が押しかけている印象だったからね」しまった、とつい手に取ってしまった携帯をまた隅に隠した。にやにや、というその嫌な笑い方は、佑さんに似ている。「仲良くも何も、もうすぐ結婚するんですよこいつら」そう言いながら横やりを入れて来たのは、その佑さんだ。にやにやが二人に増えた、というよりも。何をバラしてんだこのクソオヤジ!梶さんは僕を男だと思っているんだから、陽介さんと僕が結婚するなんていきなり言われても訳が分からないだろう。それを説明するなら、僕が女だと話さなければいけなくなる。店は慎として辞めようと決めているから、ただのお客さんには最後まで男のままで通そうと。そう、思っていたのだけど。「そりゃ、随分急展開だな。出会って一年程じゃなかったかな?」「アイツの勢いなら早いとこそんな話になるだろうなとは思ってましたけどね。予
Last Updated : 2025-10-04 Read more