Semua Bab クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Bab 1561 - Bab 1570

1600 Bab

第1561話

椎名グループは事業規模が大きいため、京弥は各地に自分名義の住まいを持っていた。そのたびにホテルを利用するのは、さすがに不便すぎるからだ。紗雪はもともと、今夜はどこに泊まるのかと聞こうと思っていた。だが彼の言葉を聞いて、思わず苦笑する。やはりお金持ちは違う。家を買う感覚が、まるでおやつでも買うかのようだ。......一方その頃、部屋へ戻った千弦は、悔しさを抑えきれず、ベッドを何度も拳で叩きつけた。怒りで顔色は赤くなったり青くなったりし、その表情は苛立ちに満ちていた。まさか、こんな目に遭うとは思ってもいなかった。彼女はもともと、紗雪とは受けてきた教育も違い、会社の規模だって自分のほうがはるかに上だから、紗雪一人を相手にするなど、造作もないことだと考えていたのだ。ところが現実はまったく逆だった。紗雪は想像以上の実力者だった。しかも大勢の前で、容赦なく自分の面目を潰した。思えば思うほど、屈辱でたまらない。最初は、紗雪など見た目だけの飾りだと思っていた。だが今になってようやく、自分が相手を見くびっていたことを思い知った。そう考えるほど、千弦の悔しさは募るばかりだった。彼女はスマホを取り出し、ネット上の反応を確認する。案の定、最初は紗雪を疑う声ばかりだったのに、いつの間にか批判の矛先は自分へ向いていた。もっとも、それらはほとんど一般ユーザーの書き込みだった。自分のファンなら、こんな考えなしの発言をするはずがない。まさか紗雪の肩を持ち、自分と敵対する側へ回るとは。千弦はコメントを次々と読み進める。読めば読むほど腹が立った。ネットの連中は風向き次第で簡単に立場を変える人間ばかりだ。何も分かっていないくせに、あっさり紗雪の味方へついて、自分を悪者扱いしている。その報いがどういうものか、いずれ思い知らせてやる。今日の出来事を冷静に振り返ってみると、紗雪の専門知識は確かに高い水準にあった。こんな場所に、これほど実力のある人間がいるとは思わなかった。少なくとも専門分野で彼女を完全にねじ伏せるのは、もう不可能だろう。しばらく考え込んだ末、千弦は別の方法を探すしかないと結論づけた。紗雪が京弥の隣にいることを思うだけで、胸の内には強い悔しさが込み上げてくる。長年京弥
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第1562話

そのとき、千弦はふと一つのことを思いついた。――そうだ。だったら、過去のことを利用すればいいではないか。以前の出来事を持ち出し、ファンに話を大きくしてもらえばいい。そう思った瞬間、千弦の口元には意味深な笑みが浮かんだ。――そうだ、自分にはファンがいる。それに、京弥と長年仕事を共にしてきた事実は、誰にも否定できない。以前はネット上にも、二人に関する動画やまとめ記事があふれていた。その流れを利用するくらい、彼女にとっては造作もないことだ。そう考えると、千弦はすぐにファンのグループチャットへ、京弥との関係を匂わせるようなメッセージを投稿した。さらに、紗雪から執拗に嫌がらせを受けている、とも書き添えた。千弦のファンは、彼女の言葉を疑うことなく信じる者ばかりだった。推し本人がそんなことを言えば、自分の応援している人が理不尽な思いをする姿など、とても見ていられない。長年応援してきた彼女が傷つく姿は、まるで自分の娘がいじめられているのを見るような気持ちだった。たちまちチャットは熱気に包まれる。【推しがいじめられてるのに、黙って見てるなんてあり得ない!それじゃ応援してる意味ないじゃん!】古参ファンが先頭に立つと、事情をよく知らない新しいファンまで次々と同調し始めた。【そうだ!推しを守れないなら、応援してる意味なんてない!】【相手がここまで好き放題やってるのに、まだ遠慮する必要ある?】【番組見たけど、どう見てもあの二川が篠塚さんをいじめてた!篠塚さんが優しすぎる】【篠塚さんをこんなふうに扱うなんて、もう黙っていられない!】【昔は篠塚さんと椎名さんの最強コンビだったのに!】【あの二川、顔だけじゃん!】......チャットは紗雪への批判で埋め尽くされていった。その様子を眺めながら、千弦は満足そうに微笑む。やはり自分には、これほどまでに味方になってくれるファンがいる。この人たちさえいれば、何だって思いどおりにできる。まして紗雪など、途中から現れた存在にすぎない。何を恐れる必要があるのだろう。紗雪さえ排除できるなら、どんな手段を使っても構わない。それに、本来先に京弥と歩んできたのは自分なのだ。紗雪こそ後から現れた人間ではないか。何も怖くない。千弦は、京弥は必ず自分の
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第1563話

しかし、有力ファンはひたすら千弦を励ました。「千弦さんが優しすぎるから、あんな人にいじめられるのよ」「二川さんは新人です......しかも番組側は最初、彼女には声をかけていなかったんです。どうして途中から急に出演することになったのか、私にも分からなくて......」「それって、コネで入ってきたってことじゃない?」有力ファンは思わず声を上げた。だが、千弦は無垢な表情のまま首を横に振る。「分かりません。全部、上の判断なので」「絶対にコネよ」有力ファンは歯ぎしりしながら言った。「今どきまだそんなやり方をしてる人がいるなんて。誰も彼女の経歴を調べようとしないの?」「そういうことは、私もよく分からなくて......」千弦は、涙など一滴も出ていない目元をそっと拭い、声を詰まらせるように続けた。「私は上の指示で審査員を務めることになっただけです。あの人がどういう経緯で出演することになったのかも知りません......ただ、私が来る前の時点では、彼女が参加するなんて誰も聞いていなかったようです」その一言で、有力ファンの中にあった疑念は確信へと変わった。紗雪は、間違いなくコネでねじ込まれたのだ。しかも、推しがこんなにもつらそうで、悔しそうに話している。そう思うだけで胸が締めつけられた。有力ファンはさらに必死に千弦を励ます。「千弦さん、そんなに落ち込まないで。大丈夫、この件は私に任せて。どうすればいいか分かってるから」その言葉を聞くと、千弦は慌てたような表情を作った。「え?何をするつもりですか?」「安心して。私たちに任せて」有力ファンは自信満々に言い切った。それでも千弦は心配そうな声を装う。「ありがとうございます。でも......私のために無茶はしないでください。あなたの人生はあなた自身のものです。誰かや何かのために、自分の人生まで変えてしまってはいけませんから」「千弦さんは優しいのね」その言葉に、有力ファンは胸がいっぱいになった。これまで千弦から直接反応をもらえたことなど、ほとんどなかった。けれど最近の彼女は以前とは少し違う。ファンに話しかけるときもとても優しく、プライベートのことまで気遣ってくれるようになっていた。有力ファンはずっと、自分の応援は一方通行なのだと思っ
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第1564話

それ以来、二人の距離は少しずつ、しかし確実に縮まっていった。そう思うだけで、有力ファンの胸は高鳴る。自分の大好きな人のために、何か力になれる。それだけでたまらなく嬉しかった。通話を終えたあとも、その興奮はなかなか収まらなかった。まさか、自分が応援してきた推しに頼られる日が来るなんて。ずっと、推しという存在は手の届かない遠い人だと思っていた。けれど今は違う。自分にも、大切な人の力になれることがある。それは、この上なく誇らしいことだった。そう考えた彼女は、すぐに他のファンへ声をかけ、ネット上で京弥と千弦のカップリングを盛り上げる動きを始めた。一方、電話を切った千弦の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。有力ファンなら、必ずネットで動いてくれる。自分のファンがどういう人間なのか、彼女は誰よりもよく分かっていた。普段から、それとなく誘導し、ネットで自分を擁護するよう仕向けてきたのだ。だからこそ、わざわざあんな芝居を打った。自分では表立って動けないことでも、ファンなら代わりにやってくれる。それが彼女のやり方だ。自分は手を汚さず、人を動かす。そうすれば、優しく善良なイメージを傷つけることもない。そしてファンが自分のために矢面に立つのも、すべて本人たちの意思だ。いざとなれば、自分だけきれいに身を引くことなど造作もない。後始末に困ることもないだろう。そう思うと、千弦は嬉しさを抑えきれなかった。彼女はスマホを握り、最新のネットの反応を次々と確認していく。紗雪を称賛するコメントが目に入るたび、その瞳には冷たい陰が宿った。「見る目のない人たちね」千弦は低くつぶやく。「京弥と本当に結ばれるのは私だって分かったら、その時はどんな反応をするか、楽しみにしているわ」そう言いながら、彼女はスマホを強く握り締めた。その目には、隠し切れない冷酷な光が宿っていた。――結局、京弥は自宅へ戻るのをやめて、紗雪の部屋に残ることにした。隣で横になっている京弥を見つめながら、紗雪は胸の奥で静かに感慨に浸っていた。身分を隠したまま自分の前に現れた頃から始まり、今こうして互いに本音を打ち明け合えるようになるまで。振り返れば、本当に多くの困難を乗り越えてきた。数え切れない出来事を
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第1565話

京弥の声は、どこまでも優しかった。もし匠がこの場にいたなら、きっと目を疑っただろう。今の京弥は、彼がこれまで一度も見たことのない姿だ。その表情にはあふれんばかりの慈愛が宿り、見つめているだけで心がとろけてしまいそうなほどだった。紗雪でさえ、そんな錯覚を覚える。思わず彼女は尋ねた。「京弥......どうして、こんなに私に優しくしてくれるの?」「愛してるからだ。俺は高校生の頃から君のことが好きだったって、知ってるだろ?」そう答える京弥の瞳には、揺るぎない真剣さが宿っていた。ただ、部屋の灯りは消えていて、その表情ははっきりとは見えない。バルコニーから差し込む月明かりのおかげで、かろうじてその輪郭が見える程度だった。それでも紗雪には、どこか現実味が感じられなかった。「高校時代なんて、もう過去よ」紗雪は小さく息をついた。「卒業してから、きっともっと素敵な女性にたくさん出会ったでしょう?それでも、本当にずっと私だけを好きだったの?」その問いに、京弥は驚かなかった。普通に考えれば、そう思うのも当然だ。高校時代から今まで、もう8年は経っている。しかも彼は大企業のトップだ。出会う女性の数も、さまざまな人との交流も、自分とは比べものにならないほど多い。そんな彼が、いつまでも高校時代の初恋だけを想い続けるなど、信じられなくても無理はなかった。「紗雪」京弥は思わず笑みをこぼした。「俺はそんな簡単に人を好きになるような人間じゃない。誰彼かまわず好きになるほど、俺の愛は安っぽいものではない」紗雪は少しも遠慮せず言い返す。「でも、高校生の頃のあなたは私を好きになったでしょう?だったら、他の人を好きになるのだって簡単なんじゃない?」彼女はそう思っていた。男というものは、今日はこの人を好きでも、明日には別の誰かに心を奪われる。恋なんて、一瞬の出来事かもしれない。たった一つの出来事で、その人が特別な存在になることだってある。だからこそ、「好き」という感情ほど移ろいやすく、つかみどころのないものはないと思っていた。その言葉を聞き、京弥は心の中でそっとため息をついた。彼は腕を伸ばし、紗雪を強く抱き寄せる。「紗雪ってさ、本当に思い込みが激しいな」紗雪は彼の胸の中から顔を上げ
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第1566話

特に彼女がこんなにも真剣な表情をしているのを見ていると、京弥は、自分は少し早まってあんなことを言ってしまったのではないかと思い始めた。「本当に知りたい?」紗雪は真剣な面持ちで頷いた。「ええ、もちろんよ。私たち、もうこんなにたくさんのことを一緒に乗り越えてきたのに、まさかまた隠しておくつもり?」その言葉を聞いた京弥は、困ったように苦笑した。だが、紗雪の言うことはもっともだった。二人はこれほど多くの出来事を共に経験してきたのだ。今さら相手に知られてはいけないことなど、何があるというのだろう。京弥は小さくため息をつくと身を起こし、紗雪をそっと腕の中へ抱き寄せ、自分の肩にもたれさせた。そして、初めて彼女と出会った頃をゆっくりと思い返しながら、静かに話し始めた。「君が恕原から戻ってきたことは知っていた。あの頃の君は西山を追いかけていて、結局彼に傷つけられて帰ってきたんだろう」「そんなことまで知ってたの?」紗雪は驚きを隠せなかった。そのことは家族以外、誰も知らないと思っていたのに、京弥は一つひとつ正確に口にしたのだ。そう思うと、胸の内には驚きが込み上げてきた。「ああ、当然のことだ。ずっと君を見守っていたから」「じゃあ、高校を卒業した後も、ずっと?」京弥は紗雪を見つめて微笑んだ。「俺を甘く見すぎじゃないか?高校の頃から君が好きだったんだから、好きな人のことを気にかけるのは当たり前だろう」その言葉を聞き、紗雪は自分の質問が少し間抜けだったことに気づいた。さっきの自分は、本当に何も考えずに口にしてしまったらしい。「じゃあ、清那とは最初から示し合わせていたの?」「それは違う」その話になると、京弥自身も不思議そうに笑った。「当時の俺たちは、お互いに共通の知り合いがいることなんて知らなかった。正直、清那が相手を紹介してくれた時は、あまり気乗りしていなかったんだ。でも、その相手が君だと知った時、俺は......」その先は最後まで口にしなかったが、紗雪には十分伝わっていた。彼女も思わず感慨深げに息をつく。「......運命に翻弄されたものね」しかし京弥は静かに首を横へ振った。「いや、翻弄されたんじゃない。神様が俺に味方してくれたんだ」そう言う京弥の瞳は、あふれそうなほど優しい光をたた
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第1567話

彼は再び手を伸ばして紗雪を腕の中へ引き寄せた。彼女をすっかり自分の胸の内に抱き込んでようやく、心が少し落ち着いた気がした。「さっちゃん......俺のそばを離れないでくれ」紗雪は、まるで子犬のように自分へ身を預けてくる京弥を見つめた。どういうわけか、その姿を見ているだけで胸がたまらなく柔らかくなっていく。京弥がこんなにも弱さを見せる姿など、彼女はほとんど見たことがない。そして、そんな姿を見るたびに、自然と心がほだされてしまう。こんな京弥を前にして、心が動かないはずがなかった。「離れるわけないでしょう。もう私たち、こんなに長い時間を一緒に過ごしてきたんだから」彼女は安心できずにいる京弥を優しく慰め続けた。こんな彼を見るのは、これが初めてだった。彼女の印象では、彼は外では冷たく近寄りがたい人だったが、自分に対してはいつも根気強く優しかった。それに彼は常に自分の考えをしっかり持ち、どんなことが起きても必ず解決策を見つけ、逃げたり怖がったりすることは一度もなかった。そんな彼が、これほどまでに不安を抱えている姿を見るのは初めてだった。誰であっても、人知れず弱さを抱えているものなのだ。そして今、京弥はその弱い一面を自分にだけ見せてくれている。それは、自分が彼にとって心から信頼できる存在だという証だ。だからこそ、彼はこんなふうに甘えてくれるのだ。もし相手がただの他人なら、こんな弱さをさらけ出すはずがない。そんなことは、考えるだけでもあり得なかった。そう思い至ると、紗雪の胸はますます愛おしさでいっぱいになった。「もう京弥がいることに慣れてしまったの。あなたのそばにいると私も安心できるよ」紗雪は京弥をぎゅっと抱きしめ、思わず問いかけた。「ねえ、私がもう京弥に頼るようになってるって、気づいてなかった?」その言葉を聞いて、京弥に分からないはずがなかった。彼はもう紗雪の心の中で、かけがえのない存在になっていた。それでもなお、自分が本当に特別な存在なのか、それとも彼女が気を遣ってそう言ってくれているだけなのか、自信を持ちきれずにいた。そんな彼に、紗雪は真剣な表情で言った。「私は本気よ。これからどんなことがあっても、一緒に向き合っていこう。もう京弥のことを疑ったりもしない。でも、その代わ
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第1568話

メッセージを見た紗雪は、ようやくほっと胸をなで下ろした。もし京弥と千弦が鉢合わせになったら、自分はどうすればいいのか、実はまだ何も考えられていなかったのだ。二人は長年仕事を共にしてきたパートナーで、自分と京弥は途中で出会ったようなもの。たとえ自分たちが本当の夫婦だとしても、京弥と千弦の間には何年もかけて築いてきた絆がある。そんな中へ、自分のような部外者が簡単に入り込めるものではないと思っていた。だが、紗雪は昨夜、京弥が自分に約束してくれたことを思い出した。彼がああ言った以上、きっと彼なりの考えがあるのだろう。自分も彼を信じるべきだ。確かに千弦と京弥は長い付き合いで、深い信頼関係もある。それでも、自分だって負けてはいない。何より、自分は京弥の妻なのだ。その立場は、他人と比べられるものではない。自分たちも数々の出来事を一緒に乗り越えてきた。ぽっと現れた誰か一人のせいで、それまで積み重ねてきたものを否定してしまうのは、京弥に対してもあまりに不公平だ。そう考えがまとまると、紗雪の気持ちはすっかり晴れやかになった。昨夜は京弥がそばにいてくれたおかげで安心して眠れたこともあり、十分に休息が取れて、朝から気分もすっきりしていた。身支度を終えて部屋のドアを開けると、清那が朝食の入った袋を提げて立っていた。清那は、昨日の出来事で紗雪が落ち込んでいるのではないかと心配していた。ところが顔を上げてみると、紗雪はとても元気そうで、昨日よりも顔色がいいくらいだった。清那は思わず首をかしげた。「実は昨日、寝る前までずっと紗雪の心配してたんだよ」「え?何を?」紗雪は清那の発想がよく分からず、不思議そうに聞き返した。「もちろん番組のことだよ。審査員が篠塚さんだったんだから」この時の清那は、紗雪は少し鈍感なのではないかとさえ思っていた。自分はそのことが気になって一晩ぐっすり眠れなかったのに、紗雪はまるで何事もなかったかのようだった。清那の話を聞いた紗雪は、思わず吹き出した。「そんなことを気にするわけないでしょう。それに私、やられたらその場でやり返す性格だし。あの時だって、ちゃんと反撃したじゃない」清那は少し考え、確かにその通りだと納得した。紗雪は決して自分に我慢をさせるような人ではない。あ
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第1569話

清那は紗雪の声を聞くと、ようやくスマホを置き、真剣な表情で彼女を見つめた。「紗雪、あのね......前に篠塚さんって、兄さんと仕事で組んだことがあったでしょ?彼女、海外にも自分のスタジオがあるし、見た目もきれいだから、熱心なファンが結構いるの」その話を聞いて、紗雪も事情は理解できた。彼女は頷きながら言った。「分かるわ。そういう条件がそろっていれば、応援する人が多いのも不思議じゃないもの」「でも、本当に言いたいのはそこじゃないの」清那の表情はいっそう真剣になった。「そのファンたちがすごく過激よ。やることも普通じゃなくて、私たちの間でも、ああいう応援の仕方は全然支持されてない」「例えばどんな?」紗雪はかえって興味を持った。千弦にはそこまでファンを熱狂させる魅力があるのだろうか。それでも、他の人たちへの影響をまったく考えないものなのだろうか。清那は唇をきゅっと結び、どう説明すればいいのか迷った。少し考えた末、要点だけを伝えることにした。「その人たち、やり方が極端なの。たしか一昨年だったかな......一般の人をネットで集団攻撃して、追い詰めてしまった事件もあったの。ネット上で誹謗中傷をあおって、ほかの人まで巻き込んで、その人を攻撃させたんだ」そう話す清那は、その時のことを思い出したのか、思わず唾を飲み込んだ。「しかも当時は篠塚さんのファンの数もすごく多くて、この業界でもトップクラスの人気だった。だから彼女の言動は、ファンにとって大きな影響力があった。それなのに、ファンが千弦のためにどれだけ過激なことをしても、擁護する人がいた。『千弦を愛しすぎているだけだから』って、それで済ませようとする人がね」「え......篠塚さん本人の責任を問う人はいなかったの?」紗雪は、もし千弦がファンの暴走を放置し続けて何の対応もしなかったのなら、本人にも相応の責任があるはずだと思った。アイドルや著名人の言動はファンに大きな影響を与える。日頃からきちんと導いていれば、こんな事態にはならなかったかもしれない。その言葉を聞いた清那は、ますます悔しそうに歯を食いしばった。「誰も法的な責任なんて追及しなかった。それどころか、あの人たちはずっと同じことを言い続けてたの。『ファンのやったことを本人の責任にするな。ファンと本人
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第1570話

そうでなきゃ、この世の中はめちゃくちゃになってしまう。清那は力強く頷いた。「だから言ったでしょ。ファンが過激だって。目をつけられたら、狂犬に噛みつかれたようなものなんだから。とにかく何でもかんでも篠塚千弦を擁護する。彼女が何をしても全部正しいって信じ込んでいて、自分で考えようともしない。ただ周りに流されて、ひたすら篠塚さんを神格化しているのよ」そこまで聞いて、紗雪もようやく事情が飲み込めてきた。なるほど、千弦があれほど強気でいられるのは、後ろ盾となる集団がいるからなのだ。あれだけ多くのファンが味方についているのなら、恐れるものなど何もないのだろう。それに比べて、自分はただスタジオを経営しているだけの人間だ。芸能界に来たのも、監督に容姿を見込まれたことと、自分のスタジオを宣伝したいという思いがあったからにすぎない。スタジオを立ち上げたばかりの頃は資金にも余裕がなく、宣伝はやはりプロの力を借りるしかなかった。だから今回のような絶好の機会を逃したくはなかった。まさか、その先で京弥の仕事仲間と出会うことになるとは思ってもいなかった。同じ女性だからこそ、紗雪には千弦の視線に込められた意味がよく分かっていた。あれは挑発であり、同時に、自分が京弥をどう思っているのか探ろうとしている視線だった。この番組では、千弦の立場は紗雪より一段上で、時折わざと難癖をつけてくることもあった。そんなことくらい紗雪も気づいている。それでも気にしていなかった。彼女の目的は、自分のスタジオを宣伝し、その名前をより多くの人に知ってもらうことだけだ。それができれば、自分のスタジオにとって大きな一歩になるのだから。「で、結局何が言いたいの?」紗雪は少し考え込んでから、改めて清那に尋ねた。「変だと思うんだよね。今までだったら、あの人のファンは絶対にすぐ自分の推しをかばい始めるの。昨日はあれだけ揉めてたのに、ネットが妙に静まり返ってるんだよ」清那は真剣な顔でスマホを取り出し、証拠を紗雪に見せた。画面を上下にスクロールして最新の投稿を見せるが、千弦やそのファンについての話題はほとんど見当たらなかった。清那は驚いたように言った。「ほら。どれだけ探しても出てこないの。あの人のファンって、普段はこんなこと絶対に見逃さないのに」
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