正直なところ、監督は紗雪を尊敬したくなるほどだった。彼女の知恵も視野の広さも、とても今の年齢とは思えなかった。「それなら安心しました」監督は心配そうな表情で続けた。「今はネットでの誹謗中傷が本当に恐ろしい時代ですからね。耐えきれずに心を病んでしまう人も少なくありません。芸能界は特に。二川さんはこの業界の人間ではありませんから、分からないでしょうけど」だが、紗雪はその言葉をあまり気にしていなかった。「確かに芸能界のことは詳しくありません。でも、どの業界にもそれぞれのルールがあることくらいは分かっています」そう言うと彼女は窓辺へ歩み寄り、夜景を眺めながら静かに口を開いた。「どんな世界にも表には出ない事情や、見せられない部分はあります。そういうことばかりに執着していたら、かえって自分自身を失ってしまいます。だから、流れに任せればいいんです。事実は、何があっても消えないので」その言葉に、監督は改めて紗雪の器の大きさを感じた。「そうですね。さすが二川さんです」電話を切ったあと、紗雪はベッドに横になり、ホテルの天井を見つめながら、先ほどの京弥との会話を思い返していた。本当は、まったく気にしていないわけではない。ただ、今の京弥が自分のそばにいてくれる。それだけで、もう十分だ。京弥が自分の味方でいて、最後まで自分を守ってくれる限り、千弦は永遠に部外者でしかない。自分という妻がいる以上、千弦がどれほど足掻こうと日陰の存在には届かない。そう考えると、紗雪はむしろ千弦が少し哀れに思えてきた。どれだけ必死になって自分を追い詰めようとしても、その努力は結局すべて無駄に終わるのだから。紗雪は小さく口元を緩め、そのまま穏やかに眠りへ落ちていった。余計なことを気にしなければ、心は驚くほど軽くなる。何が正しく何が間違っているかに拘りすぎて意地を張れば、自分の姿まで醜くなってしまうものだ。しかし、紗雪が安らかに眠っている一方――千弦は違った。その夜、彼女は何度も寝返りを打ち、一晩中ネットの動向を追い続けていた。京弥は結局、この件について何一つコメントを出していない。それでも千弦の胸の不安は消えなかった。本当に彼は、この噂を黙認しているのだろうか。どうしても、何かがおかしい気がしてならない。京
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