All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 741 - Chapter 742

742 Chapters

第741話

何事においても、彼女は決して手を抜かず真剣に向き合う。伊藤がそばにいてくれることで、多くのことに安心感が生まれ、心細さを覚えることはなくなった。むしろ、何をする時でも背中に強い支えがあるように感じられるのだ。若い紗雪はふっと微笑み、伊藤に向ける視線は、まるで自分の祖父を見るかのように柔らかかった。「伊藤さん、ありがとう」その一言に、伊藤は思わず慌てた。「ありがとうございます、紗雪様......!これは私がすべきこと。分をわきまえての務めにすぎませんよ」若い紗雪は軽く頷き、「うん」と一声返す。「務めだとしても......こんなにぴったりな人、他にいないよ。何をしてくれても、私の心にしっくりくる。私たちは主従以上に、家族であり、仲間なんだよ」その言葉に、伊藤の胸は温かく満たされた。これが、緒莉様と紗雪様の決定的な違いだ。一方は傲慢で横暴、手段も残酷。もう一方は天真爛漫で何も気にしないように見えて、実は心は繊細で、真っ直ぐ。どちらがより遠くへ行けるのか、伊藤には一目で分かる。ただ......問題は母親だ。奥さまが、もっと紗雪様を大切に扱ってくれればいいのだが。紗雪様のような人は、将来きっと大きな恩返しをする。それはどう考えても「損のない投資」のはずなのに。そう思うと、伊藤は心の底から美月を惜しく思った。紗雪様という力を失うなど、損をするだけなのに......一体何を考えているのか。試合後、伊藤は自ら運転して若い紗雪を学校まで送り届けた。午前中はまだ授業があるからだ。大会に出た生徒たちも、試験が終われば授業に戻らねばならない。本来なら、学校側の車が手配されるため、わざわざ送る必要はなかった。だが、紗雪はいつも試験を早く終えるので、他の生徒が残っている間に一人だけ戻れない。そこで、彼女は伊藤に外で待っていてもらうようにしていたのだ。これまで何度も大会に出てきた経験から学んだ工夫だった。そうすれば、会場で一人退屈に待ち続ける必要もない。学校に着くと、若い紗雪は伊藤を下がらせた。ここまで来れば、もう彼に残ってもらう必要はない。伊藤の車が去っていくのを見送った瞬間、彼女の表情は変わった。つい先ほどまでの素直で可愛らしい顔つきが消え、どこか気だるげで無関心な
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第742話

どうして自分はこんなに幸運なのだろう。清那のような素晴らしい親友を持てるなんて。紗雪は、二人で腕を組んで歩く姿を見ながら、胸の奥に温かいものが広がっていくのを感じた。この数年、彼女に慰めを与えてくれたものといえば、まさにこの大切な親友の存在だった。ふと、清那が声を上げる。「今日ね、ホールでイベントがあるんだって。早東大学の教授による講演らしいよ。一緒に行ってみない?」若い紗雪は最初、断ろうと思っていた。だが、清那のぱちぱちと瞬く大きな瞳を見てしまうと、とても断る気にはなれない。「うん。どうせ特に用事もないし。お昼を食べたら一緒に行きましょう」その答えに、清那はぱっと抱きつき、声を弾ませた。「やった!紗雪大好き!」若い紗雪は、そんな清那を見て、優しく笑みを浮かべ、柔らかな髪をそっと撫でた。ほんとうに、自分たちの友情って特別だな。そう感慨にふけっていた矢先、ふと頭の中にある記憶がよみがえる。早東大の教授が、ここに?その瞬間、紗雪の心臓は大きく跳ねた。このところ平穏な日々が続いていて、あの事故がいつだったか、もう忘れかけていた。もし自分の記憶が正しければ、教授が来る日こそが、あの事故の日だった。ということは......間もなく、あの「お兄さん」に会えるのだろうか。考えただけで、胸の奥から抑えきれない興奮が湧き上がってくる。体も小さく震えているのが自分でも分かった。こんなにも年月が過ぎているのに、自分は今までまともに振り返ったことがなかった。助けてくれたのは加津也だと信じ込み、その思い込みのまま、彼に尽くすことだけを考えてきた。数々の状況証拠もそれを裏付けるように見えたし、いつの間にか自分自身も「きっと彼だ」と決めつけていた。だから、わざわざ確かめようとはしなかった。必要ないと思っていたからだ。けれど今になって考えると、加津也という人間は、自分が頭に描いていた「お兄さん」とはあまりにもかけ離れている。その違いに、これまで気づかなかった自分が不思議なくらいだった。あのときは、ただ機嫌が悪くて冷たくしただけなのかも。あるいは、助けた人が多すぎて、自分のことなんて忘れてしまったのかも。そんなふうに自分を納得させて、加津也に問いただすことはしなかった。でも
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