何事においても、彼女は決して手を抜かず真剣に向き合う。伊藤がそばにいてくれることで、多くのことに安心感が生まれ、心細さを覚えることはなくなった。むしろ、何をする時でも背中に強い支えがあるように感じられるのだ。若い紗雪はふっと微笑み、伊藤に向ける視線は、まるで自分の祖父を見るかのように柔らかかった。「伊藤さん、ありがとう」その一言に、伊藤は思わず慌てた。「ありがとうございます、紗雪様......!これは私がすべきこと。分をわきまえての務めにすぎませんよ」若い紗雪は軽く頷き、「うん」と一声返す。「務めだとしても......こんなにぴったりな人、他にいないよ。何をしてくれても、私の心にしっくりくる。私たちは主従以上に、家族であり、仲間なんだよ」その言葉に、伊藤の胸は温かく満たされた。これが、緒莉様と紗雪様の決定的な違いだ。一方は傲慢で横暴、手段も残酷。もう一方は天真爛漫で何も気にしないように見えて、実は心は繊細で、真っ直ぐ。どちらがより遠くへ行けるのか、伊藤には一目で分かる。ただ......問題は母親だ。奥さまが、もっと紗雪様を大切に扱ってくれればいいのだが。紗雪様のような人は、将来きっと大きな恩返しをする。それはどう考えても「損のない投資」のはずなのに。そう思うと、伊藤は心の底から美月を惜しく思った。紗雪様という力を失うなど、損をするだけなのに......一体何を考えているのか。試合後、伊藤は自ら運転して若い紗雪を学校まで送り届けた。午前中はまだ授業があるからだ。大会に出た生徒たちも、試験が終われば授業に戻らねばならない。本来なら、学校側の車が手配されるため、わざわざ送る必要はなかった。だが、紗雪はいつも試験を早く終えるので、他の生徒が残っている間に一人だけ戻れない。そこで、彼女は伊藤に外で待っていてもらうようにしていたのだ。これまで何度も大会に出てきた経験から学んだ工夫だった。そうすれば、会場で一人退屈に待ち続ける必要もない。学校に着くと、若い紗雪は伊藤を下がらせた。ここまで来れば、もう彼に残ってもらう必要はない。伊藤の車が去っていくのを見送った瞬間、彼女の表情は変わった。つい先ほどまでの素直で可愛らしい顔つきが消え、どこか気だるげで無関心な
Read more