彼女は今や、靖弘の鍛えによって、一人でも十分にやっていけるようになっていた。だからこそ、緒莉は一刻も早く美月のもとを離れたいと考えていた。できるだけ遠くへ。そうすれば、たとえ美月が干渉したくても、まずは移動時間を気にしなければならない。自分にはやるべきことがある。母がそばにいると、どうしても思うように動けなくなってしまうのだ。だが、そんな緒莉の本心を美月はまるで知らなかった。むしろ、自分の愛情にきっと感謝してくれているとさえ思っていた。少なくとも緒莉に対しては、本当に惜しみない愛情を注いできた。それは紗雪に対するよりも、ずっと厚いものであることは間違いなかった。だから、たとえ将来緒莉の素性が露見することがあっても、美月には一点の後ろめたさもない。長年の付き添いと世話で、すでに実の娘同然だと思っている。見返りなど求めない。ただ元気でいてくれればそれでいい――それが美月の気持ちだった。緒莉はそんな母の肩にもたれ、従順で愛らしい表情を浮かべ、口元に満足げな笑みを刻んだ。その姿に、美月も安心したように微笑む。実際のところ、ただ学校に送っていくだけのこと。特別な用事があるわけではなかった。けれど緒莉は、紗雪との違いを際立たせるために、あえて母に送ってもらうようにしていた。朝、紗雪の落胆した顔を見たとき、心の中でどれほど得意げだったことか。運転席の運転手は、その表情をバックミラー越しに捉え、不意に背筋を震わせた。この子はいったいどれほど恐ろしいのだろう。母の前でだけは上手に仮面を被っているにすぎない。その本性は、まるで毒を宿した悪い種だ。あの使用人の件について、彼は少し噂を耳にしていた。あの使用人とは親しく、日頃から何かと助けられていたからだ。さらに、自分の子どもとその使用人の子どもは、同じ学校に通っていた。だがある日、使用人は突然辞職を申し出た。苦労して見つけた子どもの学校さえ、自ら退学届けを出してしまったのだ。その事実を知ったのは、子どもから聞かされた時だった。それ以上は何も探ることができなかった。執事の伊藤にいくら尋ねても、表情ひとつ変えず答えをはぐらかされるばかり。まるで口を閉ざすことが最善だと言わんばかりだった。それでも当時の彼は諦め
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