「あの、九条さん?」朱莉に声をかけられて、琢磨は初めて我に返った。「あ……ごめん」「大丈夫ですか? もう今日はお帰りになって休まれたらいかがですか?」「い、いや。大丈夫だよ。それよりお腹空かないか? 一緒に近くのランチでも食べに行かないか?」すると朱莉が言った。「あの……それでしたら私の自宅に来ませんか? 何かお昼を作りますよ。いつも九条さんにはお世話になっておりますので」「え? ほ、本当にいいのかい?」琢磨は耳を疑った。まさか朱莉の手料理を食べる機会が訪れるとは思ってもいなかったからだ。「はい。いつも美味しいものを食べつけている九条さんのお口に合うか分かりませんが……。では、行きましょう」2人で玄関へ出て戸締りをするとエレベーターに乗り込んだ。その時、琢磨は得も言われぬ良い香りを嗅いだ。そして朱莉の手元を見る。「朱莉さん……それは?」「はい。明日香さんがハーブティーを好きだったので自分の分も含めて買って来たんです。テーブルの上に置いてきました」(知らなかった……いつの間に。やはり朱莉さんは気配りの良く出来る女性なんだ。確かにこういう女性の方が副社長と言う立場の翔にはお似合いなのかもしれないが……)琢磨はギュッと手を握り締めると、エレベーターのドアが開いた。**** 部屋に着くと朱莉は鍵を開けて琢磨を自宅に招き入れた。「どうぞ、九条さん」「はい、お邪魔します……」琢磨は朱莉の部屋に上がり込んで、周囲ををぐるりと見渡した。最初に琢磨が用意した家電やインテリ以外に殆ど物が増えた形跡が見つからない。あるとすれば、ペットのネイビーにウサギの飼育に必要な道具ばかりであった。朱莉は最初に与えらえた品物以外は殆ど買い足していなかったのだった。それ程朱莉は翔の財布にまで気を遣って1年をやり過ごしてきたのだ。「九条さん。今お昼の用意をするのでリビングで待っていて下さい」「何か手伝おうか?」「いえ、とんでもありません。九条さんはお客様なんですからこちらで待っていてください。30分もあれば用意出来ますので」朱莉はエプロンを締めるとキッチンへと消えて行き、琢磨はリビングのソファに座ると目を閉じた。(何だか……いいな……こういうの……)そして……そのまま眠ってしまった。「……さん、九条さん」真上から声が聞こえ、目を開けるとそこには琢
Terakhir Diperbarui : 2025-04-06 Baca selengkapnya