「な、なんでよ……」 唇をわなわなさせてキルシュが訊くと、彼はニタリと悪戯げに笑う。 二十歳前後の年端だが、唇の端を吊り上げていると、何だか悪戯小僧さながらの面影がある。「舐めたら甘そうな身体を無防備に見せてきた癖に。いいだろ別に」 ──キルシュって反応が面白いな。そのくらいの仕返しさせろ。なんて少しばかり意地悪に付け添えて、ケルンは笑う。 恥ずかしくて堪らない。キルシュは真っ赤になって、ケルンを睨む。 確かに、自分のやらかしに違いない。それでも、何だか腑に落ちない。キルシュはむっと頬を膨らませた。 しかし、舐めたら甘そうって……。その言葉を反芻してしまい、キルシュは更に頬を赤くした。 「……機械人形の癖に変態よ、不浄よ。ファオルと関わりがある時点で、貴方って一応は刻の偶像に関わりがある神聖な存在なんでしょ?」 対するケルンは、目を細めてどこか気まずそうに顎を掻く。 「あのなキルシュ。さっきも言ったが、俺は〝出来損ない〟だ。完全じゃないんだよ。だから、人と同じ成長してるし、普通に男として機能はあるんだよ」 ──無防備なおまえが心配になる。でも、そういう事も普通に考えるのは構造上、仕方ないだろ。……なんて、彼はふて腐れたようにブツブツと言った。 こうも精悍な面なのに、表情をコロコロ変えている所を見ていると、本当に人間らしいなと感心してしまう。しかしこれを言っていいものか。キルシュは、彼に着せてもらったシャツの裾をきゅっと握って居住まいを正す。「確かに貴方の事は、元が人間だと分かっているけど……」 ……自立し思考し、自我を持つ。それは人と何ら変わらない。それに、呼び覚ました記憶の中の彼は間違いなく人だった。今と髪色も瞳の色も違うが、それでもはっきりとした面影があり、大人へと成長した姿なのだろうと分かる。 しかし、どうしてそんな姿になってしまったのだろう……。 きっと、相応の理由があるのは、考えなくとも理解できた。 蘇った記憶の断片では元親友。とはいえ、自分にはこれまでの記憶なんて一つも無いし覚えていない。出会ってたったの一日だ。 ──元が人間だの言わない方が良かった。キルシュはすぐに後悔した。「ごめんなさい、私、とても無神経だった」 キルシュは素直に詫びた。気分を害してもおかしくない事だ。
Last Updated : 2025-04-25 Read more