「スノードロップ……?」 キルシュはしゃがんで、その花に触れた。 俯いて咲く白い小さな花には三枚の花弁がある。 しかし、スノードロップの開花時期には早すぎるだろう。古い伝承では、色を持たない雪がスノードロップから色を貰って感謝の印に春一番に花を咲かせる栄光を貰ったのだと言い伝えられている。 そう。開花時期は年明けの二月・三月で……。 自分の持つ力の事もあり、自然に草花に興味を持って把握していた部分もあるが、スノードロップ自体が極寒の時期に咲く珍しい花だからこそ、その生態をよく覚えていた。 しかし、ここまで広大な規模の群生は見た事も無い。その様は、まるで絵画のように美しく幻想的だった。 だが、この花が〝死〟を象徴し〝慰め〟という意味も持つ事から、どこか哀愁的にも映ってしまった。 そう。全ては薙ぎ倒された破屋に結び付く。この場所にはかつて人が住んでいた形跡が充分にあった。規模の小さな集落だろうか。倒れ朽ちた建築物から、そこそこ栄えていたものだと分かり、キルシュは立ち上がりケルンに視線を向けた。「ケルン、ここって……」 「スノードロップの話をしたとしても、そこまで突っ込んだ話をする事は想像してなかった……〝遺跡に咲く花が綺麗〟とか言うつもりだったのに。少し辛気臭いデートになっちまったな」 やれやれといった調子で頬を掻きケルンは続けた。「さっきの話の続きにもなるが、狂信者たちが森に居続ける理由はこの場所が理由だろうな」 言われて、キルシュの脳裏には一つの憶測が立った。 否、それ以外無いだろうと。ハッとした面持ちでケルンに向き合えば、彼はそうだと言わんばかりに頷いた。 「多分、キルシュの想像通りだよ。狂信者たちは皆ここに住んでいた人間だ。そして、永遠にこの近辺一帯を離れる事もできない地縛霊だ」 「でもどうして……ここで何が起きたの」 眉をひそめてキルシュが訊くと、ケルンは瞑目して首を振った。 「俺もあいつらに向き合う最中に過去を視たが、如何せん断片的でな。ただ分かったのは三○○年も昔に起きた宗教戦争で罪も無いのに〝やましい存在〟にでっち上げられて、俺たち能有りの先祖に居場所も命も奪われた事くらいしか分からない」 「……やましい存在?」 確かに、能無したちは時代を切り裂く為に革命
Last Updated : 2025-05-21 Read more