「それじゃ、私は?」 アリシアの問いに、ヴィクターは少しだけ間を置いてから答えた。「風を読んでくれないか。毒が空気に乗るなら、どこへ向かってるかを探る必要がある。風脈が乱れている場所を見つけて、流れを遮る方法を考えてほしい」「風の流れ……」 アリシアがヴィクターの横に立ち、窓の外に目を向けた。 外は異様なほど静かだ。 日中だというのに石畳の広場には誰もいない。私たちのように街の人たちも不穏な空気を感じ取っているのだろうか。外出するのを避けているのかもしれない。 風が通るはずの道筋が、何か目に見えぬものに押し返されているかのように、風の流れが滞っている。 この空気の淀み── それは舞手としてのアリシアにとって、身体の動きに風が応えてくれない拒絶感に似ていた。 風の通り道に見えない壁でもあるのだろうか。「風を読むか……」 アリシアが逡巡していた時、ふと記憶がよみがえった。「そう言えば……」 道具屋の主人との会話を思い出す── 自分の特性に適した鉱石を探していたとき、アリシアは何度も店の主人に質問を投げかけた。「私に合いそうな鉱石って、ありますか?」 主人は少し首を傾げてから、アリシアの顔を見つめた。「合いそうな鉱石?」 主人がアリシアに目を向けて問いかける。「はい、こういった物を使うのは初めてなんです。何を買って良いのか分からなくて……」 アリシアは少し肩をすぼめながら答えた。 主人は頷き、棚の奥を見ながら言った。「こういうのは自分の性格に合うものや、特性に合ったものを選ぶのが一番だよ」 主人が動きを止め、そしてアリシアに目を向けた。 アリシアは、どうしたのかと思い、主人を見つめる。「君は確か……、舞踏会に出ている人ではないか? 動きが滑らかで、風を巻くような……。あの人気の舞手……だったら、これなんかどうだい?」 そう言って、主人は棚の奥から小さな鉱石を取り出し、アリシアの掌の上に置いた。 青灰色の結晶が柔らかく震えている。 振動というより、呼吸をしているような、それ自体に生命を帯びていると思わせるものだった。 たった今、目を覚まし、世界の気配に耳を澄ませているかのように、水晶は微細な揺らぎを繰り返している。 アリシアは思わず息を止めた。 この結晶の震え── 指先に染み込むように伝わってくる。それは皮膚
최신 업데이트 : 2025-09-17 더 보기