アリシアは、ふと空を見上げた。──風の向きが変わった? 心なしか気温も下がった気がする。 それは突如としてではなく、じわじわと空気の層がずれ込むように始まった。広場を吹き抜けていた風が、まるで何かに引き寄せられるように方向を変えていく。 瓦礫の隙間を抜け、地面に倒れている町民の髪を揺らす。喰い花の茎を撫でながら、すべての流れが紋様の中心へと吸い込まれていった。 空気は渦を巻き、見えない螺旋を描いている。その中心に浮かぶのは、白仮面が刻んだ青白い紋様──。 光は脈打ち、一定の間隔で明滅している。──あの人たち、何をしているのだろう。今の状況で毒が撒かれたら、この場に居る人たちは…… 町民たちは状況を理解できず、その場に立ち尽くしている。 逃げる術も、判断する余地もない。しかし、白仮面たちは周囲にいる人々のことを気にも留めなかった。誰一人として言葉を発することなく、紋様の完成を冷酷に見届けている。 やがて、一人が足を踏み出した。それに続くように、他の仮面たちも動き始める。隊列を組むわけでもなく、ばらばらに。しかし、奇妙な統一感をもって── 彼らの歩みには目的地へ向かおうとする意志が感じられない。ただ空間を移動するという無機質な行為だけがそこにある。 遠目に眺めていると、町民の一人がよろめきながら白仮面たちの進路を塞ぐのが見えた。しかし、白仮面たちはその存在を意にも介さず、足で蹴り上げ、無造作に押しのけた。 その足取りには、感情も、ためらいも、一切の人間性もない。一人の人間が地面に倒れ、呻き声を漏らしても、白仮面はただ冷たく見下ろすだけだった。 その光景をアリシアは瓦礫の陰から見つめることしかできなかった。胸の奥に絡みつく怒りと恐怖に息が詰まる。 助けたい──そうは思う。 だけど、足が動かない。 あの白仮面たちに近づけば、きっと自分も蹴り飛ばされてしまうだろう。いや、それだけでは済まないかもしれない。 その想いがアリシアをその場に縛りつけた。 逃げたいのか、抗いたいのか──自分でも分からない。 瓦礫の陰に身を潜めたまま、アリシアは胸元の襟を握りしめた。布地が指の間でよじれ、爪が肌に食い込む。 動こうとする意志と、動けない現実が、身体の内側でぶつかり合っている。アリシアの視線は自然と地面に落ちた。 すると、その視線の先で、砂粒がわ
최신 업데이트 : 2025-10-02 더 보기