エレナは矢筒に手を戻しながら、目を細めた。──倒した。 氷が軋む。 だが、執行者の身体はそのまま凍結され、動く気配はない。 確かに動きは止まった── リノアとリュカは無事だろうか。 そう思い、エレナが振り向く。 焚火の光に照らされたリノアはまだ眠りの中にあり、胸がわずかに上下している。その安らかな寝顔にエレナは少しだけ頬を緩ませた。──あれっ、リュカは…… リュカの姿がどこにも見当たらない。 しかし、気配は感じる。 今、この沈黙の中にいるのは、夢の中のリノアと、氷に囚われた執行者──そして、気配だけを残すリュカ。 風が止み、森が息を潜める。 リュカは、つい先ほどまで敵だった。あの執行者と同じ側にいた人間だ。幾らか緩和したとは言っても、ゾディア・ノヴァの教えが完全に無くなったわけではない。 まさか…… 疑念が胸をよぎる。先ほどまでのリュカの姿は演技だったのか。 エレナは弓を握り直し、前を見据えた。 焚火の向こうに揺れる影── 指先が冷え、心臓が一拍遅れて脈打った。 リュカだ。 だが、リュカは闇の向こうの存在を見ていない。その視線が捉えていたのは、エレナだった。 リュカの瞳に冷徹さが戻っている。感情のない、命令を遂行する者の目──「……終わったと思ったのか?」 リュカは剣に手をかけ、ゆっくりと構えを取った。 その声は低く、冷たい。まるで執行者の声が乗り移ったかのようだ。 焚火の光が刃に揺れ、沈黙が鋭く裂かれる。 その動きにエレナは息を呑んだ。 目の前にいるのは、先ほどまでのリュカではない。意志を抜かれた操り人形のようだった。 リュカは微動だにしない。 その沈黙は刃よりも鋭い。 焚火の炎が揺らめく中、エレナは息をすることさえ忘れ、リュカを見続けた。 エレナがリュカの動きを注視していた時──氷の中の執行者が笑った。 その瞬間── エレナの背後から何かがエレナの背中に襲い掛かった。 それはリュカでもなく、執行者でもない。名もなき闇。 エレナが振り返るより早く、黒い霧のような腕が喉元を狙って伸びる。──しまった。避けられない……「伏せろ!」 リュカが剣を振るって闇の腕を弾き飛ばす。 火花が散り、空気が震える。焚火の光が一瞬、逆巻くように揺れた。「油断するな、あれこそが術者だ」 リュカの目は変わ
Terakhir Diperbarui : 2025-08-31 Baca selengkapnya