「グレタたちがどこへ向かうにせよ、グレタがこの村を訪れた理由を軽視するわけにはいかない」 ただ買い物に出かけたというわけではないだろう。グレタは何かを企んでいる。「覚悟を決めなければならない時が来たのかもしれない」 クラウディアはそっと呟いた。 リノアを危険な目に晒すわけにはいかないが、グレタが言っていたように、もうそのようなことを言っている場合ではない。 リノアの力を信じなければ、この村の未来は守れないのだ。「トラン、ミラ、お前たちは寒い中、本当によく頑張ってくれている。村のみんなも二人の働きを頼りにしているよ」 クラウディアの声には冷静さと共に温かな励ましが込められており、その言葉は二人の心に安堵をもたらした。 クラウディアは視線をトランへ移すと、穏やかだが確固たる口調で続けた。「トラン、ひとつ頼みたいことがある」「僕に……ですか? 一体、何をすれば……」 トランは困惑した表情を浮かべた。ミラが不安そうな顔でトランを見つめる。「リノアとエレナが森の小屋で作業をしていると思う。二人に伝言を届けて欲しい」 クラウディアは言葉を慎重に選び、トランを見つめた。「トラン、無理しない方が……」 トランは姉の視線を受け流すように顔を上げた。「大丈夫だよ、ミラ。僕だって、それくらいのことはできるよ」 その言葉には、年下ながらも自分の力を証明したいという強い意志が感じられる。「クラウディア様。任せて下さい。シオンが研究していた小屋ですね。すぐに向かいます」「シオンの研究所までは安全だから良いが、それより先は危険が潜んでいるかもしれない。トラン、先に進むんじゃないよ。リノアとエレナが小屋にいなかった時は紙を置いて直ぐに戻っておいで」 そう言ってクラウディアはトランに一枚の紙を手渡した。「分かりました。そうします。クラウディア様」 クラウディアの言葉を胸に刻み込み、トランは顔を引き締めた。 ランタンを手にして広場を出て行くトランの背中は、迷いを振り払うようにまっすぐ伸びている。「ミラ、トランなら大丈夫よ」 クラウディアは不安そうにしているミラの肩に手を置いて、優しく声をかけた。ミラが唇をかみながら、小さく頷く。 広場の空気は冷え込み、鋭い寒気が肌を刺すようだった。薄く立ち込める霞の中で、クラウディアは遠ざかっていくトランの背中を目で
Last Updated : 2025-04-13 Read more