■〜第二章 邂逅〜■ 翌日。 竜虎は姜燈に何度も、それは耳に胼胝ができるほどしつこく念を押された。「いい? なにかあったら必ず知らせを飛ばすこと。無謀なことはしないこと」「無明が馬鹿なことをしないように眼を光らせること、でしょ。何度も聞いたから大丈夫だよ、母上」 そもそも普段の無明は姜燈が思っている何倍もまともだ。さすがに他の一族の前でいつもの"あれ"をすることはないだろう。白群の公子とはいつの間にか仲良くなっていたし、今更痴れ者になる必要もない。「兄様、気を付けてね、」 璃琳は心配そうに眉を寄せて、竜虎の両手を取って別れを惜しむ。確かに寂しくないわけではないが、今は好奇心の方が勝っていた。「璃琳も元気で。無明のことは心配無用だ」 最後の方は耳打ちするように小声で伝える。べ、別に! 心配なんてしていないわっ! と璃琳はあからさまに動揺して声を荒げた。 無明も今頃、同じように藍歌と別れを惜しんでいることだろう。「竜虎これを持って行って? 怪我をしたら使うといい。傷に良く効くはずだよ」 あの一件で少しやつれたように見える虎珀だが、いつものように微笑んで貝殻でできた薬入れと薬草を詰め込んだ袋を手渡す。 ありがとう、と竜虎は頷く。大変な時なのに自分のために用意してくれたのだと思うと嬉しかった。それに比べて血が繋がっている方の兄の姿はない。自分のことなど眼中にないのだろう。「戻ってきたら、虎珀兄上の力になるから期待して待ってて」 母に聞かれないように小声で伝えると、虎珀は首を振った。「こちらのことは気にしなくていい。君は君のために頑張って」 竜虎は虎珀らしいと思いながらも、心の中で最初の誓いを叶えられるように精進しようと決める。「白群の方々を待たせても悪い。竜虎、私からは、昨夜の内に十分言葉は送ったから必要ないだろう。しっかり学んで来なさい」「はい、父上。では、行ってきます」 前で腕を囲って丁寧に揖し、深く頭を下げる。顔を上げ、地面に置いていた荷物を持ち、そのまま見送りに来てくれた者たちに背を向けると、無明の邸の方へと歩を進める。 若い青年の従者が、その後ろをそそくさとついて歩く。飛虎たちが見えなくなった頃に、その従者が恐る恐る竜虎に声をかけてきた。「······あ、あのぅ、竜虎様?」「どうした? なにか忘れ物か?」「い、いえ!
Last Updated : 2025-05-05 Read more