無明がした生返事を承諾の意として、少陰はパンと小さな手を正面で叩き、そのまま突き出すように前に広げる。 途端、無明の足元に白い大きな花の形の陣が現れる。それは本物の花が咲くように、大きな四枚の花びらが中心で開き、そのまま身体を呑み込むように覆って閉じてしまった。 人ひとり呑み込んだその白い花は、大きな蕾になり、一瞬にして静寂が訪れる。「妙に急いでいるように思えるけど、なにかあったの?」 逢魔は最初こそ敬語だったが、その後はいつも通りに人懐っこい口調で少陰を見下ろす。 「お前たちも見て来たであろう? あの都を。病鬼が現れ、疫病を撒いた。だが現状、問題はそこではないのじゃ」「どういうこと?」 少陰は頭が痛いとでもいうように、片手でこめかみを押さえて大きく息を吐き出す。口には尖った牙がちらり見える。「十人の少女たちがひと月半前くらいから次々に失踪していて、未だ行方がわからん。数日前から姮娥の宗主の三女も行方知れずになった。怪異なのか人の手によるものなのか、妾はここを離れられんので解決してやることも叶わない」「ひと月半くらい前っていったら、」 無明たちが紅鏡を出て、碧水に着いた頃である。これは偶然だろうか? それともこれも企みのひとつだと言うのか。 逢魔は白笶に視線を送ると、同じことを考えていたのか小さく頷いた。偶然などではない、と。「けれども、それと病鬼がどう関わって来るんだろうね? バラバラに切り離して考えるべき?」「都でなにか情報が得られていればいいのだが、」 少女たちの失踪はひと月半ほど前くらいから、最初は十日ほど置きに、次は五日置き、三日置きとどんどん間隔が縮まり、十人目で止まったらしい。 その後に疫病が流行り、代わりに失踪は止まった。しかし三日前に急にまたひとり増え、しかもそれは姮娥の宗主の三女だなんて。「でも少陰姐さんはどこでそんな話を聞いたの?」 ふと、疑問が浮かぶ。神子の命がない限り、この堂を離れられない少陰は、都のことなど知る由もないだろう。千里眼があるわけでもない。「それは、ここによく来て手入れをしてくれる寡黙な少女が、妾の堂の前で訴えたからじゃ。姮娥の宗主の次女だったか。事情は詳しく訊かずとも触れれば大体わかるからの、」「大胆なことをするよね、姐さんは」 見えないとしても、普通の人間に触れるだなんて。一応神
Last Updated : 2025-12-08 Read more