「何をしている、ロンダート卿! 早くその子を親と同じ所へ送ってやれ!」 耳慣れぬ鋭い声が、微かに聞こえてくる。 それに答えるのは、懐かしい父の声だった。 「で、出来ません! 敵国に連なる者とは言え、幼い子どもを……」 「子供一人敵国に残されて幸せだと思うか? ひと思いに殺してやるのが思いやりだろうが!」 激しいやりとり。 無数の白刃がその答えを待つかのように、ある一か所を取り囲んでいる。 が、一際豪奢な装備を付けた分隊長と思しき人物が一歩踏み出す。 「ならば、私が貴官に代わって親のもとへと送ってやる! そこをどけ!」 刹那、幼い子どもの叫び声が空間を支配する……。 そのあまりの悲痛さに、ユノーは思わず耳をふさぐ。 「……罪を背負った人間は、死後安住の地へ導かれることなく、地の底で永久に焼かれ続ける。あくまでも昔猊下から聞いた話の受け売りだがな」 固い声がユノーを現実世界に引き戻した。 感情を写さぬ藍色の瞳は、遥か彼方に向けられていた。 「それが事実だとしても、お前は戦場へ行くつもりか? 」 「……では、ご無礼と承知でお尋ねしますが、どうして司令官殿は戦場に身を置かれるという道を選択なさったのですか?」 「死ぬため、かな。……俺は今まで、『死ぬ』為に生きてきたようなものだから。全てが無くなったあの時から……」 感情のない声が、即答と言って良いほどのタイミングで戻ってくる。 凍り付いた藍色の瞳は、彼方を見つめたままだ。 『生への執着こそが蒼の隊の必須条件』と言った人がなぜこんなことを言うのだろう。 しばしためらった後、ユノーは再び食い下がる。 「……それではあまりにも寂しくはありませんか? 誰もそれを止めようとはなさらないのですか?」 低い笑い声が、それまで感情を表さなかった司令官の口から漏れる。 「そんな暇人はいないな。少なくとも、今の俺には貴官と違って血縁者もない。世の中の右と左がわかってきた頃には、司祭館で修練漬けだ。神官の適性がなかったのがせめてもの救いかな……」 「おこがましいこととは思いますが、」 突然、ユノーはその言葉を遮った。 瞬間、藍色の瞳は未だ手を汚していない金髪の青年に向けられた。 そこにはユノーが今まで見たことのない複雑な光……強いて言えば後悔、怨念、懺悔と言っ
Terakhir Diperbarui : 2025-04-05 Baca selengkapnya