棺を乗せた馬車か皇宮の敷地内にあるフリッツ公の本宅にたどり着くと、ユノーとシグマ、そして家人達がそれを迎える。 「つけてくるような怪しい動きはありませんでしたか?」 ユノーからの問いに、御者台から飛び降りたペドロは首を横に振る。「いいえ。さすがに葬列を襲うような恐れ知らずはいなかったようです」 それから手分けして棺を馬車からおろすと、いつもとは異なり侍女の装いのシモーネに導かれ、地下の墓所ではなく、屋敷内のもっとも奥まったところにある普段は使われていない部屋へと運び込んだ。 そこでは神官の長衣姿のジョセが、その到着を待っていた。 室内に棺を置くと同時に扉は閉じられ、窓にかけられている垂れ絹《カーテン》も厳重に閉められる。 それを確認すると、ユノーは注意深く棺の蓋を開く。 その中には、身じろぎすらしないシエルが収まっていた。「敵に怪しまれないためとはいえ……。申し訳ありませんでした」 謝りながらユノーはシエルを抱きかかえ、整えられた寝台の上にその身体を横たえた。 ペドロから件の短剣を受け取ると、ユノーはシエルの手にそれを握らせる。 けれど、シエルは相変わらず空虚な視線を天井に向けたままだ。 やはりもう手遅れなのだろうか。 そんな思いが、一瞬ユノーの脳裏をよぎる。 激しく頭を左右に振りその考えを振り落とすと、ユノーはジョセをかえりみた。 厳しい表情を浮かべうなずいたジョセは、寝台に歩み寄りその傍らに立つ。 すいと手を伸ばしシエルの額に掌をかざすと、重々しい声音で癒やしの言葉を唱え始める。「……汝に平安あれ」 ついにその祈りが終わった刹那、シエルの身体がぴくりと動いたような気がした。 が、それ以上の変化が起きることは残念ながら無かった。「そんな……。前はこれでもとに戻ったんだろ? どうして……」 思わず声を上げ、ジョセに掴みかかろうとする勢いのシグマを、ペドロはあわてて押しとどめる。 その脇でユノーは両の手の拳を握りしめることしかできなかった。 わずかに苦悩の表情を浮かべ、ジョセは一同に向かい深々と頭を下げた。「弟子のために尽力してくださりありがとうございます。すべては私の至らなさが……」 そんなジョセに、ユノーはあわてて声をかける。「お手をお上げください。僕……小官がもっと早くに助け出していれば……。申し訳……」
Last Updated : 2025-12-11 Read more